運送会社の倉庫に迷いこんできた2匹の子猫たち 一緒に迎えられて幸せに暮らす

ロンちゃん(1歳・オス)とポンちゃん(1歳・メス)は、運送会社の倉庫に迷いこんできた。そこで働く友人から「飼える人もいない、保健所に連れて行くしかない」という連絡を受けた五十嵐さん。最初1匹だけだと聞いていたが、里親になろうと決意したら「もう1匹いる」と言われた。

■倉庫に迷い込んできた子猫

2019年10月、福島県に住む五十嵐さんは、運送会社で働く友人から「倉庫に猫が迷い込んできた」というメールを受け取った。「母猫もいないようだしフォークリフトに轢かれそうで危ない。飼える人もいないし、保健所に連絡するしかない」と書いてあった。

ちょうどその頃、五十嵐さんは、息子2人が高校生と中学生になり、もう世話を頼めるだろうと、犬か猫を迎えることを考えていた。

「私も幼い頃、犬や猫がいる環境で育ち、今でも飼っていた子たちのことを思い出すことがあるんです。子どもたちにもそんなふうに思い出を増やしてほしいと思っていました」

五十嵐さんは、友人が「もしかして私なら、と思って連絡をくれたのかもしれない」と思った。

■2匹一緒に引き取りたい

子どもたちは犬派だったが、事情を話すと「飼ってあげたい」と言うので、友人に「引き取らせてほしい」と頼んだ。

するとそのタイミングで「もう1匹いた」という返事があったが、2匹とも引き取ることに迷いはなかった。

ただ、後から出てきた子は「逃げ回って捕まえられない、もし捕まえられてもきっとこの子は人に懐かないタイプだから、育てるのに苦労するだろう」と言われた。「それでもいいから何とか捕まえてほしい」とお願いして、五十嵐さんは引き取りに向かった。

「きっと兄妹なので、なんとかして2匹一緒に迎えたいという気持ちでいっぱいでした」

倉庫に到着すると、グレーの猫が元気よく鳴いていた。「もう1匹の子は?」と聞くと、社員さん達がやっとの思いで捕獲してくれたという黒い子猫が静かに段ボールの隅に顔をうずめていた。生後2カ月くらいだった。

「抱き抱えて初めてみたその顔は、ひと目で女の子とわかる愛らしい顔立ちだったことを、今でもよく覚えています。2匹を離れ離れにせずに済んで本当によかったと思いました」

■あと3日遅かったら…

家に連れて来てから、五十嵐さんは子供たちといくつかの約束をした。

「慣れるまでの間はケージから出さない」

「ケージから出しても触らない、絶対に追いかけない」

子どもたちは抱っこしたい気持ちを抑えながら、猫じゃらしで遊んだり、ごはんをあげたりしてよく世話をしてくれた。その甲斐あって、逃げ回っていた黒い子猫との距離も少しずつ縮まっていった。とうとう膝の上に乗ってきた時の子供たちの笑顔もまた、忘れることができないという。

名前はそれぞれ1匹ずつ、子供たちが決めた。黒の女の子は長男が、好きな歌手の飼い猫と同じ「ポン」と名付け、グレーの男の子は次男が、大好きな絵本「ボノロン」にちなんで「ロン」と名付けた。ひとり1匹ずつ遊び相手になったので、五十嵐さんは「やはり2匹迎えられて良かった」と思った。

家に迎えてから3日後、福島県は大雨で記録的な被害を受けた。

「子猫たちがいた場所の近くの川が氾濫し、あちらこちらで土砂崩れがありました。迎えに行くのがあと3日遅かったら…と思うと怖くなりました」

■小さな幸せをたくさん運んできてくれた

すぐに雪が降る季節になった。

「窓ガラス越しに生まれて初めての雪を眺めているロンとポンを見て、この寒空の中で過ごしていたらどんなに辛かっただろうと、この奇跡のような縁に感謝せずにはいられませんでした」

ポンちゃんは今ではもう、五十嵐家の女王様。典型的なツンデレで、家族全員がポンのいいなりだという。ロンちゃんは食いしん坊で、今ではポンちゃんの1.5倍の体重。いつも目をまん丸に見開いてよく鳴き、話しかけると必ず返してくれるので、会話しているような気になる。2匹ともどこからか猫じゃらしを咥えて運んできて、「遊んで」と言わんばかりに家族の足元へポトンと置く。

「私の言うことなどなかなか聞いてくれない息子たちも、この時ばかりは楽しそうに相手をしています」

ビニール袋やアルミホイルを丸めたボールが大好きで、投げると犬のように咥えて戻り、また投げてと催促する。下の子は、「猫がこんなに懐いてくれると思わなかった。だから最初は犬がいいと思っていたけど、猫でよかった」と言っている。

息子たちはそれぞれ反抗期だったが、ロンちゃんとポンちゃんが来てからは、リビングにいる時間が長くなり、会話も増えた。家族全員猫アレルギーだが、幸い重症ではないので、みんな目薬をさしながら猫吸いをしているという。

「不思議なことに、猫がかわいいと思うほど、いつか来るお別れの時のことを考えてしまいます。子ども達もこれから先、猫への愛情を通してたくさん思い出を作り、優しく強い子になってくれたらと思います」

五十嵐さんは、ロンちゃんとポンちゃんが、小さな幸せをたくさん運んできてくれた気がしている。

(まいどなニュース特約・渡辺 陽)

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