「希望は大いにある」豊田真由子が考える日本のジェンダーギャップ問題の解決策

東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の森会長発言が大きな問題になりました。発言を批判し、会長を交代させることだけでは、なんら問題の本質的解決にはなっていない、ということです。我が国に、いまだ深く広く根付いている「ジェンダーギャップ問題」について、その実相と本質、そこに存在する深い溝やバイアス、そして、その解決の方途について、行政・政治・国際社会等でのリアルな経験も踏まえ、数回に分けて、考えてみました。

(1)そもそも、ジェンダーギャップとは?(2)ジェンダーの考え方は、時代によって変わってくる(3)男性に対するジェンダーバイアスもある(4)日本の『女性活躍推進』が、うまくいかないのはなぜか?(5)どの性の人も、どの世代の人も、どんな環境でも、生きていきやすい社会を~時代は変わってきている。希望は大いにある。最終回となる今回はこれまで検討してきたことを踏まえ、「では、一体どうすればよいのか?」を考えてみます。

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どの性の人も、どの世代の人も、どんな環境でも、生きていきやすい社会を~時代は変わってきている。希望は大いにある。

では、具体的にどうしていくことが、効果があるのでしょうか。どの環境でも、どの段階でも、どの方でも、できることは、たくさんあります。

■価値観を押し付けない

ジェンダーに関する考え方は、世代間ギャップが大きいものですが、人は自分と違う価値観を持っているのだ、ということを理解することが重要かと思います。

私は、厳格な父から「男の子が欲しかった」「女・子どもは下がっていろ」と言われて育ち、なんだかいつも申し訳ない気持ちでいっぱいで、ずっと自己肯定感を持てないままでした。

友人たちは、親族から「まだ結婚しないの」、結婚後は、特に配偶者の親族から「なんで仕事で旧姓を使うんだ」「子どもはまだか」「跡継ぎの男の子を」といった言葉を投げかけられ、つらかったという人がたくさんいます。

職場では、「え、担当者が女性!? 変えてほしい」「取引先の接待に、女性がいたら喜ばれるから、来て」「“女”を使ってポストを取った」「出産や介護をする人は、職場に迷惑をかける」等々、女性たちが経験した不条理について、漫画のようなビックリ話が、普通にいくらでもあります。

そしてまた、「男は、生涯働いて家族を養うべき。弱音を吐いてはならない。」が、どれだけ多くの男性を追い込んできたかを思うと、ジェンダー問題の複雑さと深刻さをしみじみと感じます。

誰しも、長年の人生の価値観や内面の思想までも根本的に変えることは、とても難しいことです。けれど、少なくとも、時代は移り変わってきている、押し付けてはいけないということを、意識して行動することで、個人も社会も変わっていくのではないでしょうか。

もちろんこれは、「男らしい」「女らしい」といった価値観自体を否定するものではありません。どの性の方であれ、ご自身が「男らしくありたい」「女らしくありたい」ということを望み、そう振る舞うことは、もちろん自由であり尊重されるべきことです。ただ、それを、他人はもちろん、身近な家族・親族含め、自分以外の者に押し付けることは適切ではない、ということだと思います。(なお、子どもの価値観の形成は、保護者の言動によって大きく影響を受けるということにも留意が必要です。「女の子だから、この習い事、この服装」「男の子だから、泣いちゃいけない」とか言ってませんか?)

■企業の対策には実効性を持たせる 「多様性の尊重」の真の理解を浸透させる

欧米の証券取引所等では、「企業の取締役会に女性やマイノリティを登用すること」を求め、達成できない場合は、理由の説明を求める動きがみられます。そして、大手機関投資家は、こうした要件を満たしていない企業は投資の対象としない、という姿勢を取るところもあります。

コーポレートガバナンスの戦略的手法として、「comply or explain(実施せよ。そして、できないのであれば、その合理的理由を説明せよ。」というものがあります。拘束力のある法律を設定するのではなく、企業の自由に配慮しながらも、政策的な趣旨を緩やかに実現しようとするものです。歴史や文化的差異はありますが、我が国も、真にグローバル世界の一員であろうとするならば、ESG投資といった形で、企業側が変わっていくことが求められます。

それには、こうしたことが、企業収益の向上に資するだけではなく、社会全体にとって必要であり、良い影響をもたらすものなのだ、という考えが広がっていくことが大事だと思います。

「ダイバーシティ」「多様性の尊重」には、段階があります。

①排除(構成員は、ほぼ男性。社会の主要な意思決定が、男性のみにて行われる)

②順応(男性社会の論理に順応できるならば、女性が入ってくることを認める)

③対等(採用や昇進、育児政策等が、制度上だけではなく、実際の運用でも「対等」になる。ただし、マイノリティの意見や視点は“特別なもの”と受けとめられる)

④ ダイバーシティマネージメント (それぞれが違っていて、素晴しい。人々の意識の上でも「対等」になる。多様な能力を活用するために、論理、制度、社会、文化等が変更される)

先駆的な欧米の取組みは、④を目指しているわけですが、実は今の日本は、まだ②と③の間にいます。

④は、「マイノリティが多数派の論理に合わせる」ではなく、「一人ひとりが違っていることが素晴らしい。多様であること・違っていることが価値を発揮する。多様な能力を活用するために、論理や制度、社会、文化等を変更する。」という考え方で、法的・倫理的に労働力の多様性に取り組む段階を越えて、競争優位性を組織にもたらす動力として、ダイバーシティ推進を行うものです。

