スタッフ全員が「店長についていきます!」独立を決意したら、まさかの展開…「引き抜きになるの?」【弁護士が解説】

美容室の店長として日々奮闘するAさんは、お客様の笑顔を引き出す技術とスタッフへの温かい指導で、周囲から愛される店づくりを心掛けていました。Aさんの努力の甲斐もあって、美容室には連日多くのお客様が店を訪れています。

そんなある日、予約でびっしりと埋まった土曜日の午後にオーナーから突然の電話が入りました。「30分後に友人が行くから、必ず対応するように」という一方的な指示でした。Aさんは困惑しましたがなんとか調整して引き受けることにします。

また別の日、Aさんと同じように雇われ店長として美容室で働く知人と収入の話になった際に、自分が低い給与で働かされている事実を知ってしまいます。給与格差に加えて、先日のオーナーの無茶な指示を思い出したAさんは、自分が働いている環境に疑問を感じ始めました。

さらに別の日、休憩時間にスマホでSNSを見ていたスタッフが、「店長!これ見てくださいよ!」と怒りながらスマホの画面をAさんに見せます。そこには高級リゾート地で豪遊するオーナーの姿が映し出されていました。画像を見ながらショックで固まってしまったAさんに向かって、スタッフは「こんなに遊んでいるのに私たちの給料は上がらないんですね」と吐き捨てるように呟きます。

この一連の出来事がきっかけで「もうやってられない」と考えたAさんは、密かに独立を決意します。店の営業を終えてから独立に向けた準備を始めていたところ、スタッフの全員に知られてしまい「Aさんについてきます!」とみんなに言われてしまいます。

自分を慕うスタッフとであれば理想の店が作れるという思いが浮かぶ一方で、現在の店からスタッフを連れて行くことは、法的に問題がないのか気になります。Aさんはスタッフを引き連れて独立しても大丈夫なのでしょうか。まこと法律事務所の北村真一さんに聞きました。

ースタッフを引き連れて独立すると罪に問われますか?

店長として働いているうちにスタッフに対して引き抜き行為を行うと、民事上の責任を負う可能性があります。1991年(平成3年)の東京地裁判決で、英会話教室の従業員の引き抜き行為に対して引き抜きを図った従業員に賠償を命じています。就業規則を遵守すべき従業員が使用者の正当な利益を不当に侵害していると判断されたからです。

Aさんの場合も使用者の利益を不当に侵害していると判断されれば、賠償を命じられる可能性があります。

ーAさんが退職後であれば問題はありませんか?

上記の根拠は雇用契約に基づいているものであるため、退職後であれば問題はなくなります。つまり退職後であれば、スタッフを引き抜いても基本的には違法ではないということです。

ただし、退職時に引き抜き行為を禁止するような合意をしていれば、違法と判断される場合もあります。また、引き抜きによって元の店の営業が立ち行かなくなるなど、社会通念上自由競争の範囲を逸脱していると判断されれば、違法と判断される可能性があります。

ー違法か適法か違いはどこにあるのでしょうか

会社の正当な利益を侵害しているかどうかがポイントになるかと思います。会社に内密に独立や引き抜きの話を進めて、一斉に退職というように会社に損害を与えるような場合は違法と判断される可能性があります。一方で、通常の転職の範囲であれば特に問題にはされないでしょう。

オーナーがどんな人であったとしても、後でもめないように円満に解決できるよう交渉することをおすすめします。

◆北村真一(きたむら・しんいち)弁護士 「きたべん」の愛称で大阪府茨木市で知らない人がいないといわれる大人気ローカル弁護士。猫探しからM&Aまで幅広く取り扱う。

(まいどなニュース特約・長澤 芳子)

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