育休中に会社から「別の仕事をやってもらうかもね」 復帰が不安、受け入れないとダメですか?【社労士が解説】
昨年の春に第一子を出産し、産休・育休を取得していた30代の女性Aさんは、子どもが1歳を迎えるため、今年の4月から復職することにしました。復職するにあたり、保育園に申請するための書類の記入が必要なため、久々に職場へ電話をかけ、産休・育休以前に働いていた人事部の上司に取り次いでもらいます。
Aさんは上司に復職することと保育園の申請について相談していると、上司から「Aさんがいない間に仕事のルールが結構変わったよ」という言葉を聞きます。この言葉を聞いたAさんは、あらかじめどんな変更があったのか知りたくなり、同僚にも電話をしてみることに。
久しぶりに話す同僚にAさんは復職することを伝えると、同僚は快くルール変更について教えてくれました。しかし電話の最後に同僚から聞いた「Aさんがやってた仕事は別の人にやってもらってるし、Aさんには別の仕事をやってもらうかもね」という言葉に、Aさんは不安を感じます。
Aさんは人事部の仕事を長年やってきたこともあり、自分の担当外のこともある程度理解しています。しかし、育児をしつつも今までと全く違う仕事ができるとは断言できません。配置換えや業務内容の変更は、受け入れなければならないのでしょうか。社会保険労務士の渡邉朋宏さんに話を聞きました。
■会社からの要望は原則受け入れなければならない
ールールの変更や別の仕事への配置換えなど、育休取得者は受け入れなければならないのでしょうか
結論を言うと、原則は受け入れる必要があります。育休復帰後に部署や業務内容が変更されていても、企業が合理的な理由を説明し、待遇面などで不利益が生じなければ、拒否することはできません。
理由は、企業には経営・人事権があり、合理的な理由がある限り業務転換は認められているからです。これは育休を取得した人に限らず、すべての従業員に該当します。
ただし育休を取得したことで、次のようなことが起きた場合は、受け入れを拒否できます。
・明らかなキャリアの低下や昇進・昇格に不利な異動の場合
・復帰後の業務内容が雑務中心で、業務内容の質が著しく低下している場合
・別の雇用形態に変更された場合(例:正社員→契約社員)
・子どもの保育園などの都合をまったく考慮していない配置転換だった場合
このようなことが生じる場合は、企業の所在地を管轄する労働基準監督署に相談してみてください。
■産休・育休中でも月に1回程度連絡を取ることが理想
ー産休・育休を取得する従業員に対して企業はどのような対応を取るべきなのでしょうか
企業は法的義務を果たすことはもちろんのこと、従業員の不安を軽減し、職場にスムーズに復帰できるようサポートしなければなりません。具体的には次の3つの段階でコミュニケーションを取るといいでしょう。
<産休・育休に入る前>
産休・育休に関する社内規定、公的手当金・社会保険の手続き方法の連絡や、休業期間の過ごし方の説明をします。この時点で、現在の仕事の引き継ぎや復帰後の希望の働き方を確認できるといいでしょう。
<産休・育休中>
産休・育休期間中において、月に1回程度は企業の情報や業務、従業員の状況を共有することが望ましいです。特に中小企業は事業がスピーディに動くことが考えられます。産休・育休取得者が復帰後に働き方をイメージしやすいようにすることがポイントです。
<産休・育休から復帰する直前>
復帰する直前は面談を通して、希望の働き方を確認し、企業が求める復帰後の業務内容と調整を行う必要があります。従業員は復帰にあたり、仕事と子育ての両立に関する不安を抱えていることが多いため、企業としてどこまで支援ができるかを丁寧に確認する必要があります。
■2025年10月から仕事と育児の両立への配慮が義務化される
ー育児介護休業法の改正で、具体的にはどのような配慮が必要なのでしょうか
2025年10月の育児介護休業法の改正により「仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮」が義務化されます。この改正により、従業員が妊娠・出産などを申し出たとき、子どもが3歳になる前の2回に渡り、対象従業員に個別の意向聴取を行い、聴取した意向について配慮をする必要があります。聴取内容は次の4つです。
・勤務時間帯
・勤務地(就業の場所)
・両立支援制度等の利用期間
・仕事と育児の両立に資する就業の条件(業務量、労働条件の見直し等)
もしこれらの制度が整備・確立されていないようであれば早急に検討・整備をおこなう必要がありますので、チェックしてみてください。
◆渡邉朋宏(わたなべ・ともひろ)
リベルテ社会保険労務士法人の代表社員。民間企業・官公庁を日雇いから正社員まで経験。その後起業をし、現在も別会社にて経営マネジメントを担当。労働組合の役員に所属した経験もあり、経営者と労働者等、多角的な視点で労働問題に取り組むことを得意とする。
(まいどなニュース特約・長澤 芳子)
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