欧米では1990年代以降、多様性の尊重と企業の競争優位性についての検討が進み、ダイバーシティの取組みを進展させることが、企業の生産性や創造性を向上させる、具体的には、商品やサービスの開発・改良、業務効率化、市場評価の向上、優秀な人材獲得、職場環境改善、離職率の低下等に資することが示され、企業は収益性を改善するために、全社的なダイバーシティマネジメントを目指すようになりました。

ここで重要なのは、女性か男性かに関わらず、個々の人材の活用ができているかどうか、ということです。個々の人材の個性や能力を見ずに,決まった手順・指示命令系統で決まった業務をこなし、それを年功序列的に評価する人事制度のままでは、真の多様性の尊重は実現しません。そして、働き手の側も、「多様性」を構成する大切な一員として、一人ひとりが、自分の考えを持ち、自らを高め、提案する力を育て、組織や社会に貢献する事が求められています。

■“仕事”に対する考え方や働き方を、抜本的に変える

私はジュネーブで、WHOと加盟国193か国の外交団と一緒に仕事をする中で、人々の生き方働き方考え方に、刺激と衝撃を受けました。午後5時には仕事を終え、夕食は必ず家族と取る。仕事終わりの飲み会もない。長期間のバカンスもしっかり取る。それでも、国も社会も経済もしっかり回っている。

その頃、仕事ばかりしている私にフランス人の友人が言いました。「人生は、仕事が3分の1、家庭が3分の1、そして、自分の時間が3分の1だよ」と。ハッとしました。当時、私は「仕事が9割、家庭が1割」で、家族どころか、自分の時間なんて考えたこともありませんでした。海外で、仕事をしながら出産し、ひとりで赤ん坊を育てる、綱渡りの毎日でした。けれど、他国の同僚には、2人も3人も出産しながら、いきいきと仕事を続けている女性がたくさんいて、日本との大きな差を痛感しました。

ポイントを挙げてみます。

・周囲や社会が、それを当たり前と思っているかどうか。

組織の上の人たちは「自分もやってきたこと」、下の人たちは「これから自分がやること」と思っていれば、負担や迷惑とは受けとめられず、当然のこととして周囲がサポートをします。そうなるまでには一定の時間がかかるわけですが、でも日本も着実に変わってきているとは思います。

・長時間労働を前提に仕事を組み立てない。「真にやる必要のあること」だけをやる。

よくある「20時に職場の電気をいったん切る」「とにかく残業を一律に禁止する」ことではダメで、そもそもの仕事に対する考え方や、仕事の内容を変える必要があります。

個人も組織も、「午後5時までに仕事を終わらせなきゃ」と思えば、必然的に、無駄なこと・非効率なことは行わなくなります。私は帰国後、長時間労働の朝5時までの職場に戻り、「う~ん、10のタスクのうち、4はやらなくても大きな支障はないな」と気付きましたし、必要なことでも、もっと効率的にできると思うこともたくさんありました。(膨大な細かい国会答弁作成とか、省内10人以上一人ひとりに個別に説明して、ハンコ決裁を取って回るとか)。全く異なる価値観に触れることで、それまで当たり前と思い、疑問を持たなかったことが、実はちっとも当たり前でないことに気付きました。。

テレワーク、フレックス、短時間・日数限定勤務、などの柔軟な働き方が浸透し、人生の中心が仕事メインではなく、家族や自分のことも大事にできるようになるといいのですが…

・家事も育児も大事な仕事

「仕事」というと「外に出て働いてお金を得ること」と思ってらっしゃるかもしれません。けれど本当は、家事や育児も立派な「仕事」です。外注したらどのくらいの金額になるか考えたら、その価値が分かると思います。専業主婦・主夫(パート等の勤務形態で働き、家事の主な担い手となっている方も含む)の方の家庭や社会への貢献は、ものすごく大きいのです。

コロナ禍でたくさんの制約がある今、家族や友人などと過ごす時間や、自分にとって本当に大切なことはなにか、を改めて問い直すことも多いと思います。「家族や身近な人を幸せにする」というのはとても貴重なことで、そして実はそれは、努力しないと実現が難しいことなのだと思います。

そう考えると、家事育児について、「女性がやるべき、男性がやるべき」ではなくて、「相手を幸せにするための大切な役割」をそれぞれが果たす(※もちろん完璧でなくていい)ということになるのでは、と思う次第です。

  ◇   ◇   ◇

ジェンダーギャップについて、ダメダメと言われる日本ですが、希望は大いにあると思います。

不平等で不合理なことは、まだたくさんあるけれど、それでも、状況は確実に変わってきています。私たちの上の世代の女性たちは、言いたいことも言えず、やりたいことも叶わず、耐え抜いて生きていました。そして、今の若い女性たちは、私の世代の女性が、諦めたり我慢したり妥協したりしてきたことを、そうしなくても済むようになりました。

そして、私たちは今、「そうじゃない、男性も女性も平等なんですよ」と言えるようになりました。さらに、男性に対するジェンダーバイアスも多々あるのだということや、性に関わりなく、違うことが価値であり、多様性を活かすことが組織や社会のエネルギーになるということも、認識され始めているのではないかと思います。着実に時代は変わってきています。

--どの性の人も、どの世代の人も、どんな環境でも、誰もが生きていきやすい社会を。

お一人おひとりが考えることから、前に進んでいくのだと思います。

◆豊田 真由子 1974年生まれ、千葉県船橋市出身。東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省。ハーバード大学大学院へ国費留学、理学修士号(公衆衛生学)を取得。 医療、介護、福祉、保育、戦没者援護等、幅広い政策立案を担当し、金融庁にも出向。2009年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官として、新型インフルエンザパンデミックにWHOとともに対処した。衆議院議員2期、文部科学大臣政務官、オリンピック・パラリンピック大臣政務官などを務めた。

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