最後の国鉄型特急381系がいよいよ歴史に幕 カーブ区間も高速走行 乗り物酔いでありがたくない異名も 伯備線走った40年振り返る

 国内で唯一定期運行する旧国鉄時代の特急電車が引退の時を迎えようとしている。JR伯備線の特急「やくも」として40年以上、山陰と岡山を結んだ381系特急電車のことだ。カーブ区間も高速走行できる自然振り子式を国内で初めて実用化した車両はスピードアップを実現した一方、揺れによる乗り物酔いも引き起こし、「はくも」と揶揄(やゆ)されたこともあった。昭和、平成、令和と三つの時代を走り抜けた381系特急やくもの歴史を、デビュー当時などの写真を交えて振り返る。

 普通列車とは一線を画す威厳のある“顔立ち”だ。運転席は一段高い位置に設置され、先頭車両前面には、国鉄特急のシンボルマークである金と銀の逆三角形が輝く。カーブを走り抜ける姿は、陰陽連絡路線の主役としての自負すら感じさせる。

 デビュー当時のクリーム色に赤色のラインが入った「国鉄色」や紫色を基調にした「スーパーやくも色」などのリバイバル塗装と、現行の窓周りが赤い「ゆったりやくも色」の歴代4種類の車両がそろって見られるのも4月5日まで。ラストチャンスを逃すまいと、沿線ではカメラを手にした鉄道ファンが多く見られた。

 岡山県総社市のJR豪渓駅近くでは、関東から訪れた二人組の男性が待ち構えていた。群馬県から来た会社員男性(49)は「振り子式電車はカーブで傾く姿がかっこいい。少年時代から憧れだった車両を写真に残したかった」、千葉県から来た会社員男性(44)は「どの色も思い出深く、甲乙つけがたい。全色撮影ができて良かった」。二人とも満足そうな表情を見せた。

■振り子式採用でカーブもすいすい

 381系は山地を縫うように敷かれた路線のスピードアップを目的に旧国鉄が開発。227両が製造された。最大の特長は日本初の「自然振り子式」の採用だ。台車と車体の間に「コロ」と呼ばれるローラーを設置。カーブに差し掛かると、遠心力で車体が内側に最大5度まで傾き、スムーズに走行できるようになった。急こう配も苦にしないパワフルさも売りだった。

 京都鉄道博物館の島崇学芸員は「都市間輸送の速達化に貢献した381系の振り子式の技術は、その後も進化を続け、多くの車両に引き継がれている」と評価する。「重心を下げるためクーラーが床下に収納され、よく見ると屋根がすっきりしている」と特徴も教えてくれた。

 1973年、木曽路を走る中央西線の特急「しなの」に投入され、紀勢線の特急「くろしお」、新大阪と城崎温泉を結ぶ特急「こうのとり」としても走ったが、老朽化に伴いいずれも引退。唯一乗車できるのは、伯備線の「やくも」だけになっていた。

■熱狂の中でデビュー

 特急「やくも」の歴史にも触れておこう。1972年3月の山陽新幹線岡山開業に合わせて誕生した。初代は中央西線や奥羽線で走っていた181系気動車が採用されたが、編成が他の路線と比べて長く、食堂車も備えていたため、鉄道ファンのあこがれの的だった。

 1978年8月31日付の山陽新聞夕刊には「SLブーム去り ネームドトレイン脚光 『やくも』に熱い目」という見出しが躍る。SLからブルートレインや特急列車へ人気が移ってきたことを紹介。岡山県内では複線化工事に伴い廃線となった新見市の足見(たるみ)鉄橋を通る初代やくもを撮影しようとファンが集まっていたという。川に足を浸しながら一瞬を狙う様子は、真剣そのものだ。

 2代目やくもとなる381系は1982年7月1日の伯備線電化開業とともにデビューした。振り子電車はカーブ区間の多い同線で威力を発揮し、初代に比べて所要時間(岡山-出雲市間)は約20分短縮。観光やビジネスの足としての期待が高まった。

