日本遺産にも指定された里山の夜景を彩る「ステンドグラス」のランプ 幻想的な光でまちおこし

大阪にもまだ、こんなに自然豊かな地域があったのか…。彩りも鮮やか、ステンドグラスのランプで家々を飾る「ランプの村構想」で、まちおこしに取り組む泉佐野市大木地区を訪ねた。

■ランプに彩られたまちで人々に元気を与えたい

南海本線「泉佐野」駅から、車でひたすら東へ走ること約20分。棚田が連なり、人工音がほとんど聞こえてこない里山がある。大木(おおぎ)地区と呼ばれるこの地は、室町時代の貴族・九条政基(まさもと)の領地「日根荘」があったことから、日本遺産にも登録されている。

日が暮れると、家の玄関先に明かりが灯る。一般的な白色電球の光ではない。色鮮やかなステンドグラスだ。これは、ステンドグラスのランプに彩られた「ランプの村構想」プロジェクトの一環で「ランプを制作した人」が「ランプを飾りたい家」へ寄贈したもの。

このような取り組みが大木地区で始まったきっかけは2019年にさかのぼる。人口に占める高齢者の割合が40%にもなる大木地区で「次代につながるまちづくりを目指す取り組みを」ということで、木造校舎が残る大木小学校をメイン会場にしたイベントを開催。オーガニックや手作りをコンセプトにしたマーケットやカフェをやったり、大木地区に豊富にある森林の魅力を体感できるスタンプラリーをやったりして、1日に約1200人が訪れて自然と触れ合う体験を楽しんだ。

毎年の恒例行事になるはずだったが、2020年のコロナ禍で人を集めるイベントができなくなった。感染のリスクを避けながらできるイベントとまちづくりを模索する中で考え出されたのが、大木地区をランプで彩る「ランプの村構想」だった。

ランプの村構想を推進するメンバーのひとりで、泉佐野市議会議員でもある大和屋(やまとや)貴彦さんに話を聞いた。

「プロジェクトを始めた当初、地区の家々にランプを希望される方は手を挙げてくださいという趣旨のお手紙を各家庭に入れたところ、5~6軒からお返事をいただきました」

では、そのランプを誰がつくるのか。時節柄、利用が激減している航空業界や観光業界の振興に取り組んでいる関西航空少年団と協力関係を結んで、団員のお母さんたちにつくってもらっているという。

航空少年団とは、東京にある一般財団法人「空港振興・環境整備支援機構」を本部として、航空や宇宙の知識を深めるとともに規則正しい団体生活を通して楽しみながら心身を鍛え立派な社会人を育てようとする青少年団体(航空少年団概要より抜粋)。全国に13団体あり、関西には「関西航空少年団」と「大阪航空少年団」の2団体がある。関西航空少年団は、関西空港の開港を機に1994年に設立された。

ちなみに関西空港がある空港島の北側3分の1は泉佐野市で、泉州空港北という地名が付いている。

■第3土曜日はランプの日

ランプを制作するにあたっては、泉佐野市出身で大木地区を拠点に創作活動を行っているステンドグラス作家・中野一夫氏が、自宅にある工房を提供し、技術指導も行っている。

「デザインも、つくる人が決めます。私は場所を提供して、制作のお手伝いをしているだけです。私に何の利益があるかといえば、1人でも多くの人にステンドグラスを知っていただけることです」(中野氏)

寄贈されたランプは、門灯や表札灯に被せて灯される。さほど大きくはないが、つくるのに2~3カ月かかるという。

「ピースの大きさにもよるんですけどね。皆さん初心者ですし主婦ですから、毎日は通ってこられないわけです。週に1回くらい通われて、それくらいはかかりますね」(中野氏)

■「毎月第3土曜日をランプの日と決めています」

ランプの日は「大木HOTAL点灯式」として、完成したランプを寄贈して点灯させるセレモニーが行われる。今年(2021)4月に行われた第1回目の様子は、YouTubeで観ることができる。そして7月17日に第3回目を迎え、累計6個目が消防団の車庫跡へ寄贈された。

ほかにも、大木地区にある街灯のうち2つがステンドグラスになっていて、天の川を地上に映し出す実証実験を兼ねているという。

余談ながら、時々「ランプを売ってほしい」といってくる人がいるそうだが、一般販売はされていない。大和屋さん曰く「どうしても欲しい人は、中野先生の作品を買っていただくしかありません(笑)」とのこと。

■ランプの村はまちづくりプロジェクトの入口

ランプの村構想は、じつは大木地区のまちづくり構想の一部にすぎない。その背景には「オーガニックタウン構想」という大木地区全体のまちづくりプロジェクトがある。そのプロジェクトを進めるために地域の人たちが主体となって「みんなのまちづくり隊」を立ち上げ、今は住む人がいなくなった築150年の古民家を「ランプの家」として活動の拠点にしている。

オーガニックタウン構想がこれから目指すものを、大和屋さんに聞いた。

「あらたな生活スタイルを実現できるまちにしたいですね。今までのような大量生産・大量消費の時代から脱却した、真に自分の心と体のことを思いやれる『食』と『アート』と『歴史』のまちをつくっていきたい。大木はそのモデル地区になると確信しています。無農薬野菜、有機野菜を育てて身体によいものをつくっていくことと、アートが集うことによって、人が心身ともに安らぐまちにしていきたい。ランプの村はまちを魅力化し、まちの価値をあげ、ここで起業したり産業を呼び込んだりすることに繋がります。若者が集まる契機をつくりたい」

もし大木に移住したい若手アーチストがいれば、大歓迎だそうだ。

   ◇   ◇

最後に、大木地区でオーガニックタウン構想を進める「みんなのまちづくり隊」からのお願いとして。

プロジェクトの拠点にしている古民家の屋根が、昨年の台風で損傷。だましだまし使っているけれど、機能的にそろそろ限界なので、修復費用をクラウドファンディングで募っているという。

(まいどなニュース特約・平藤 清刀)

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