本当は効果がある糖質制限ダイエット 元ボディビルダー教授「無理をしすぎはNG」“失敗しない実践法”

やや流行が落ち着いたようですが、糖質制限ダイエットには明確な減量効果のエビデンスがあります。私もゆるめの糖質制限ダイエットを行ったことがありますが、効果を実感しています。しかし、厳しい糖質制限はストレスが大きいため、挫折する人も多いのではないでしょうか? 糖質制限ダイエットの正しい知識と上手な付き合い方について解説します。

■糖質を減らすことに特化したのが糖質制限ダイエット

食事制限でダイエットを行うにはエネルギー摂取量を減らすことが基本です(※1)。エネルギー源になるたんぱく質、脂質、炭水化物のうち、減らすべきは脂質と炭水化物の糖質(注1)ですが、糖質を減らすことに特化したのが糖質制限ダイエットです。英語では糖質制限ダイエットをlow-carbohydrate diet(低炭水化物ダイエット)と呼びますが、この炭水化物は糖質の意味で用いられています。

糖質制限ダイエットに公式な定義はないのですが、一般的には炭水化物(注2)を130 g/日未満またはそのエネルギー比率を26%未満にした食事とされています(※2)。食事としては、主食などの糖質を減らす代わりに、脂質とたんぱく質が主体の肉、魚、卵などは自由に摂取してもよいとされています(※3)。

注1;炭水化物は消化される糖質とされない食物繊維からなります。

注2:基準となる量を表す時は、本来糖質の量を示すべきです。しかし、食物繊維の影響が小さいこともあり、一般に糖質ではなく炭水化物の量で表されるため、ここではそれに従います。

■本当に減量できるの?

まずは原理を説明します。糖質を摂ると血液中のブドウ糖濃度が上昇し、すい臓からインスリンが分泌されます。インスリンは糖や脂肪を体脂肪として身体に蓄積させる作用を持つため、分泌量が多いと体重が増加します。これとは逆に、糖質制限を行うとインスリンの分泌が抑えられ、糖や脂肪が分解する方向に向かい、体重が減少すると考えられています(※4)。また、糖質制限ではたんぱく質の摂取量が増えますが、これにより満腹感が高まりエネルギー摂取量が減少するため、これも要因と考えられます(※5)。

次に有効性のエビデンスですが、ここでは最も質の高い根拠とされるメタ解析の研究結果を1つ紹介します。メタ解析とは複数の研究結果を統合して解析する方法です。オランダのフローニンゲン大学を中心としたグループは、12のヒト臨床試験の結果を対象として糖質制限と脂質制限の減量効果を解析しました。全ての研究を平均すると、試験開始時からの減量幅は、6、12カ月後のそれぞれで糖質制限が6.8、5.4 kg、脂質制限が5.3、3.5 kgでした(※6)。つまり、12カ月後ではやや体重が戻る傾向にありますが、どちらの方法でも減量でき、糖質制限の方がやや効果が高いようです。

■継続を妨げる要因は?

糖質制限ダイエットの中で、炭水化物の量を20-50g/日またはそのエネルギー比率を10%未満と極端に制限した食事をケトジェニックダイエットといいます(※2)。ケトジェニックとはケトン体を生成するという意味で、ケトン体とは糖質が極端に制限された状態で脂肪から生成する代謝物であり、糖質の代替エネルギー源になります(※7)。ケトジェニックダイエットの減量効果は高いのですが、制限が厳しいため強いストレスになりますし、便秘、頭痛、口臭、筋けいれんなどが高頻度に起こることも報告されています(※8)。継続できない人の多くは、このケトジェニックダイエットを行っている可能性があります。

一方、ケトジェニックダイエットに限らず、糖質制限ダイエットでは、肉、魚、卵などを増やすことになるため食費がかさみます。また、十分な満腹感が得られない場合、これらを必要以上に食べてしまうことでエネルギー摂取量が増え、減量できないことがあります。そういった理由で止めてしまうこともあるでしょう。

■おすすめの実践法は?

ケトジェニックダイエットのような極端な糖質制限は結局継続できないので、実施すべきではないと思います。実は、先に紹介した有効性のエビデンスは糖質制限を炭水化物エネルギー比率40%以下と、一般的な糖質制限ダイエットの定義に比べ、ゆるやかな条件に設定し解析しています(※6)。しかし、その条件でも減量効果が認められたため、あまり厳密に考えず、ゆるやかな糖質制限でエネルギー摂取量を減らし、月1kg程度減らすつもりで取り組むのがよいと思います。ちなみに、令和元年国民健康・栄養調査によれば日本の成人の平均的な炭水化物エネルギー比率は56.4%のため(※9)、40%以下でもゆるやかな糖質制限といえるでしょう。

ゆるやかな糖質制限の簡単な方法は、朝食と昼食のどちらかの主食の量を半分程度にし、夕食では主食を食べないことです。これにより、1日に茶碗1.5杯分を減らすことになり、茶碗1杯のご飯を150 gとすれば、炭水化物を約83 g減らすことができます。その代わり、たんぱく質と脂質を主とする食品(特に望ましいのは魚と大豆)や野菜をやや増やすようにします。

また、甘いお菓子や飲料を避け、ナッツ、果物、甘くない飲料などに置き換えた方がよいでしょう。減量前の食事内容やたんぱく質と脂質をどの程度増やすかなどにより変わりますが、平均的な食事を摂っている人であれば、これらにより炭水化物エネルギー比率は40%を下回ると考えられます。

■継続するにはそれなりの強い意志が必要

世間には多くの怪しいダイエット法がありますが、糖質制限ダイエットは比較的エビデンスのしっかりしたダイエット法です。ただし、継続するにはそれなりの強い意志が必要ですし、向いていない人もいると思います。また。筋量と減量体重を維持するには、やはり身体活動・運動量を増やすことも重要です。この記事の内容を参考に、これならできそうと思った方は、是非、取り組んでみてください。

◆御堂直樹(みどう・なおき) 東京医療保健大学・医療保健学部医療栄養学科教授。1965年生まれ。東北大学博士 (農学)。複数の食品メーカーにて商品開発や品質保証に従事した後、2021年から現職。専門は食品学、食品加工学、食品機能学。アメリカンフットボール、ボディビルディングに取り組み、ボディビルディングでは2002年に日本社会人大会で優勝した。全米ストレングス&コンディショニング協会(NSCA)が認定する、安全で効果的なトレーニングプログラムを計画・実行する知識と技能を有する専門職資格・CSCS(Certified Strength and Conditioning Specialist)を持つ。

   ◇   ◇

【参考文献】

※1 日本肥満学会, 肥満症診療ガイドライン2022, ライフサイエンス出版, 53-54.

※2 Feinman RD et al., Nutrition,31, 1-13, 2015.

※3 鈴木ら, 大阪樟蔭女子大学紀要, 6, 253-263, 2016.

※4 辻本, 糖質制限のエビデンス, 中外医学社, 29-30, 2023.

※5 Abete I et al., Nutr Rev, 68, 214-231, 2010.

※6 Willems AEM et al., Nutr Rev, 79, 429-444, 2021.

※7 山本, 化学と生物, 54, 650-656, 2016.

※8 Yancy WS Jr et al, Ann Intern Med, 140, 769-777, 2004.

※9 厚生労働省, 令和元年国民健康・栄養調査

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