重症化の恐れで「新薬飲みますか?」と決断迫られ…記者が服用したコロナ飲み薬「ラゲブリオ」気になる“実力”は

新型コロナウイルスの感染が収まらない中、感染者の重症化を防ぐ治療薬が承認されはじめています。4月頭に発症した私は、病院で「酸素飽和度が低め」と指摘され、新薬「ラゲブリオ」(モルヌピラビル)の処方を受けました。薬剤師さんには「このクリニックでまだ100人くらいしか飲んでいない」と説明され、ちょっとドキリ。処方までの経緯や効果、副作用などについてまとめました。

■はじまりは息子から

はじまりは5歳の息子からでした。利用している保育園で感染者がポツリポツリと出ていた中での発熱。病院で抗原検査を受け、陽性判定となり、3月下旬、突然、わが家の自宅待機生活がスタートを切りました。

家の中でも二重マスク。アルコール消毒液を片手に、テーブル、椅子、トイレ、ドアノブなどをこまめに消毒して過ごしましたが、息子発熱の翌日の夜から喉に違和感を覚え、それから24時間後に38.6度の発熱。激しい頭痛。ベッドに沈み込むような倦怠感に苦しみました。

ちなみにファイザー製ワクチンを昨年9月に1回目、10月に2回目と接種していたので、一晩寝れば収まるかも…と期待したものの、翌朝になっても症状は改善せず、病院を受診することを決めました。

■「酸素飽和度が低い」

ところが土曜日ということもあり、歩いて5分のところにある近所の病院では新型コロナ疑い患者は対応してもらえませんでした。インターネットで調べて、車で20分の初めて行くクリニックで診てもらうことにしました。

鼻の奥に綿棒を押し込まれて検体を採取する間、人差し指に「パルスオキシメーター」を取り付けていました。すると数値を見た看護師さんが「苦しくないですか?」と聞いてきたのです。

そこまで苦しくはなかったので「自覚はありません」と答えましたが、メーターの数値は95から94を行ったり来たり。96%を切ると中等症以上とされています。その後も看護師さんは何度かメーターを確認して「(酸素飽和度が)低いね」と繰り返すのでした。

■新薬いるか?いらないか?突然聞かれても…

10分ほど待って、検査結果はもちろん陽性。「あとは解熱剤でももらって、早く帰ってベッドで横になりたい」などと考えていると、いきなり、こう切り出されたのです。

「酸素飽和度が低く、このまま症状が悪化する恐れがあります。昨年末に承認された新薬で重症化を抑えるお薬を出せますが、どうしますか?」

え!?

新型コロナ治療薬の開発が進められていることは知っていたけれど、もう飲めるの?私が飲んでもいいの?いや待てそもそも安全なの?

いろんな疑問が浮かんでは消えました。ただ「重症化は避けたい、苦しみたくない」という思いが先行し、処方を即決しました。もちろん、熱と頭痛が激しく、それが冷静な判断だったかと聞かれると、そこは自信がありませんが…。

■服用した人は…「クリニックでまだ100人くらい」

その後の薬剤師さんの説明はとても丁寧でした。

はじめに、このクリニックで「まだ100人くらいしか服用していない」と言われました。100人という数字をどう評価したらいいのかは判断できませんが、「服用例が少なく、安全性などでまだわかっていないことはある」というニュアンスでした。

現在のところ、報告されている副作用は下痢や吐き気など。ひどい人でじんましんが出たという事例があるとのこと。

薬の説明書によると、動物実験で催奇形性が認められているため妊娠中の女性は使用できないなど、一部で注意が必要な人がいるとのことでしたが、幸い私は当てはまるものはありませんでした。

続いて同意書にサインを求められました。住所と名前を書きましたが、サインをしたからといって「飲まなくても不利益になることはない」と念を押されました。

■いざ、服用

新薬「ラゲブリオ」は長さ2センチくらいの一般的なソフトカプセルの薬でした。

1日2回、朝と晩。1回につき4カプセルを飲まねばなりません。個人的にソフトカプセルを飲むのが苦手で、喉が多少痛いこともあって、「ごくん」といくのは苦労しました。一気に4カプセルは難しいので、1カプセルずつ飲み下しました。もちろん薬は無味無臭です。

病院から帰ってすぐに1回目を飲み、その夜に2回目を飲みました。この段階では、解熱剤を飲んでいても体温は37度台後半で、効果が切れると38度台に上がる状況でした。

ところが翌朝、解熱剤の効果は切れているはずでしたが、体温は37度台半ばに落ち着いていました。倦怠感や頭痛などの症状も明らかに軽くなっている実感がありました。そしてその日の夜、つまり発熱から48時間後には、平熱に近いところまで下がりました。

「新薬のおかげだ!」と言いたいところですが、ラゲブリオ以外にも抗生物質など6種類の薬を服用していたし、年齢的にも体力のある30代なので、「何のおかげ」というのは断定できないというのが正直なところです。でも重症化する可能性がある中で自宅療養をする身としては、「治療薬が手元にある」「すぐに飲める」という安心感は、精神衛生上とても良かったと感じます。 

その後も4日間、飲み続けましたが言われているような副作用は見られませんでした。

処方から3日後、薬剤師さんから症状を聞き取る電話がありました。私は特に副作用が出なかったことと、病状が改善したことを伝えました。

■どこでも、誰でも、処方されるわけではない

順調に快方に向かい10日間の自宅待機を経て、無事に仕事に復帰することができたわけですが、ここで注意しておきたいのは、どこでも誰でも処方してもらえるわけではない、ということです。

そもそもラゲブリオは米国の製薬大手メルクが開発し、日本では2021年12月末に厚生労働省が特例承認しました。国内初の軽症患者が使える飲み薬で、ウイルスの増殖を抑えて重症化を防ぐ効果が期待されています。

ただ現時点では、登録した病院や薬局しか処方できません。また、厚生労働省の資料では、投与が必要な患者の考え方として「61歳以上」や「慢性腎臓病」など、重症化リスク因子を有している人と定めています。

後から知りましたが、複数あるこの因子の中に、私の持病が含まれていました。

気になるのは薬代です。例えば、がん治療で新薬と聞けば自由診療のため大変高額になることがあります。しかし新型コロナの場合は、治療に際して処方される薬代はすべて公費でまかなわれており、ラゲブリオだけでなく咳止めや痰切りの薬についても支払いは発生しませんでした。

新型コロナのみならず…ですが、感染症は突然、当事者になる怖さがあります。私の持病は、重症化リスクとして広く知られている「慢性閉塞性肺疾患」や「糖尿病」「高血圧」などではないので、まさか自分が新薬の処方を受けられるとは思っていませんでした。

発症した時に慌てないためにも、自分は新薬処方の対象になるのか、かかりつけの病院で処方してもらえるのか、いざという時に薬を飲むのか、飲まないのか…など、健康なうちから考えておいた方がいいかもしれませんね。

(まいどなニュース/神戸新聞・中務 庸子)

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