悪性腫瘍を放置されたトイプードルの繁殖犬 小さな体には生きるエネルギーが秘められていた 獣医師の見立ての余命期間を超えた幸せの日々を走り抜けた
長崎のある繁殖場に、長らく繁殖犬として酷使されたオスのトイプードルがいました。後に「ゴウくん」と名付けられたこのワンコは人間の「道具」として望まぬ繁殖に繰り返し使われ、喉の腫瘍や前脚の骨折など満身創痍の状態でした。
特に喉の腫瘍は悪性であり、肛門周囲への転移も確認されました。しかし、こんな状態になるまで当のブリーダーは放置しました。
■人間の愛に包まれ旅立って欲しい
このままゴウくんがその生涯に幕を閉じることがあれば、人間の愛を全く感じることもなく、ワンコらしい喜びも知ることもなく、この世を去っていくことになります。そんな理不尽な話があるものでしょうか。
このゴウくんの存在を知った福岡県のボランティアチーム、わんにゃんレスキューはぴねすでは、ゴウくんをレスキュー。
保護前、団体では「できれば優しい里親さんに譲渡し、幸せを掴んで欲しい」という希望も抱いていましたが、保護後の検査でその病状がさらに深刻であることがわかりました。
新しい里親さんを見つけるのは困難な状態でした。
そこで、「譲渡は難しくとも、せめてその晩年だけは人間からのたっぷりの愛情を受け、幸せに旅立ってほしい」として看取り保護に変更。そして、団体提携の預かりボランティアのEさんの家に迎えられることとなりました。
■他のワンコに威嚇する元気な様子も見せてくれた
Eさんからのたくさんの愛情を受け、ゴウくんはやっとワンコらしい自由な生活を送れるようになりました。
Eさんの家の近所をのんびり散歩したり、お花見や公園へ出かけたり、他のワンコと一緒に大好きなお芋を食べたりと、楽しい思い出をいくつも作っていきました。
そして、保護当初は「本当に僕は自分を出して良いのかな」とモジモジしていたゴウくんでしたが、次第にプードル特有の気の強さで、この家に来た新しい保護犬に「ワンワン!」と威嚇する姿も見せるようになりました。普通であれば、たしなめたいところですが、ゴウくんの持病や過去の経緯を鑑みれば、これもまたワンコらしい幸せなイチ場面。
むしろ、こんな風に「本来の自分」を出してくれるようになったのは喜ばしいこと。Eさんは「小さな体で生きるエネルギーを発せるようになった証拠だ」として、あえて寛容にゴウくんのやりたいことを優先させてあげました。
■「僕ずっとこのお家が好きだったよ」
筆者の主観では、ゴウくんがここまで自分を出せるようになったのは、Eさんの家が心の底から安心して過ごせる環境だったからこそのように思います。
結果的にゴウくんは、当初の獣医師の見立てだった「余命期間」を良い意味で裏切り、行き続けました。気づけば3年の月日が流れ、この間、幸せいっぱいの生活を送ることができました。
しかし、ある日のこと。あれだけ元気に過ごしていたゴウくんに異変が起こります。体調を崩しているのか、なかなか起き上がろうとせず、その表情にも精気がありません。
Eさんは、急いで動物病院にゴウくんを連れて行きました。医師の診断は「腎不全」。言うまでもなく、命にかかわる病気です。投薬などで一時的に体調を取り戻したものの、再び炎症反応の不安定な状態が続きました。
それでもEさんは「もし、ゴウくんの寿命が残り少ないものであるのだしたら、特に最期は家で看取ってあげたい」と願い獣医師に相談していました。しかし、その相談の最中に、ゴウくんは静かに息を引き取りました。その最期は、病院でしたが、深い愛情に包まれた3年間は、ゴウくんにとって間違いなく幸せな時間だったことでしょう。
大好きなEさんとパパさんに見送られ、ゴウくんは空へ旅立ちました。
その安らかな表情は、これまでお世話してくれたEさんに「ありがとうね」「僕ずっとこのおうちが大好きだったよ」と言っているようにも映りました。
(まいどなニュース特約・松田 義人)
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