豊田真由子「濃厚接触者に待機を求める理由」を改めて考えてみる 第7波と向き合う<後編>
新型コロナが過去最多の新規感染者数を記録しています。今が一体どういう状況にあって、これまでとどう違っていて、どう行動すればよいのか、国の方針変更の意図なども踏まえて、考えてみたいと思います。
■濃厚接触者について
政府は、今回の感染者急増を受け、社会経済活動への影響を避けるためもあり、濃厚接触者の待機期間を、原則7日間から5日間に短縮し、さらに2日目と3日目の抗原検査が陰性ならば、3日目に待機を解除できることとしました。
ここでまず、「濃厚接触者に待機を求める理由」について、改めて整理してみたいと思います。
濃厚接触者の中には、「感染した人」と「感染していない人」がいます。
・「感染した人」のうち、「検査で感染が判明した人」であれば、その人は濃厚接触者ではなく陽性者となるので、10日間の待機をすることになります。
・一方、「感染していない人」であれば、感染を広げるということはなく、本来、待機する必要はないはずなのですが、ただ、どんな検査にも偽陰性(実際は感染しているが、まだ体内のウイルスの量が少ないなどで、陰性と出てしまう。一般的に、抗原検査キットの感度は50-70%と言われている)の問題があり、また検査を受けない人もいるので、「感染していたとしても、ウイルスの排出量が減って、周囲にうつさなくなると考えられる期間は待機をしてもらう」というのが、「濃厚接触者に待機を求める理由」です。
すなわち、濃厚接触者の中に、「『実際は感染しているのだが、陽性者として扱われていない人』が含まれるリスクを考慮して、実際は感染していない人も含めすべて一律に待機をさせている」ということになります。
そうすると結果的に、すべてを待機させることで、「実際には感染していない多数の人」も仕事や学校に行けないなど、個人の問題だけではなく、社会経済活動に大きなマイナスが生じているという現状があります。
濃厚接触者の待機をどこまで求めるかは、リスクをどこまで許容するかの問題です。社会経済活動の停滞をできるだけ小さくしようということ、オミクロンは潜伏期間が短くなっていると考えられること、そして、市中の感染率が上がってくると、(感染しているが陽性と判明していない)濃厚接触者を外に出すことで感染を拡大するリスクが、市中感染リスクとあまり変わらなくなり、濃厚接触者をそれ以上の期間、待機させる必要性が小さくなると考えられるといったこと等から、今回待期期間が短縮されました。
なお、濃厚接触者の取扱いについては、米国は、ワクチンを3回接種している場合や2回接種から6が月以内であれば「待機無し」、2回接種から6か月経過後や未接種の場合は「5日間」、そして英国は、濃厚接触者のみならず、陽性者についても「待機無し、報告も不要」という対応を取っています。(そういう意味では英国は、新型コロナを「通常の感染症」として扱おうとしてきている、と言えます。)
■医療・介護従事者が濃厚接触者となった場合
医療や介護従事者が、ご家族が感染したことなどで濃厚接触者と認定され待機することで、職務に従事できなくなることによる人材不足が指摘されます。
実は医療・介護従事者については以前から、濃厚接触者になった場合でも、ルールとして「無症状で、毎日業務前に検査を行い陰性が確認されていれば業務に従事できる」とされてはいるのですが、実際はなかなか難しいと思います。クラスターの発生を懸念し、医療機関や介護施設で一定の待期期間を設けている場合が多いですし、保健所から期間を定めた出勤停止の指示が出されることもあります。
医療機関や高齢者施設においては、施設内でクラスターが発生すると、重症化リスクの高い入院患者や施設入居者の方が感染してしまうことになり、周囲に与える影響は一般の方よりも大きいという状況にあります。どんな検査も精度が100%でない以上、「検査結果が陰性だから業務に従事させた」ことで生じ得る懸念は払拭されませんので、濃厚接触者となった医療・介護従事者が職務に従事できないことによる人材不足が続いてしまうと思いますし、踏み切れない状況もよく分かります。
少なくとも、現場で必死で対処する医療・介護従事者の方々のことを思い、また、医療・介護が提供されなくなることは、広く社会にマイナスをもたらすことであることも考えれば、仮に感染事例が発生したとしても、世間が、医療機関や介護施設を責めたり、風評被害を起こしたりしないという民度の成熟が求められると思います。
■抗原検査キット
上述したように、濃厚接触者が2日目と3日目に陰性であれば、待機解除ができるということにはなりましたが、感染者急増を受け、抗原検査キットが品薄である状況下では、本来は、深刻な症状のある方の治療方法の確定のためなど、検査の必要性の高い方をまず優先すべきであり、「念のため」や「待機解除のため」に頻繁に検査を行うことが望ましいとはいえない状況も出てくるだろうと思います。(なお、国から無料配布されることになった抗原検査キットに関しては、濃厚接触者の待機解除のためには使用しないこととされています。)
市中感染が増大した状況下では、「無症状の人含め感染者をできるだけ発見して、隔離して感染拡大を防ぐ」という手法の効果やメリットも減じてきます。
一方、「帰省などで高齢者に会う前に、検査をすること」を推奨しているということもありますので、重症化リスクの高い方を守るという観点がひとつの指標にはなると思います。
なお、市販されている抗原検査キットの中には、国が承認をした「体外診断用医薬品」と、性能の確認されていない「研究用」とがあり、前者を使用することが求められます。
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「行動制限の無い夏をどう過ごすか」が話題になります。
ただ、行動制限が無いからといって、「何も感染対策をしなくてよくなった」ということではありませんので、マスク、手洗い、密を避ける等の、それぞれの方ができる感染対策は、引き続き行っていただくということになります。
そしてまた一方で、新興感染症の動向も含め、「人類がすべてをコントロールできる」と考えるのは正しくないと私は思います。覚悟と(よい意味での)諦めと希望を持って、前向きに日常を取り戻していくときだと思います。
◆豊田 真由子 1974年生まれ、千葉県船橋市出身。東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省。ハーバード大学大学院へ国費留学、理学修士号(公衆衛生学)を取得。 医療、介護、福祉、保育、戦没者援護等、幅広い政策立案を担当し、金融庁にも出向。2009年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官として、新型インフルエンザパンデミックにWHOとともに対処した。衆議院議員2期、文部科学大臣政務官、オリンピック・パラリンピック大臣政務官などを務めた。