「どうしてあんなに強がっていたのかな」つらい気持ちを家族や友人に打ち明けて…「うつ病」を乗り越えたNさん

「理由は自分でもわからないけれど、なぜか気持ちが落ち込んでしまう…」そんなときはありませんか? 私の友人Nさん(関西地方在住・30代・女性)は、7年前にうつ病を発症しました。当時のことをNさんは「どうしてあんなに強がっていたのかな」と振り返ります。

■育児と転職をきっかけに生じた感情の異変

私の友人Nさんは、学生時代からおしゃれで社交的な女性でした。

高校を卒業後、私とNさんはそれぞれ違う土地で新生活をスタートさせましたが、定期的に連絡をし、友人関係を継続させていました。お互いの仕事の話、恋愛の話、Nさんとはたくさんの話をしてきたにもかかわらず、私は彼女がうつ病で悩んでいるとは全く気付かなかったのです。

Nさんは20代半ばで出産。その後、夫の仕事の都合で引っ越すことになり、はじめての転職を経験しました。毎日続く夜泣きと、新しい職場における人間関係に悩みながらも、毎日帰りが遅い夫にはなかなか頼れず、精神状態がギリギリの中ワンオペ育児が続いたといいます。後にNさんは、「年が離れた妹を女手一つで育てる母親には相談できなかった」と話してくれましたが、親にも頼れない環境下での仕事と育児は相当つらかったようで、1年ぶりに再会したNさんは、別人のように変わり果てていました。

自宅に行くと、部屋は散らかっており、布団も敷きっぱなしでした。ご飯を作る気力が湧かないからと、毎日冷凍の惣菜セットを温めて食べていたようです。そして、あれだけおしゃれが好きなNさんが、髪はボサボサで、肌をお手入れする余裕もなかったのか、日に焼けて肌が真っ黒になっていたことを今でも覚えています。

「どうしたの?何かあった?」と私がNさんに問いかけると、Nさんは「夫以外の誰にも言えなかったけど、うつ病を発症している」と、消え入りそうな声で教えてくれました。じっくり話を聞いているうちに、得体のしれない不安や恐怖が襲ってくること、母親として失格なのではと思い生きている意味がわからなくなることもあると教えてくれました。

その日、私はとにかくNさんの話を聞いて、一緒に食事を食べることしかできませんでした。

帰り際、「何かあったらいつでも連絡してね」と言うと、Nさんは小さくうなずきました。うつ病の中、まだ1歳の我が子のお世話をするのは本当に大変なことだったでしょう。私と再会後も、Nさんは夫と私以外の誰にも話せず、「つらい」「苦しい」と思いながら、うつ病と闘っていました。

当時は、自宅周辺の車や人の声が聞こえるだけでも、嫌気が差していたそうです。

さらに、当時通っていた心療内科の薬を飲むたびに、「私はこの薬がないと生きていけないのかな」と自分を追い詰めていたとも、後に語ってくれました。

■「頼る」「話す」をきっかけに

Nさんがうつ病を発症して半年が経った頃、Nさんに転機が訪れます。

「勇気を出して、カウンセラーに相談してみようかな」と思ったNさんは、厚生労働省のホームページに掲載されている相談先に電話をしました。

すると電話相談窓口の担当者は、Nさんの話を聞いて「新しい職場での人間関係やはじめての育児で大変だったでしょう。でも、人は人によって傷つけられることもあるけれど、人によって救われることもたくさんあります。そして、今はご自身に自信を持てないのかもしれないけれど、人と触れ合う中で自分の存在価値を見つけることによって、人は喜びを感じるんですよ」と答えたそうです。そして「どうか、今まで頑張ってきた自分を褒めてあげてくださいね。そして、人に頼って、ご自身の気持ちを話してみてください。少なからず、孤立していた気持ちが晴れやかになると思いますから」とも言ったそうです。

その言葉にNさんはハっとしました。「そうか。人に頼らないで自分で考えるから負のループに陥ってしまっていたのか」と。

さらに、「こんなことで悩んでいるのかと思われるのが恥ずかしいです」と担当者に話すと、「どうして恥ずかしいのですか?悩みの大小には個人差はあるけれど、話してもらった側は『自分に心を開いて話してくれた』『信用してくれている』とうれしくなるので、きっと受け止めてくれますよ」と教えてくれたことに救われたと言います。

それ以来、つらいことがあったら、Nさんは夫と私だけではなく、親や兄弟、友人にも気持ちを打ち明けるようにしてみたところ、自分の気持ちが穏やかになるだけではなく、家族や友人の優しさにも気付けたそうです。

そのことをきっかけにNさんはうつ病を乗り越え、8年ぶりに2人目の子どもを出産しました。うつ病を発症してから数年間、ずっと「子育てが怖い」と語っていたNさんが自ら希望して2人目を出産したのです。

Nさんは当時のことを「どうしてあんなに強がっていたのかな。ネガティブな自分が大嫌いだったけど、周りを頼って話すだけで克服できるなんてね」と話してくれました。

人と接することは、時として傷つけられたり、苦しむこともあります。しかし、人から与えられる優しさや思いやりが、自分の存在価値を見出すきっかけになること、そして人生を豊かにすることもあるのだと、Nさんの話から感じました。

(まいどなニュース特約・長岡 杏果)

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