コロナ禍で「簡素なお葬式」と「小さなお墓」がトレンドに 深刻な減収に悩む仏教界の生き残り戦術

コロナ禍の影響で、お葬式を家族だけで簡素に済ませる「家族葬」が増えているという。中には通夜も告別式も行わず、火葬場で故人を見送る「直葬」という方法を選ぶ例もある。葬儀を簡素化し、お墓を建てず、遺骨は小規模小区画の納骨堂に納めたり、お墓のミニ版みたいな樹木葬で葬ったりする供養の仕方が、都市部ではトレンドになっているという。しかし、その影響で減収に悩むお寺は、生き残りをかけ収益を上げる努力を始めている。

「かつては、立派な墓石を建てて供養するのが親孝行といったニーズがありました。今は少子化や核家族化が進んで後継ぎがいないため、お墓を建てなくなりました」と話すのは霊園運営コンサルタント会社「阪神総商」の代表取締役社長・田中元気氏。

また、先祖代々受け継がれてきたお墓も、墓じまいや引っ越しが増えているそうだ。厚⽣労働省「衛⽣⾏政報告例」でお墓の引っ越し件数をみると、2009年は7万2050件だったのが、2018年には11万5384件と、1.6倍に増えている。

「親は子どもに負担をかけたくないから、自分の代で墓じまいをして永代供養墓へ引っ越します。その際に『小規模小区画』という、集合住宅のような墓地を希望するケースが多いです」

その背景には、お墓を新規に購入しにくい家計の事情も絡んでいる。

「最大の理由は、お墓の価格が高すぎることです。大阪市内だと、1区画が90センチ四方として、一般的な相場は200万円くらい。郊外型の霊園でも100万円プラス墓石代というのが一般的です」

将来必ず守れなくなることが分かっているのに、高額な対価を支払ってまでお墓を買う必要はないと考えるのは自然な流れだ。

そのため、お寺の収益にも深刻な影響を与えているという。

「お墓を建てないことと併せて、お葬式や法事にもお坊さんを呼ばない傾向は前々から増えていて、減収傾向になる事態を仏教界は予測していました。それがコロナ禍で急加速したわけです」

■行くだけでも大変な郊外型の霊園はお荷物に

減収傾向にある仏教界は、この事態をどう見てどう動いているのだろうか。大阪市天王寺区にある大應寺の住職・岩崎浩基上人に聞いてみた。

「かつて郊外で霊園開発が進んだ時代は、買う人も若かったから、自分で車を運転してお墓まいりに行けたのです。ところが歳を重ねて足腰が弱ってきたり車の運転もままならなくなったりすると、霊園へ行くことがしんどいわけです」

そのため、交通の便の良い市内のお寺へ、お墓を引っ越す例が増えてきたという。大應寺も霊園運営コンサルタント会社に相談をもちかけて、小規模小区画のアート型屋外壁面納骨堂を建てた。

高さ3メートル、幅12メートルの壁面に、28センチ×30センチの納骨室が324個用意されている。これだと狭い場所でも、まとまった数の遺骨を納められる。深さは45センチと65センチの2タイプあって、1区画あたり2~3人の納骨ができる。1人あるいは夫婦で入るには手ごろな大きさだ。

永代使用料は33万円から用意されていて、一般的なお墓を新規で買うより費用を安く抑えられる。大應寺では壁面納骨堂のほかにも、樹木葬を行える霊園も有している。

「就職で都会へ出たあと、地元のお墓を守る人がいなくなるケースがあります。たとえば大阪で就職して家も買っている人が、お骨を大阪へもっていきたいという話になったときに、このような納骨堂は手ごろ感があります。(納骨から13年後には)永代供養塔へ移して永代供養してくれる安心感もあります」(田中氏)

大應寺の壁面納骨堂は、納骨室のフタに写真や絵画などを入れることが必須で、霊園自体が街中のアート空間としての側面もあわせもつ。

「永代供養の契約をされていなくても、作品として鑑賞するために足を運んで、仏様に手を合わせていただいたら、仏教として公益性のあることにつながると思います」(岩崎氏)

