ユーチューバーが告発 偽物スニーカーを鑑定したら「本物」判定 大手取引アプリは一時取引中止

数十万円、100万円を超えるレア(希少な)スニーカー市場は偽物だらけなのか?高騰するスニーカーの真贋(しんがん)鑑定は、果たして正確なのかー。スニーカー取引サービスなどの鑑定精度を問うた動画が反響を呼んでいます。スニーカーユーチューバーの「本日のくっく」さんが、偽物スニーカー「チェリーダンク」の真贋判定を五つのサービスに委ねたところ、半数を超える3サービスが偽物を「本物」と判定しました。検証動画はスニーカー好きの間で話題となり、誤った鑑定を下した国内最大級のスニーカー取引アプリ「スニーカーダンク」は、中古スニーカーの取引を一時中止しました。経験豊富なプロ鑑定士陣が見極めるという真贋鑑定は信頼できるのか。くっくさんに聞きました。

■メルカリで買ったチェリーダンクが偽物だった

くっくさんが真贋鑑定を依頼したのは、ナイキとステューシーがコラボした「チェリーダンク」と呼ばれるレアスニーカーの偽物を手にしたことがきっかけでした。

「友人がメルカリで買ったチェリーダンクが偽物だったんです。本物と見比べてみたら、アッパーがヌバック(起毛革)じゃなくて合皮で、素人目にも本物とは素材から異なるものでした」

細部を見ると、インソール(中底)の色や、シュータンラベルの幅も正規品とは異なり、「チェリーダンクは周りの友達からも『フェイクでしょ』と言われていました。なら本物か偽物かはっきりさせよう、と鑑定に出すことにしました」

■スニダンも本物判定「鑑定精度ヤバい」

くっくさんがチェリーダンクの鑑定を委ねたのは、①キャリーミー ②フェイクバスターズ(FB)クイック鑑定 ③フェイクバスターズ(FB)コンプリート鑑定 ④チェックグッズ、⑤スニーカーダンクの五つでした。

鑑定は無料のものもあれば、3300円するサービスまで幅広く、画像だけで鑑定するタイプもあれば、実物をプロ鑑定士が見て真贋判定する本格的なものもありました。結果は以下の通りでした。

①キャリーミー(画像鑑定)    判定・本物

②FBクイック鑑定(画像鑑定)  判定・本物

③FBコンプリート鑑定(実物鑑定)判定・偽物

④チェックグッズ(画像鑑定)   判定・偽物

⑤スニーカーダンク(実物鑑定)  判定・本物

中でもスニーカー取引のフリマアプリで「月間400万人以上が利用」「国内No.1」をうたう「スニーカーダンク」が、実物を見た上で「本物」と鑑定したことは、くっくさんにとって衝撃でした。スニーカーダンクはプロの鑑定士陣が内タグ、中底の刺繍、アッパーの素材・色・形、ステッチ(縫い目)の位置や精度、ソールの高さ、プリント・刺繍の精度や位置、滲みを丁寧に細かく鑑定することで偽造品を排除する、とホームページで謳っています。

「どう見ても偽物なのに、鑑定(精度)やべえだろ、と思いました」

一方で、鑑定の誤りをYouTubeで暴露することにはためらいもありました。くっくさんはチェリーダンクが偽物であることを確信した上でスニーカーダンクに出品しましたが、偽物の出品は規約違反です。

「動画を出すべきかめちゃくちゃ迷った。これが自分が出す最後の動画になるかもしれない、と」

しかし、スニーカーダンクを筆頭とする真贋鑑定サービスには、かねてより疑念もありました。

「『まともに鑑定してないだろ』という声は、元々ユーザー側にかなりあった。でも、鑑定がどのように行われているのか全然わからない。企業側の言い分を信じるしかなかった」

「(鑑定サービスの問題を)知らせなきゃダメだ。何かを変えるためには、犠牲はつきもの。今回、裁かれるのが自分だけなら、許容範囲かな」と覚悟を決め、2月14日、動画公開に踏み切りました。

■動画投稿の3日後、スニダンが取引一時中止を発表

2月14日に公開された動画「【衝撃の結末】偽物スニーカーを鑑定に出したらとんでもない闇を暴いてしまった、、、」は、かつてない反響を呼びました。動画再生数は40万回を突破し(3月20日時点)、Twitterでも拡散されました。スニーカーダンクのサイトにはユーザーから疑念の声が噴出し、スニダンからは翌15日、くっくさんへ「チェリーダンク」の再送を依頼するメールが届きました。16日にはスニダンは偽物だったことをくっくさんに認め、17日に約1週間、中古スニーカーの取り扱いを中止することを発表しました。

くっくさんはスニダンの中古スニーカー取引中止のリリース文を見て、「とんでもないことをしてしまったな」と検証動画の広がりを実感しました。

一方で、スニダンのリリース文には疑問点もありました。今回、誤った判定を下したチェリーダンクは「複数点が鑑定不能な状態」「鑑定結果を下すべきではない状況であったにもかかわらず、結論づけてしまった」とチェリーダンクに使用感があったことが原因であるように記されていました。偽物だった、と誤判定を認めながら、鑑定精度が低さが原因ではなく、「鑑定不能なスニーカーを鑑定してしまった」という判断ミスを理由に挙げていました。

「商品の状態が悪くて鑑定不能だった…ってそんなわけないだろって思います。素人の僕が見比べても(真贋が)分かるくらいですから。この後に及んで『鑑定不能な状態だったから仕方なかった』としている。これがスニダンの言い訳なんですね、と受け止めています」

記者はスニダンに対し、1.「複数点が鑑定不能な状態」だったとする具体的なポイント 2.スニーカー流通量の増大により鑑定精度が保てなくなったのか? 3.一週間の取引中止期間で、どのように鑑定精度高めるのか? 4.くっく氏がスニダン規約に反して偽物スニーカーを出品したことについて、処分は検討しているのかーーの4点について取材を申し入れましたが、期限までに回答はありませんでした。

一方、2月25日、スニダンは中古出品の際、スニーカー本体と一致するボックス(箱)の提出が必須とするよう、商品ガイドラインを更新しました。

くっくさんは「ちょっとでもいい方向に進ませられたのだとしたら、一スニーカー好きとしてよかった。鑑定精度の向上を切に願ってます」と話しています。

■これからも動画投稿続ける 忖度せずに

世界的なスニーカーブームの広がりを受けて、スニーカーをあつかうユーチューバーが増えています。レアスニーカーの偽物も出回り、鑑定の需要が高まりました。YouTubeを始めて2年と日が浅いくっくさんが、なぜ鑑定の不備を突く検証動画を出すことができたのでしょう?くっくさんは「スニーカーユーチューバーの中には、スニーカーサービスの企業からPR案件をもらっている人も少なくない。そうすると、(案件をもらっている企業の)顔色をうかがうと思う。僕は案件をもらってもいても、悪いものは悪いと言っちゃう」とスタンスの違いを理由に挙げます。

大きな注目を集めたくっくさん。「今まで通り、新作スニーカーの抽選やレビューの動画もやりながら、ユーザー目線に立って闇を暴くこともやっていけたら。自分は忖度(そんたく)はあんまりしないので」と話していました。

(まいどなニュース・伊藤 大介)

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