「更生カレー」で、非行少年のお腹と心を温めてきた…笑福亭鉄瓶「ノンフィクション落語」の最新作は“華麗なる保護司さん”の感動実話

「上方落語をもっといろんなお客さんに見てもらいたい」。そんな思いから2021年、市井の人々に取材をして創る新しい落語「ノンフィクション落語」を立ち上げた笑福亭鉄瓶が、3作目となる最新作を引っさげて、東名阪ツアーを行なう。

第1作は、60歳を過ぎてから夜間中学に通いはじめた文盲の男性が、初めて読み書きを学んで妻にラブレターを書いた実話を元にした「生きた先に」。第2作は、料理経験ゼロだった父親が娘のために高校3年間お弁当を作った日々を紡ぐ「パパ弁~父と娘をつなぐ1095日~」。

そして、今回のツアーで初おろしとなる第3作は、120名以上の非行少年の立ち直りを見守ってきた元保護司の女性にスポットを当てた「華麗なる保護司さん」。最新作への思いを聞いた。

■「芯の中に優しさがある」元保護司・中澤さんの矜持に感銘を受け…

──題材との出会いはどのようなかたちだったのでしょうか。

笑福亭鉄瓶(以下、鉄瓶) 1作目・2作目と同様、今回もたまたま目に入った記事で、元保護司の中澤照子さんという方のことを知りました。「保護司」という言葉は、聞いたことはあったものの、実際どのような仕事なのかはあまりわかっていませんでした。記事を読んで衝撃を受けました。保護司って無償のボランティアなんですね。生半可な覚悟ではできないことだと思います。中澤さんは「無償だから続けられたんだ」とおっしゃっていました。

──取材はどのように行なったんですか?

鉄瓶 マネージャーを介して連絡させていただいて、最初はご挨拶程度に、リモートでの取材でした。その後もう一度、今度は東京・江戸川区で中澤さんが運営されている「Cafe LaLaLa」に伺いました。元「保護対象者」たちが気軽に立ち寄れるスペースを作りたいということで、中澤さんが5年前にオープンされたカフェです。やっぱり実際にお会いしてみると、メールやリモートでは伝わらない「心の温度」というものがあるなと、痛感しました。

通称「更生カレー」といって、数々の少年たちのお腹を満たし、心を温めてきた、中澤さんが作った名物のカレーがあるんです。現在レトルトで販売もされていて、僕はそれをカフェでいただいたんですが、めちゃくちゃ美味しかったです。具がゴロッと入った本格派のカレーでした。

僕が勝手に思ったんですけど、カレーそのものが少年たちの心をほぐしたのではなくて、中澤さんの力で、本人たちの心がおだやかになってきて、少しだけ大人、というか「人間」を信用できるようになってきたタイミングで食べたから、なおさら美味しく感じたんじゃないかなと。このカレーにヒントを得て、タイトルを「華麗なる保護司さん」とさせてもらいました。

──実際中澤さんにお会いして話を聞いてみて、いかがでしたか?

鉄瓶 よく、「優しさの中に芯がある」って言うじゃないですか。でも中澤さんは逆なんです。「芯の中に優しさがある」。初対面で、優しいオーラからのスタートじゃなく、この人は強い信念を持って、考えて行動しているんだな、ということが伝わりました。その中に「優しさ」がある人なんだなと。

感心したのは、どの保護対象者に対してもできる限り「これをするな」「あれをするな」「それは間違ってる」というようなことを言わないと決めていたということ。保護司の中には、「何としても更生させなければ」という気持ちが先立ってしまう方もいらっしゃるそうです。

でも中澤さんは、まずは相手に信用してもらうところから始めるとおっしゃいます。非行や犯罪に走る少年たちは、「大人が信用できない」「人が信用できない」ということが出発点だから。中澤さんは、自分は「器」であり、「どうぞ、よかったらこのお皿に乗ってみて」ぐらいの感覚でやられていたんだそうです。すごいなあ、と思いました。

■自分の腹からの声でストレートに伝えたい

──今回の第3作でいちばん工夫したこと、難しかったことは?

鉄瓶 中澤さんが携わった120人の少年のうち、数十人のお話をうかがったんですが、どの話をチョイスするかが、いちばん難しかったです。そして、今作が第1作、第2作と全く異なるのは、登場人物である少年たちが加害者であるということです。「非行少年がある保護司のおかげで更生しました」という美談や人情噺のように仕立ててはならない。スポットライトを当てるのは、あくまでも保護司である中澤さんです。

演出も、いつもとは違うものにしました。第1作、第2作では「ハメモノ」といって、三味線・太鼓を入れたのですが、今作ではいっさいなしにしました。やはり扱う題材がとてもデリケートなので、ともすれば誤解を生む可能性もある。だから効果音をつけて盛り上げるようなことはせずに、ひたすら自分の腹から声を出して、それだけで伝えるようにしました。構成としては、1話完結ドラマのように、保護対象者ごとに「case1」「case2」……というような区切り方をしています。

──これまでのツアーでは大阪・東京は回られていましたが、今回、初めて名古屋を回るんですね。

鉄瓶 そうなんですよ。初めて伺う土地でいきなり「ノンフィクション落語」をやって大丈夫なのか、という不安はなきにしもあらずなんですが。僕の独演会は他の落語家さんと違って、オープニングでスーツを着てスタンダップトーク「鉄瓶トーク」をやります。「誰でも入りやすい」ということを目指していますので、ぜひ名古屋の皆さんにも気軽にお越しいただきたいですね。「ノンフィクション落語」と古典落語、2つの演目をかけますので、両方を楽しんでいただければうれしいです。

   ◇   ◇

『笑福亭鉄瓶 独演会 東名阪ツアー』

▽大阪公演

第十四回 笑福亭鉄瓶 独演会

場所:天満天神繁昌亭(大阪市北区天神橋2-1-34)

日時:10月14日(土) 18時00分開場/18時30分

料金:当日3,500円

座席:全席指定

出演:笑福亭鉄瓶、前座:桂雪鹿

太鼓:笑福亭呂好、笛:笑福亭松五、三味線:はやしや絹代、お茶子:木村梨帆

▽東京公演

第九回 笑福亭鉄瓶 独演会

場所:シアターマーキュリー新宿(東京都新宿区新宿 3-30-13 新宿マルイ本館 8F)

日時:11月11日(土)13時00分開場/13時30分開演

料金:前売3,000円、当日3,500円

座席:全席指定

出演:笑福亭鉄瓶、前座:桂治門、お茶子:増田みなみ

▽名古屋公演

第一回 笑福亭鉄瓶 独演会

場所:大須演芸場(愛知県名古屋市中区大須2丁目19-39)

日時:11月17日(金) 18時00分開場/18時30分

料金:前売3,000円、当日3,500円

座席:全席指定

出演:笑福亭鉄瓶、前座:登龍亭獅鉄、お茶子:登龍亭幸吉

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購入方法:チケットぴあ

Pコード:520-983 

すべての問い合わせ先:松竹芸能 06-6258-8085

(まいどなニュース特約・佐野 華英)

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