驚きの食感…もちもちのもちもちのもっっっちもち!? “すみよっさん”の鳥居前で売られる「縁起焼」をめぐる、素敵なご縁の物語

焦げ目のない回転焼のような見た目で、表面に「縁」または「起」の焼き印を押してある和菓子が大阪・住吉大社の鳥居前にあるお店で売られている。好奇心からひと口食べてみたら「なんじゃこりゃ!? もっちもちやん!」と、目から鱗が落ちる新しい食感だった。「縁起焼」大阪住吉大社店を1人で切り盛りする店主・上尾憲幸さんに聞いた。

■旅行先で道に迷って「縁起焼」に出会う

大阪市住吉区にある住吉大社。地域の人々からは親しみをこめて「すみよっさん」と呼ばれている。路面電車が走るすみよっさんの鳥居前の通りを渡ってすぐ、まさに一等地ともいうべき場所で「縁起焼」が売られている。

山口県に本店がある、2011年に創業した比較的新しいお店だ。現在、山口県内に3店舗を展開しているほかは、県外の店舗は大阪だけである。山口県から遠く離れた大阪に店を構えた、上尾さんのエピソードが興味深い。

ある大手通信会社に中途採用され、営業を担当していた30代後半の頃「従業員が10万人近くいるような会社で、ここにいる人間が自分じゃないとダメな理由は何もない」と考えた。

「もうええ歳なのでね、これからの3年間で運命の商材に出会ったら、それをやろうと考えていましたね」

40歳を過ぎたら一歩踏み出す勇気が出なくなって、そのままサラリーマンを続けていただろうと話す。

そんなあるとき、休暇を取って、当時お付き合いをしていた女性と一緒に山口県の下関を訪れた。

「山口が好きで、何度も訪れていました。車を運転しながら、たまたま裏手の道に入って迷ってしまったんですよ。ホンマに裏手なんですけど、縁起焼のお店があったんです」

聞いたことがないし何だろうと思いながら、せっかく山口まで来たからと買って食べてみた。このとき味わった食感が、「もちもちのもちもちのもっっっちもち」(本人談)で、後に上尾さんの運命を変えることになる。

「つぶあん、白あん、カスタード、よもぎ……。3泊4日の旅行中、毎日買いに行って、2人とも違う味を1個ずつ食べました」

■「縁起焼」だから店を出すなら縁起のいい場所で

運命の商材に出会ってしまった上尾さん。「縁起焼」本店に電話をかけ、フランチャイズで大阪に出店したいことを社長に頼み込んだ。だが、当時は本店も創業2年目ぐらいの時期で、あまりにも急速に売れたことに戸惑っていた。また、縁起焼を県外へ出すつもりがないとのことで断られた。それでも諦めきれない上尾さんは、その後も2度電話をかけたが、やはり芳しい返事は得られなかったという。

「県外へ出すつもりがない」という理由で断られるなら、その理由をなくせばいい。そう考えた上尾さんは、思い切った行動に出た。

「山口へいきました。縁起焼を山口から出すつもりがないなら、僕がこっちに来ますって」

こうして本気度を認められた上尾さんは、お店で働きながら焼き方のセンスや接客態度も認められ、2013年に晴れて大阪で出店することを許された。

「縁起焼と謳っているのだから、縁起のいい場所にお店を出したかった」と、住吉大社の近くを選んだ。

「初めは鳥居の真ん前じゃなくて、もう少し目につきにくい場所でした」

営業を開始して5年半が経った令和元年5月1日、住吉大社の鳥居を臨む現在の店舗に移った。

縁起のいい場所で売る「縁起焼」は、参拝客が多い土日や、商売発達と家内安全を祈願する月に一度の「初辰まいり」の日によく売れるという。今年の正月三箇日には、3日間で1万個弱が売れた。

縁起焼は生地を焦がさないように、弱火でじっくり時間をかけて焼き上げる。1日平均3000個超を捌くため、1日じゅう休む間もなくひたすら焼き続けたという。

今年10月7日には、もう1店舗を難波にオープンさせた。その店には販売担当だけを置き、商品は住吉大社店から供給するから、上尾さんはますます忙しくなった。

「開店して8年間、繁盛とはいかないまでも、おかげさまで黒字経営になってきています」

将来的には住吉界隈の街歩きを楽しんでもらった後、自分で縁起焼を焼いてもらうワークショップのようなことをやりたい構想もある。また「本気で取り組みたい人には縁起焼の指導をする」という上尾さんは、今日もすみよっさんの鳥居前で、「もちもちのもちもちのもっっっちもち」の縁起焼を焼いている。

余談ながら、縁起焼に押される焼き印の八角形は、八方位からのすべての「良いご縁」を引き寄せるとされているそうだ。

(まいどなニュース特約・平藤 清刀)

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