【プロが解説】高く売る機会を逃す?不動産業界の慣習「囲い込み」とは 自宅売却の知られざる仕組み
「家を買う」という話はよく聞きますが、「家を売る」となるとよく知らないという人も多いのではないでしょうか。家を売る前に知っておきたいあれこれを、不動産売却一筋15年で「売り主のミカタ」のIESUKU代表・田端梓さんに聞きました。
■ 片手仲介と両手仲介
-不動産業界でいう「片手」と「両手」。これはどういう意味ですか?
「不動産仲介の時によく出てくる言葉で、『片手仲介』と『両手仲介』のことです。まず『片手仲介』とは、売り主と買い主、それぞれに不動産会社が付く場合をいいます。例えば不動産会社Aが、売り主から家の売却依頼を受けます。売り主と媒介契約を結んだら、A社は売却情報を『レインズ(REINS)』というコンピュータネットワークシステムに登録します」
「すると全国どの不動産会社へも、その情報が平等に行き渡り、それを見た不動産会社Bから『ちょうどうちで、A社さんが出している物件をお探しのお客様がいる』と連絡が入ります。そこで売り主と買い主とがうまく契約を結べたら、売り主からA社へ、買い主からB社へ、それぞれ仲介手数料をいただきます。これが『片手仲介』です」
-じゃあひょっとして「両手」というのは、売り主と買い主、両方から仲介手数料をもらえるという意味ですか?
「そうです。例えば不動産会社Aが、自社で買い主を探して売買契約を成立させてしまうのを『両手仲介』といいます」
-それって、十分あり得る話ですね?
「はい。だから別に悪いことではありません。しかし1回の取り引きで売り主と買い主、両方から仲介手数料をいただけるので、両手仲介はうまみがあるといえます。そのため、わざと両手仲介を狙う不動産会社が出てきます」
-わざと両手仲介を狙うなんて、できるんですか?
「レインズに家の情報を載せるのは、法律で決まっています。ただしレインズに載せるまで10日間ほど猶予があるので、その間に買い主を見つけられたら両手仲介成立の可能性が出てきますね」
「しかし、中小規模の不動産会社は顧客も多くなく、結局レインズで公開して広く買い主を募る場合がほとんどです。でも売り主にとって高く売却する方法としては、これが一番健全だと思います」
「一方、自社で多く顧客をもつ大手不動産会社を中心に、今問題になっているのが『囲い込み』といわれるやり方です」
■囲い込みは、なぜ問題なのか
-囲い込み?
「レインズに情報を載せて公開しても、他社をブロックするのです。例えば他社がレインズの情報を見て『この物件、うちのお客さんに紹介していいですか』と確認しても、『いや、その物件は現在商談中です』などと言って、他社を寄せ付けないようにするんです」
-え!実際には、商談はないんですよね?
「そうなんです。これが『囲い込み』です。特に大手不動産会社は自社サイトを持っていますから、そうしたツールを利用して自社で買い主を見つけ両手仲介に持ち込みます。実は私の住む中古マンションもそうでした。不動産会社として申し込むと断られたのに、客として直接問い合わせると『どうぞどうぞ』と即案内されたんです」
-それではレインズの意味がないですよね。売り主にはどのようなデメリットがありますか?
「高く売る機会を逃すことが考えられます。例えば2000万円で売り出した家に、他社の2000万円の買い主をブロックしてしまう。挙句、自社で1900万円の買い主しか見つけられなかったらどうでしょう? 2000万円で売れたかもしれない物件が100万円ダウンです。でも不動産会社は、両手仲介が決まるなら多少安くなっても良いというスタンスですから、それでも良いのです」
「もっといけないのは買い主すら見つけようとせず、囲い込んで販売価格を下げ続けた挙句、『全然売れませんね。うちで買い取りましょうか?』という買取ケース。最悪なのは、1500万円でやっと買い主が見つかったと言っておいて、実は相手が知り合いの不動産会社で、後で利益を分け合うなどというケースです」
-あの……売り主は「囲い込まれている」なんて分かるものなんですか?
「残念ながら分からないと思います。数年前に、レインズへの掲載内容を売り主に開示する仕組みができました。でも不動産会社の社内で先ほどのようなブロックをされては、外からは分かりません。大手不動産会社、と言いましたが、実際は中小規模の不動産会社でもあるのがこの囲い込みです。ただ最近は何でもオープンにする時代ですから、徐々に少なくなってきていると思います」
-もし「この不動産会社は怪しいな」と思ったら、変えることは可能ですか?
「もちろんです。信用できないと思ったら変えてもいいんですよ。何でも疑ってかかる必要はありませんが、何が良くて何が変か、こうした知識があれば満足な不動産売買ができるでしょう」
「次回は住宅ローンが払えなくなったらどうする、というテーマでお話ししましょう」
(まいどなニュース特約・國松 珠実)
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