「先生」から「寄り添ってくれる人」へ、大物議員落選が意味するもの 豊田真由子が衆院選を考察<後編>

「今回の衆院選から、どういった民意を読み取ることができるか」「結果を受け、それぞれの政党が、今後考えていくべき課題は何か」等を、考察してみたいと思います。前回コラム「自民は本当に“勝利した“といえるか? 衆院選を考察<前編>」に続き、今回の後編は衆院選の結果から見えてくるものについて、考えてみたいと思います。

■維新“躍進”の理由と今後

今回維新は、「自公には入れたくない、だけど、立憲・共産もイヤ」という人や、前回2017年の総選挙で、希望の党に投票した人の受け皿になりました。理念や思想的にも、その辺りの「ぽっかり空いていた位置」を、うまく取っていたといえると思います。

大阪のテレビ局によくうかがいますが、吉村知事の人気は非常に高いと感じます。知事がメディアに積極的に出て、新型コロナ対応に懸命に取り組んだ印象が、大阪はもちろん、全国的にあるのではないでしょうか。理知的かつ相手に敬意を払いながら、いろんな方に切り込む橋下徹さんや、松井市長のイメージも寄与していると思います。

国政においては野党であるものの、地方政治・行政において、「きちんと実行し、責任を果たす姿」を実際に見せていることも、信頼の醸成や、他の野党との差別化につながっていると言えるでしょう。

選挙戦術という点で見ると、維新は「(比較的)政党として新しい、幹部のカリスマ性が高い、経験の少ない地方議員が多い」ということが、プラスに作用していると思います。どういうことかというと、国政選挙の地元での実働部隊の核は、やはり地方議員(と熱心に活動する党員や支持団体)です。

まず、数を見てみると、大阪府議は、維新51、自民16、公明15、共産2、大阪市議は、維新40、自民21、公明18、共産4です。(市議会は他にもたくさんあります。)まず、数が多いですから、活動量が違います。

加えて、読者の皆さん、政党というものは、「党本部から指示があったら、都道府県や市区町村の議員や党員は、忠実に従う」と思っていらっしゃるかもしれませんが、実際は(政党によっては)全くそんなことはありません。経験を踏まえて申し上げると、特に歴史の古い政党の首長や地方議員は、数十年に渡り地元で権勢を誇る方が多くいますので、「地元を仕切っているのは自分(たち)だ、地元のことは自分(たち)が決める、人の指図は受けない」というプライドがあり、党本部は地方議員の選挙に影響力を持たないということもあり、むしろ、「党本部が何を言おうが知ったことか」という方が多くおられます(もちろん、そうでない方も、ちゃんといます)。

一方、維新の大阪の地方議員は、党の指示に忠実に従い、党勢拡大を目指して一丸となり、輪番制で、企業・団体や有権者の元へ、候補者を連れてあいさつに回り、大量の名刺やチラシの配布、ポスター張りなどを、総出でやったと言われています。党への依存が高いほど、忠誠心も厚くなるわけです。

(※)結果として、維新支持層のうち、73・7%が維新候補に投票し、自民候補に投票したのは4・3%。一方、自民候補に投票した自民支持層は62%にとどまり、15・5%が維新候補に流れた。(共同通信出口調査)

ただし、維新も楽観できる状況とはいえないと思います。前回以前の選挙結果と比較してみると分かるのですが、維新は、今回“躍進”というよりも、前回2017年に大幅に減らした分を取り戻した、という方が事実に近いです。

2012年から今回までの衆院選での維新の獲得議席数を順に見てみると、総数(小選挙区・比例区)で、54(14・40)→41(11・30)→11(3・8)→41(16・25)となっています。すなわち維新は、前回の衆院選で、希望の党に候補者も票も流れ、大幅に議席を減らし、それが、今回復調したと見ることができます。

また、維新が小選挙区で勝ったのは、大阪のほかは、兵庫で1議席のみであり、全国的に強固な支持を得たとは言えません。そして、橋下氏の言うとおり、寄せ集めで、候補者の質に非常にバラつきがある、という問題も事実だと思います。「維新だから勝てた」ではなく、「〇〇候補だから勝てた」にならないと、この先それほど甘くないと思います。

維新と国民は、今後、国会対応や政策面での連携を強化していくということで、立憲、共産等による野党共闘と一線を画していくとのことです。維新と国民両党の衆院議員は52人ですので、第三極としての存在感が高まれば、与党が、両党の主張に配慮しながら国会運営に当たる局面も生まれると思います。与野党の在り方や、今後、国の在り方を決める重要な論点についても、様々に影響を与えることになるだろうと思います。

■「大物議員落選」を考える

今回「大物議員」が落選し、世代交代加速か、といったことが言われます。ただ、「大物議員」と言われる方の置かれた状況も選挙結果もいろいろで、変わらず圧勝した方も多くおられますので、あまりにストーリーを単純化し過ぎるのは、恣意的かつ状況を見誤るのではないかと思います。落選の場合も、各々の候補者によって、要因は異なります。

