豊田真由子、繰り返し来る感染の波は誰のせいでもない 必要なのは、正しくおそれ、前向きであること

3月21日、緊急事態宣言が解除されました。

解除基準となっている指標(病床占有率、重症者用病床占有率、療養者数、新規陽性者数等)は満たしており、そもそも緊急事態宣言とそれに伴う様々な要請は、公権力による私権の大幅な制限でありますので、最低限の期間・最小限のもの、でなければなりません。

首相や知事の「解除後も引き続いての感染対策を!」という深刻な表情に比して、人出の多い街中の雰囲気は、少し異なっているように感じます。長引く緊急事態宣言に、多くの人は疲れてしまい、明るい春の日差しを求める切実さを感じます。自分と社会にとって、感染防止のために必要なこととは分かりつつ、先の見えない不安と交流を閉ざされた孤独は、想像以上に、人々の心と生活を蝕んでいるのだと思います。

もし今後、リバウンドが起こったとしても、「ほら見たことか!解除したのが、いけなかったんだ!」と責め立てるのは、合理的でも建設的でもないと思います。「感染を抑えながら、社会経済も活性化し、人々の不満や孤独も解消できる」そういう完璧な対策をご存知であれば、ぜひ教えていただきたい、もし、そうした完璧な解があるなら、ぜひ知りたいと、世界中が思っています。

新興感染症に対処するには、感染拡大防止と社会経済活動を共に維持しなければならず、感染状況と社会経済状況を見ながら、両者のバランスを取っていくしかありません。よく例えられますが、感染拡大防止策と社会経済の維持は、ブレーキとアクセルのように、同時に作動させてはダメなもの、ではなく、もし、社会を車に例えるならば、その両輪だと、私は思っています。両輪をうまくまわしていかないと、社会という車は、適切に動いていきません。私たちは、リアルな世界で、生物として、そして社会の一員として、「生きて」いかねばならないのです。

■“正しい理解”に基づき行動する

もちろん、でき得る限り、感染をしない・させない、重症者・死者を出さない、医療現場に負荷をかけない、こういったことは、とてもとても重要です。

メディアで新型コロナについて発信をし、医療現場の方々の奮闘について日々うかがい、親戚や友人・知人に、新型コロナウイルスに感染し、亡くなった方も、後遺症に苦しむ方もおり、その必要性は痛感しています。

ただし、新型コロナのような新興感染症に対峙するに当たっては、科学や歴史に依拠した“正しい理解”に基づき行動すること、適切に設定された目標に向かって進んでいくことが、必要です。そうでないと、不可能な目標に向かって努力をさせられる、あるいは、様々に生じ得る事態について、人々が不要・過剰に責め合い傷つけ合うといった出来事が、多く起こってしまうおそれがあると思うのです。

以前から申し上げていますが、そもそも、新興感染症の感染の波は、大きいもの小さいもの、何度も繰り返し来るのが通常です。「『ゼロコロナ』を目指す」という話がありますが、コロナは「ゼロ」にはなりません。これまで、人類が根絶できたウイルスは、天然痘しかありません(1980年 WHO天然痘根絶宣言)。

2009年4月に最初の患者が発見された新型インフルエンザH1N1については、6月11日にWHOのパンデミック宣言が出され、翌年8月10日に終結宣言が出されましたが、これは、決してウイルスを根絶した(go away)わけではないが、流行状況が落ち着いて、通常の季節風インフルと同じようになり、したがって、パンデミックは終わった(over)と解説されました。

そして、この新型インフルエンザH1N1は、現在は通常の季節性インフルエンザと同様に、毎年のワクチン接種の型の一つになっています。つまり、H1N1ウイルスが「完全にいなくなった」わけではなく、人類と共存していっているということなのです。

過去の大規模なパンデミック(中世のペストや20世紀のスペイン風邪等)に比して、現代社会でウイルスによる被害が相対的に少ないように見えるのは、健康・衛生水準の向上や医療・ワクチン等によるものであり、決してウイルスがいなくなったわけではありません。人類が開発を進めて野生生物と接すれば突然変異で銀型ウイルスが出現するリスクは高まり、航空網の発達で、感染は瞬時に世界中に広まります。新型コロナウイルスが収束しても、また別の新たなウイルスの出現は、これからも続きます。

