海洋覇権問題は南西諸島ばかりではない…日本海をめぐり、中露の動き活発化 合同軍事演習も

 最近は台湾海峡を巡る中台、米中などの対立にメディアの注目が集まっているが、メディアで報じられる海洋覇権の問題のほとんどは沖縄、尖閣、台湾、東シナ海、南シナ海、西太平洋を巡るものである。しかし、我々日本人はもう1つの動きに注目する必要がある。それは、どこよりも日本本土に近い日本海を巡る動向だ。

 日本海というと、まずは竹島を巡る韓国との領土問題、流れてくる北朝鮮船などが脳裏に浮かび、あまり大きな海洋覇権の問題はないと感じるかも知れない。しかし、近年、米国だけでなく、英国やフランス、ドイツなどの欧州諸国やオーストラリアなどがインド太平洋への関与を強めていることも影響し、中国やロシアはそれぞれ欧米を牽制する動きを取っている。

 たとえば、ロシアは北方領土周辺だけでなく、日本海での軍事演習を活発化させている。最近でも、ロシア海軍は10月14日から4日間の日程で極東ウラジオストク沖の日本海で中国軍と合同軍事演習を実施した。同軍事演習では戦闘機による射撃や潜水艦による探査などが訓練として実施されたというが、ロシア海軍は他にも今月に入って2回日本海で軍事訓練を行っている。

 ロシアが北方領土問題で日本に譲歩しない背景の1つに、日米安保の適法範囲が北上することがあるが(仮に4島返還すると、日米安保の適用範囲が択捉島まで北上する)、これと同じように、ロシアとしては東アジア地域における自らの勢力圏をできるだけ南下させておきたい狙いがある。そうなれば、ロシアにとって日本海は戦略的にも重要な海域となるのだ。また、最近は米国と英国、オーストラリアが新たな安全保障枠組みAUCUSを設立したことも、ロシアの軍事的活動を誘発していることだろう。

 また、ロシア軍と合同軍事演習をしたように、中国も日本海を重視する姿勢を見せている。中国は、米国だけでなく、空母やフリゲート艦などをインド太平洋に派遣する英国やフランス、ドイツやカナダなど他の欧米諸国の動きにも懸念を強めており、1つのオプションとして、日本海など比較的米軍のプレゼンスが薄いところで存在力を示し、欧米を牽制したい狙いがある。

 また、中国は豊富な天然資源が眠る北極海への関与を積極的に進めている。中国の北極海進出にはロシアも懸念を強めてはいるが、中国が北極海へアクセスする場合、ショートカットは東シナ海から対馬海峡、宗谷海峡(もしくは津軽海峡)、オホーツク海やベーリング海を通ることになり、日本海は必然的に中国の北極シーレーンとなるのだ。地球温暖化の影響で北極の解氷面積が縮小するなか、その下に埋蔵される天然資源を巡って中国の北極進出は本格化することだろう。

 さらに、吉林省の延辺朝鮮族自治州に延吉市という中国の都市があるが、ここは中国ロシア北朝鮮の国境地帯で、ロシアと北朝鮮が日本海と面する形で国境が存在する。しかし、延吉市と日本海は15キロの距離しかなく、専門家の間では、中国は経済力を武器に両国に接近し、日本海へのアクセスに努めていると言われている。

 以上のように考えると、日本海を巡って、ロシアや中国の覇権的な動きは今後さらに激しくなる可能性が考えられる。我々が意識しがちな海洋覇権問題はどうしても南西諸島から南になってしまうが、もっと身近な所に海洋覇権を巡る問題があることを強く認識するべきだろう。今後、日本海の安全保障はもっと大きな問題になろう。

◆治安太郎(ちあん・たろう) 国際情勢専門家。各国の政治や経済、社会事情に詳しい。各国の防衛、治安当局者と強いパイプを持ち、日々情報交換や情報共有を行い、対外発信として執筆活動を行う。

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