 「岡山駅は異様な熱気に包まれた。七番ホームに陣取ったファンが一斉にカメラを構え…セレモニーが始まると、お隣の六番ホームにまでファンが押し寄せ、止まっている山陽線の電車の窓から、身を乗り出しシャッターを切っていた」

 初日の様子を紹介する1982年7月2日付の山陽新聞朝刊の記事や写真からは、市民の熱狂ぶりが伝わってくる。停車駅だった総社駅では花火が打ち上げられ、ちょうちんや万国旗などを飾った井倉駅(岡山県新見市)では児童が運転士らに花束を渡して歓迎した。

 1994年12月には「スーパーやくも」が登場。整備が進む高速道路網に対抗するため導入した特急で、倉敷-米子間をノンストップで運行し、時間短縮を図った。パノラマカー(グリーン車)を連結し、見晴らしのよさも魅力だった。

 JR西日本は、381系の後継としてスピードと乗り心地を向上させた新型特急「WESTー21」を、2000年をめどに導入する計画を発表していたが、実現には至らなかった。代わりに2007年からは、座席の快適性を高めた「ゆったりやくも」への改造が進んだ。

■独特の揺れで乗り物酔い多発

 381系の欠点は乗り物酔いだ。振り子式によるカーブ区間での独特の揺れが原因だった。洗面所に備え付けられたエチケット袋は、不名誉な“やくも名物”になり、ネット上では紀勢線の「げろしお」と並び、「ぐったりはくも」の異名もあった。

 3月下旬、松江市への出張で利用した会社員男性(39)=岡山市=は「同僚から『揺れる』とは聞いていたが、備中高梁駅(岡山県高梁市)を過ぎたあたりから、揺れがきつくて気持ちが悪くなってしまった。資料に目を通すこともできず、次は高速バスにしようかと思う」とうんざりした表情で語る。

 「一部に『揺れ酔い』も『まず快適』」。こんな見出しが付いた1982年5月に行われた試乗会の山陽新聞朝刊の記事では、「一部の人から『揺れがひどく吐き気を催した』との声も聞かれたが、総じて印象はまずまずだったよう。岡鉄局(岡山鉄道管理局)関係者も胸をなでおろしていた」と書かれている。新型車両ということもあって、揺れに期待が上回っていたのかも知れない。

■国鉄黄金期の象徴

 長年走り続けただけに、鉄道ファンの人気は根強い。初代、2代目のどちらも乗ったことがある就実大特任教授の小西伸彦さん(65)=総社市=は、「ディーゼル時代の181系も速いと思ったが、381系はもっと速かった。カメラのシャッタースピードも500分の1秒から1000分の1秒に上げないと撮れなかった」と自慢の写真を見せてくれた。

 中でも、小西さんが注目するのは”顔”ともいえる先頭車両の形状だ。「2代目やくも登場までは、特急電車といえば『ボンネット型』と呼ばれる前が突き出したようなスタイルが主流だった時代。寝台列車として全国を走った583系電車と同じ平面的なデザインを採用した381系やくもは、まさに国鉄黄金期の象徴だった」と振り返り、「カーブをしなやかに曲がる繊細さと山岳地帯を走る力強さを備えた“職人”のような電車がまた一つ去ることはさみしい」と惜しむ。

 ブロンズ色が基調の3代目やくも273系は4月6日に運行が始まり、6月15日以降は全て新型に入れ替わる。JR西日本中国統括本部によると、「ゆったりやくも色」の2代目381系は繁忙期などに登場する可能性もあるが、年内で姿を消す見通しだという。

 新型も「振り子式」を採用しているが、地図データなどを活用して傾斜のタイミングを適切に調整し、乗り物酔いを抑える機能が搭載される。このほか、前後の座席間隔は新幹線と同等になり、快適性も向上。車内チャイムには、山陰ゆかりの4人組バンド「Official髭男dism」の人気曲が採用されるなど、旅の気分も高めてくれそうだ。新旧の乗り比べができる時期に、やくもの進化を体感するのも楽しいかもしれない。

(まいどなニュース/山陽新聞)

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