すべり台を何度もすべる、ブランコを20分以上こぐ…もしかしたら「感覚鈍麻」?止めさせると逆効果

 保育園や幼稚園などへ巡回相談で伺った際、保育士の先生方から「いつも同じ遊具遊びばかりする子がいるのですが、もっと色々な遊具を使わせた方がいいのでしょうか?」といったご質問をいただくことがよくあります。

 例えば「ブランコを20分以上漕いでいる」「滑り台は何度も滑って遊ぶけれど、他の遊具にはあまり興味を持たない」などです。遊具遊びは運動発達の観点からも、体づくりにとても効果がありますが、そのまま見守るか、他の遊具でも遊ぶようにした方が良いのか、保育士さんだけでなく、保護者の方も悩まれることと思います。

 実は、特定の遊具ばかりで遊ぶ理由の一つとして「自分の好きな感覚刺激が入るから」という感覚刺激が関係していることが挙げられます。今回は、好きな感覚刺激と一つの遊具で長く遊ぶことの関係についてご紹介します。

◆人の好みにも大きく関係する感覚刺激

 まずは、感覚刺激というものについて、簡単にご説明します。

 感覚刺激とは、体で感じる体への刺激のことを指します。具体的には、視覚(目)・聴覚(耳)・触覚(手のひらや足の裏で感じとる感覚)・前庭覚(体の揺れや回転を感じる感覚)・固有覚(体がどのような位置にあるか見なくても分かる感覚)などがあります。

 これらの感覚は、人によって好き嫌いがあります。例えば、聴覚だと「黒板に爪を立てた音(キーっという音)が苦手・気にならない」、触覚刺激だと「スライムのようなネバネバした感触が好き・嫌い」、前庭覚刺激だと「遊園地のアトラクションが好き・嫌い」などです。

 この好き嫌いは、人が持って生まれた感覚のため、「繰り返し刺激を入れたから慣れる」というものではなく、その人の特性であり、多少なりとも誰にでもあるものなので、嫌いな刺激を無理に好きな刺激に変えようとする必要はありません(脳がそもそも苦手としていることです)。

◆同じ遊具ばかりで遊ぶ子どもは、その感覚刺激が好きなことが多い

 では、同じ遊具で遊ぶ子どもの場合を考えてみましょう。

 この場合は「その遊具から入る刺激を求めている(その刺激が好き)」ということが理由として考えられます。例えば「ブランコをずっと漕いでいる」場合は、揺れや回転刺激(前庭覚刺激)を求めていると言えますし、「滑り台ばかりする」場合は、顔に風が当たる感覚(触覚刺激)が好き、疾走感(スピード感)が好き、といったことが考えられます。

◆「好きな感覚」は「刺激として入りにくい感覚」でもある

 一つ押さえておいていただきたいことは、「好きな感覚刺激」は、「刺激として入りにくい感覚」でもある、ということです。

 刺激が入りにくいことを「鈍麻」といいます(過敏の反対)。感覚鈍麻の場合、なかなかその刺激が入らない(鈍い)ので、たくさん(長い時間)刺激を受けないと満足できないということになります。

 例えば、水道の蛇口をひねって、コップに水を入れていく様子を想像してみてください。空のコップが、「気持ちが満たされていない状態」、水がなみなみと入った状況が「気持ちが満たされた状態」とします。コップに入る水の勢いが強いと、すぐにコップは一杯になります。反対に蛇口から出てくる水の勢いが弱いと、なかなかコップ一杯にはなりません(時間がかかります)。この「水の勢い」が「刺激の入りやすさ」です。刺激が入りやすいと、比較的短い時間でも満足しますし、逆に刺激が入りにくい状態(鈍麻)だと、満足するまでにかなり時間を要します。

 つまり同じ遊具で人よりも長く遊ぶ子どもは、その遊具から入る感覚刺激が、他の子に比べて入りにくい(コップに水がチョロチョロとしか入らない状態)と言えるのです。

 例えば、ブランコに長く乗り続けるお子さんの場合、揺れ・回転刺激である「前庭覚刺激」が、入りにくいため、「一定の満足感を得られるまで長い時間がかかる」ということになり、そのため「人よりも長い時間漕ぐ」ということになります。

◆途中で止めさせると、満たされ感が得られない

 大人からすると「同じ遊具ばかりで長時間遊んでいるようなら、止めさせた方がいいのでは?」と思うかもしれませんが、むしろそれは逆効果となります。なぜなら、コップが一杯になっていないのに、水を注ぐのを止めてしまうことと同じだからです。

 十分な満足感が得られない(刺激が入らない)まま、遊具遊びを止めさせられることは、子どもにとっては、気持ちの消化不良が起こります。他の子の迷惑にならない限りは、お子さんが自発的にその遊びを止めるまで、好きなだけその遊具遊びをさせてあげるのがよいでしょう。多くの場合、「一定の満足感が得られれば、自分からその遊具遊びを止めて、他の遊びに移る」ものです。

◆発達特性のあるお子さんは、感覚のバラツキがあることが多い

 なお、発達特性のあるお子さんの場合は、これらの色々な感覚刺激の好き・嫌い(苦手)に極端なバラツキがあることが多くあります。例えば、揺れや回転の刺激(前庭覚刺激)を求めて、一人用のトランポリンをずっと跳び続けている、自分でぐるぐる回る(その場で回転する)、などです。

 十分満足感を得られることで、その後は気持ちが落ち着いて課題に向かうことができる、など良い変化につながることが多くありますので、状況が許せばできるだけ好きな刺激を中断しなくてもいいように配慮してあげてください。

◆まとめ

・人には、持って生まれた「好きな感覚刺激」と「苦手な感覚刺激」があります。

・好きな遊具ばかりで遊ぶ傾向のあるお子さんは、その遊具から入る感覚刺激が体に入りにくい傾向(鈍麻の傾向)があります。

・その場合は、子どもが自分でその遊具遊びを止めるまで、好きなだけ遊ばせてあげると、満足度を上げることができます。

・発達特性のあるお子さんは、感覚の好き嫌いに大きなバラツキがあることが多くあります。好きな遊びを好きなだけ遊ばせることで、満足度を高めてあげることが大切です。それにより、気持ちが落ち着き、課題に向かいやすくなる、などの効果も期待できます。

◆西村 猛 幼児期の発達と発達障害が専門の理学療法士。発達支援の事業所を複数経営。子どもと姿勢研究所代表。全国各地の保育園で運動発達や発達支援に関する講義を実践中。YouTubeチャンネル「こども発達LABO.」では、言語聴覚士の妻と二人で、言葉と体の発達や発達障害に関する情報を発信中。

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