カラスに口の半分を突かれた子猫、血まみれだったが酸素テントで治療 左の歯はないが、やんちゃに成長

今年5月に「子猫を助けてください」と、動物保護団体の「NPO法人あんじゅりあん」(鹿児島県)にレスキュー依頼が入りました。依頼者の女性によると、見知らぬ野良の子猫が自宅の庭先でカラス2羽に襲われているとのことでした。近くで母猫らしき猫がどうすることもできず見つめていたといいます。直接連絡を受けたのは、あんじゅりあんの副理事長・東さん。女性に子猫のことを尋ねると、襲われていたのはまだ目も開いていない、手のひらに乗るくらいのとても小さな猫だと。そのまま放っておけば子猫の命に関わると感じた東さんは「カラスに襲われないよう段ボール箱などに子猫を入れて家に避難させてください」と女性に保護をお願いしました。

そこで、女性は段ボール箱を用意し、すぐに子猫を段ボール箱に入れて自宅に緊急保護。その後、東さんの指示でペットボトルにお湯を入れ保温用の湯たんぽを2本作成し、それらをタオルにくるんで段ボール箱の中に。さらに、ショールなどで子猫の体を包んで体を温めながら、あんじゅりあんのシェルターへ向かいました。

■民家の庭先で2羽のカラスに襲われた子猫 ボランティアから指示を受けた住民が保護

女性がシェルターに到着後、子猫の入った段ボール箱の中を見ると、出血が止まらず血だらけでした。病院に連れて行き獣医師に診てもらったところ、子猫はまだへその緒が取れたばかりの生後10日ほどの赤ちゃん猫。カラスに口の左側を全部つつかれて食べられていました。左側だけ歯も歯茎もなくなっていましたが、脳に近い目などはつつかれておらず致命的なけがではなかったといいます。ただ、血だらけの上に低体温で脱水がひどく風邪も引いていたことなどから鼻呼吸ができず…子猫は生死に関わる状態だったそうです。

獣医師による指導のもと、すぐにあんじゅりあんのシェルター内で子猫の治療をスタート。酸素テントの中で、抗生剤などの点滴や投薬を続けました。また、口の左側をカラスに食べられてしまったことなどから、子猫は口からミルクをうまく飲むことができなかったため、カテーテルを口から胃まで通してミルクを飲ませることになりました。

「見つけていただいた女性の対応が早く、無事に子猫を保護することができました。もう少し遅かったらカラスにやられていたと思います。当初、子猫は猫風邪などを引いていたので、鼻呼吸ができず酸素テントの中に入れての治療となりました。ミルクを飲ませる際は、カテーテルを使ってでしたので、途中で食道などを傷付けないように通すのが大変で。それに、胃までカテーテルを到達させないと肺にミルクが入ってしまい誤えん性肺炎の原因にもなり命に関わることもあります。神経を遣うとともに、それが2時間おきの授乳となったのでしばらくはほとんど寝ることもできませんでした」

■口の左半分を失った子猫 カテーテルでミルクを飲ませ、体重が増えた

こうして当時東さんはあんじゅりあんのメンバーに他の猫の面倒を任せ、子猫の看病に専念したといいます。そんな懸命なお世話のおかげもあってか、10日ほどで22グラムしかなかった子猫の体重も280グラムに増えました。

「保護時はガリガリでやせ細っていた子猫。口の左側が食べられてしまったのにもかかわらず、カテーテルでもたくさんのミルクを飲んでくれたので、体重が思いのほか増えてくれました。『よく頑張ったね』と獣医師さんからも褒められた子猫。みるみる元気になりました。生命力の強さに感激です」

また保護から1カ月ほど経ち、離乳食へ移行した際もたくましい子猫の食べっぷりに東さんは圧倒されたそうです。

「案の定、左側の歯や歯茎がなかったので、初めての離乳食も最初はうまく食べられなくて、本人もイライラしていたのか怒りながら食べていたんです(苦笑)。なので、私が口の中にシリンジなどを使って食べさせてみたのですが、それも嫌がりなかなか食べてもらえませんでした。でも、そのうち何とか自力で舌ですくって食べられるようになって。そのおかげで舌が鍛えられたのか、普通の子よりも大きくなりました。今では毎朝私の顔をその大きな舌でベロベロとなめて起こすんですよ(笑)」

    ◇   ◇

■保護され半年が過ぎ、子猫の傷口はきれいに 先住の保護猫とじゃれあう毎日

子猫の名前は、なつちゃん(通称なっちゃん、なちゅ)。保護されて半年が過ぎ、もうすぐ生後7カ月、とてもやんちゃで人懐っこい男の子に成長しました。口の傷口もきれいになり、すっかり元気になったというなっちゃん。レスキュー依頼をした女性の事情もあり、東さんのところで預かることになりました。今は、譲渡が難しい猫や白猫がいる東さんのお部屋で過ごしているそうです。仲良しの白猫れもんくんと毎日じゃれ合い、忍者のように飛び回っているとか。

そんななっちゃんのような、カラスに襲われたり、交通事故や虐待に遭ったりと過酷な状況で暮らしてきた猫たちが東さんのシェルターにはいます。その中には、飼い主のいない犬猫などを殺処分する動物愛護管理局センターから引き出された猫たちも。東さんはペットを飼う人たちに向けてこう訴えます。

「コロナ禍でおうちにいる時間が長くなり、ペットを飼う方が増えてきたといわれています。鹿児島の動物愛護管理局センターでも、捨てられて収容された犬猫や『飼えなくなった』とペットを持ち込む飼い主さんが後を絶ちません。コロナが終息したあとは、さらにペットの持ち込みなどが増えるのではないかと懸念しています。

そんな飼い主さんたちに言いたいのは、かわいがっていた自分のペットがどんなふうに殺処分されるのか想像されたことがあるのでしょうか…ペットも猫たちも同じ命を持った子たちです。生きているし、訴えたいこともあるし。言いたいことがあるのだろうけれどそれが人間の言葉として発していないから分からないだけ。苦しいや痛いという気持ちがあるんです。動物たちにもっと心を寄せて、耳を傾けて向き合ってほしい。そうしたら自分のペットを捨てたり保健所などに持ち込んだりなんてできませんから」

(まいどなニュース特約・渡辺 晴子)

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