■お通夜なし、告別式なし…「直葬」に少ない抵抗感

公益財団法人全日本仏教会と大和証券が実施した「仏教に関する実態把握調査」の中にある「直葬への印象と今後の葬儀意向」の項目を見ると、直葬への抵抗感があまり多くないことが分かる。

「実施の有無&意識」では「実際に直葬をやったことがある」という回答は1割未満だが、「今の時代は仕方ないと思う」が7割前後。「効率的だと思う」が5割半ばを超え、「今後(も)直葬にすると思う」が3割半ば。

「直葬に対するイメージ」では、菩提寺の有無とは関係なく「費用が安く済む」が4割超えでトップ。 「菩提寺のある」人にやや抵抗感がみられるものの、全般に直葬が受け入れられているようにみえる。

また、終活関連サービスを提供する株式会社鎌倉新書が公開しているお墓の情報サイト「いいお墓」が2021年に行った「第12回お墓の消費者全国実態調査」によると「お墓選びで最重視した点」の第1位が「お墓の種類」、第2位が「自宅から霊園までのアクセス」、第3位が「金額」となっている。

   ◇   ◇

【お墓選びで最重視した点】/出典:鎌倉新書「いいお墓」

▽1位:お墓の種類

この調査では「樹木葬」が上位にランキングされているが、選んだ方の声として「やがて後継ぎがいなくなる」という理由を紹介している。また一般墓を購入すると回答した人の割合が、2019年の前回調査より減っているという。

▽2位:自宅から霊園までのアクセス

 約6割が自宅から30分未満の霊園を選んでおり、10分以内を望む人の割合も約1割ある。

▽3位:金額

一般墓の平均購入価格は169万円で、前回調査より7.2万円低下しているそうだ。

■「お墓が小さくなっても、守る手間は変わらない」という見方も

お墓の小規模小区画化がトレンドになりつつある傾向を、お寺や霊園運営から一歩ひいた立場の専門家はどう見ているのだろうか。一般社団法人終活カウンセラー協会代表理事・武藤頼胡(むとうよりこ)氏に聞いてみた。

「これからのお寺は、自力で収益をあげる努力をしていかなければならない時代になっています。そのことに気づいている人は、すでに動き始めています」

大應寺の壁面納骨堂は、お寺が専門業者に委託して、収益を上げる努力をした事例のひとつといえる。

「小規模小区画の納骨堂や樹木葬は、7~8年前からありますし、全般にお墓が小さくなってきたのは確かですね。昔は大家族だったから3世代も4世代も代々で入っていました。いまは最期まで独りで過ごされる方、シェアハウスや介護施設で共同生活をする方がいらっしゃいますから、その延長線上と思えば、他人様と一緒に入ったりおひとりずつ入ったりするお墓に抵抗感が薄いのかな」

一方で、このような指摘もする。

「小さいお墓は守りやすいと思われているようですが、そうではありません。大小にかかわらず、守るという観点では手間は同じです。小さくても残るわけですから、何もしないわけにいきませんよね。ただ“気持ち的”に守りやすいから、小規模小区画が選ばれるようになってきたのかなと思います」

このような傾向は、これからも続くのだろうか。

「生まれた場所で死ぬ人が減ってきました。田舎にあるお墓を移すときに、守りやすいようにと小さくすることが多々あります。1948年に『墓地、埋葬等に関する法律』ができる前は、集落に隣接して墓地をつくった例が多いです。そういうお墓がまだたくさん残っているので、お墓の引っ越し数を考えたら、あと10年~20年は続くのではないかと思っています」

小規模小区画の納骨や樹木葬などは、今後もしばらくはお墓のトレンドになっていくようだ。しかし武藤氏が指摘するように、小さくてもお墓である以上、何らかの手はかかる。大應寺のように、一定の期間を経た後は永代供養に移行してくれる形だと安心かもしれない。

(まいどなニュース特約・平藤 清刀)

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