そういった視点で見てみると、基本的にどんな状況でも、あまり票を減らさないのは、①誰もが納得する歴史ある名家、②地元で巨大な経済力を有する場合、等ですが、③国会や地元で他人のために本気で力を尽くす方・面倒見の良い方も、変わらず強いな、と思いました。(もちろん、日本の中のどの地域であるか、対立候補がどういう人か等によっても、状況は変わりますが。)

一般論として、「求められる政治家像」が変わってきた、という印象は受けます。昔は国会議員はまさに『先生』で、権威というか、その地域のドンとして「俺に任せておけ」みたいなものが求められていたのだろうと思います(し、今も地域によってはそういう昔ながらのニーズもあると思います)が、今は、能力があることは当然として、その上で、親しみやすさや、一緒に地域のためにがんばりましょう、といった、「同じ目線でやっていく人、寄り添ってくれる人」が受け入れられやすいのだと思います。「あからさまな大物感」が逆効果になることもあるわけです。そうするとおのずから、新しい、若い世代の候補が受ける、ということになります。今回重鎮議員を破った候補に、30,40代の方が多かったということはいえると思います。

与野党問わず、長年日本のために尽力されてきた方々ですから、敬意を表しつつ、個別ケースについて、少し考えてみたいと思います。

石原伸晃元環境大臣は、野党共闘の影響を大きく受けました。2012年以降の衆院選における東京8区の野党の得票を合計すると、石原氏の得票を超えていましたので、今回逆転が起こることは想定されたことでした。共闘の象徴としてメディアの注目を浴びたことも作用したと思います。ブランドで勝てる時代ではなくなった、ということもあり…。

甘利明前幹事長は、これまでずっと大差での勝利だったこともあり、幹事長として全国の応援に出て地元に戻らない、ポスターや演説内容などの戦略ミス等、いろいろあったと思います。「落選運動」も行われました。

野田毅元自治大臣(16期)のところは、保守分裂選挙でした。元々、野田氏と林田彪氏の二人が自民党の議員として、コスタリカ方式で小選挙区と比例1位に交代で立候補してきていました。林田氏の後任が今回の西野氏(43歳)で、つまり、自民党同士の争いの中で、若い候補が勝った、と言う話です。

立憲小沢一郎氏の小選挙区落選は、時代の変化を感じました。後援会の高齢化等も指摘されますが、この影響は実は大きく、活動量が減少することや昔ながらの手法を変えられない、往時を知らない若い人には浸透しづらい、といったこともあります。一方、勝利した藤原崇氏(38歳)は、地道に地元回りを続け、そして今回は、小沢氏と縁の深かった平野達男元参院議員や黄川田徹元衆議院議員の支援も受けました。構図の変化が確実にあったのです。

■国民が政治に求めるもの、政治がなすべきこと

「世代交代」に関して、少し思うところがあります。

もちろん、いわゆる「古い政治」の悪しき因習を変えることや、年齢に関わらず、発想を柔軟にする、めまぐるしい社会の変化やニーズを的確にくみ取るといったことは、必要なことです。若い世代の意見やエネルギーが、きちんと国の政策や党運営に取り入れられることも大切ですし、そもそも、若手や女性の登用というのは政治だけではなく、日本のあらゆる分野で、もっと進められるべきことです。

他方、一般論としても、「政治」の世界の特殊性にかんがみても、高い見識や、豊かな経験や人脈といった、長い年月をかけて積み重ねてきたものの意義も、非常に大きいのだと思います。

「政治」が考えるべき対象は、全国民です。すべての世代、あらゆる職業、あらゆる思想信条、様々な人生、多様な苦しみや悲しみを持つすべての国民を理解し、守り、ともに、希望を持てる国を造っていかねばならないのです。そうした幅広い方々の思いを理解し反映した上で、政策を具現化していくためには、当然、幅広い世代による国家運営と、長年の様々な経験から培われた見識や実行力が、不可欠だろうと思います。

また今回は、選挙戦によるものだけではなく、伊吹文明元衆議院議長をはじめとするベテラン議員の引退がありました。幅広い経験見識を基に、派閥や与野党の枠を超えて、「政治はかくあるべし」という薫陶をされ、ときには政権に厳しいことも述べ、議論が紛糾してまとまらないときも最後ビシッとまとめ、皆がそれに従う--そういった貴重な「重し」がなくなることの影響も、今後出てくるように思います。

政治は、苛酷な仕事です。

与野党ともに、青壮老、それぞれの知見と能力とエネルギーを融合させ活用し、国民の不信を受けとめ、期待に応え、この「一見穏やかだが、実は深刻な危機下」にある国を盛り立てていただきたいと思います。

◆豊田 真由子 1974年生まれ、千葉県船橋市出身。東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省。ハーバード大学大学院へ国費留学、理学修士号(公衆衛生学)を取得。 医療、介護、福祉、保育、戦没者援護等、幅広い政策立案を担当し、金融庁にも出向。2009年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官として、新型インフルエンザパンデミックにWHOとともに対処した。衆議院議員2期、文部科学大臣政務官、オリンピック・パラリンピック大臣政務官などを務めた。

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