中露艦艇が「津軽海峡」を通過!?…日本と対立関係にある国の軍艦が通ってもOKな理由とは

2021年10月、中国海軍とロシア海軍の艦艇合わせて10隻が日本海から津軽海峡を通過して太平洋に向かったことが確認された。両国海軍が同時に津軽海峡を通過するのは今回が初めてだったが、その後中露海軍は千葉の犬吠埼沖、高知の足摺岬沖、鹿児島県の大隅海峡をそれぞれ通過して東シナ海に至った。日本本土をほぼ一周した今回の中露両国の動きは、日本や米国、オーストラリアなどをけん制する意図があったことは間違いない。

このニュースを聞いた人の中には、本州と北海道の間にある津軽海峡を、日本と軍事的に対立関係にある中国やロシアの軍艦がなぜ堂々と通過できるのかと不思議に思った人もいるかも知れない。しかし、現在、津軽海峡は国連海洋法条約上の国際海峡になっており、日本政府が特定海域と設定してその中央部分が公海となっているので、中露海軍の航行は国際法上問題ないのである。

昔、沿岸国の主権が及ぶ領海の範囲は沿岸から3海里だった。しかし、1940年代あたりから海底油田が発見されたなどと米国を中心に領海の幅を広げる政治的な動きが国際的に強まり、1982年に誕生した国連海洋法条約によって、領海の幅は12カイリ以内(約22キロ)と設定された。よって、通常であれば、津軽海峡の北海道側と青森県側にそれぞれ12カイリの領海が設定されるはずであり、津軽海峡(最も短い部分だと20キロ弱)に公海部分はなくなる。

外国の軍艦であっても安全や秩序を害さない限り無害通航権によって他国の領海を航行することは可能なのだが、日本はあえてそこを領海から公海にした過去がある。津軽海峡の領海を12カイリではなく、あえて3カイリと設定したのだ。

そこには日本特有の歴史的事情がある。戦後、日本は核兵器を“持たず”、“作らず”、“持ち込ませず”とする非核三原則を徹底してきた。世界唯一の被爆国日本としては当然の流れだろうが、実はこれが津軽海峡の3海里化をもたらした。

上述したように、津軽海峡を国連海洋法に基づいて12カイリとすれば全域が日本の領海となる。しかし、津軽海峡は核を搭載した米軍艦船などが航行する場合もあり、そうなると領海の中に核が存在するという非核三原則の“持ち込ませず”に抵触することになる。

当時の日本政府はそれを避けるため、1977年設定の領海法によって領海を3海里から12海里に設定するなか、あえて津軽海峡を特定海域と設定し、領海を沿岸から3海里とした。よって、その中央部分が公海となったのである。公海であれば、核を搭載した米軍艦船が航行しても“持ち込ませず”の非核三原則には抵触しない。

特定海域は津軽海峡の他にも、宗谷海峡、対馬海峡西水道、対馬海峡東水道、そして大隅海峡があるが、中露による日本などへのけん制は今後も続くことだろう。我々は海洋覇権というとどうしても南西諸島以南を意識してしまうが、それは本土周辺で今後さらに大きな問題になってくることを強く意識した方がいい。

◆治安太郎(ちあん・たろう) 国際情勢専門家。各国の政治や経済、社会事情に詳しい。各国の防衛、治安当局者と強いパイプを持ち、日々情報交換や情報共有を行い、対外発信として執筆活動を行う。

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