■感染症対応は、一筋縄ではいかない

もちろん、政府の政策に対する評価や、他国との比較、例えば、人口当たりの感染者数を、地域的に近接する東アジア・東南アジア・オセアニア(日本に比べて人口当たり感染者や死者数がずっと多い欧米については、比較対象にしていません。)で見たときに、豪、ニュージーランド、台湾、ベトナム等と比較して、日本の状況が多いのはなぜか、といった検討は必要だと思いますが、必ずしもそのすべてが政策の違いを反映しているということでは無いと思います。

そして、当初感染抑制に成功したと言われていた韓国も、直近1ヶ月ほどの感染状況は、日本と同程度に増えてきており、感染症への対応というものが、一筋縄ではいかないことが分かります。「政府がちゃんとうまくやりさえすれば、完全に感染が抑えられるはずだ」と考えることが、おそらくそうではないのです。

・アジア・オセアニアの国々と日本の新規感染者数(人口比)

(インドネシア、日本、韓国、タイ、ニュージーランド、豪、ミャンマー台湾、ベトナム、中国)Our World in Dataより

■世代への理解も大切

<高齢者>

クラスターとして、高齢者の方の昼カラオケが問題にされました。これで、高齢者の方が、より一層家に閉じ籠もってしまわないか心配です。どの世代の方もですが、閉じ籠もることで、心身の状態がどんどん悪化していくことがよくあります。新型コロナにかかるのはこわいし、迷惑をかけてはいけない、と避けているうちに、ご家族やお友達にも会えないまま、持病や寿命で亡くなってしまったというお話も多く聞きます。屋外で散歩をする、親族の方は検査を受けて帰省する、など、制限がある中で、では、何ができるか、どうしたら実現できるか、を考えていただくとよいと思います。

<若者>

3月17日発表の東京の感染者数409人のうち、20代の感染者数が88人、全体の2割と、一番多く占めていることに対し、テレビでは、夜繁華街に集まっている若者の姿が、非難の対象として象徴的に取り上げられたりしました。上の世代に比べると、若者は、エネルギーに溢れ、様々な感情の発露として、集まり、語り合いたい(ときには羽目を外したい)ものであり、それを長期間我慢していることは、大変なことなのだろうと思います。

また、ある程度の年月を生きてきた大人と違って、子どもや若者は、なぜ今こうしなければいけないのか、についての理解と納得感が、成立しにくいだろうとも思います。人生は、楽しいこともあれば、苦しいこともある、今は我慢だけど、きっとその後にはよいこともある、ということも分かりにくく、我慢が苦痛にしか思えないかもしれません。

こうしたことを踏まえて、ではどうやって、行動を抑えてもらうか、気持ちに寄り添うことが必要だと思います。

■国民は“お客様”ではなく、力を合わせるべき同志

さて、上記のようなことを踏まえた上で、「解除されたから、もうなにをやってもいい」ではなく、引き続き、マスクや換気など、一人ひとりが感染防止策(マスク、換気、三密を避ける等)をきちんと講じることが大切、ということを改めて申し上げたいと思います。(皆さま、よくお分かりだとは思いますが。)

変異ウイルスの流行も懸念され、ワクチンが行き渡るには、まだ時間がかかります(そもそも、ワクチンが万能なわけではありません)。

・正確な情報を基に、正しくおそれ、最悪の事態を想定しつつ、前向きに。

・良い意味での諦めと覚悟。感謝と連帯。自然との共存。

・国民は“お客様”ではなく、この国の現在と未来に責任を持ち、力を合わせるべき同志。

がんばってまいりましょう。

◆豊田 真由子 1974年生まれ、千葉県船橋市出身。東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省。ハーバード大学大学院へ国費留学、理学修士号(公衆衛生学)を取得。 医療、介護、福祉、保育、戦没者援護等、幅広い政策立案を担当し、金融庁にも出向。2009年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官として、新型インフルエンザパンデミックにWHOとともに対処した。衆議院議員2期、文部科学大臣政務官、オリンピック・パラリンピック大臣政務官などを務めた。

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