「ビスケット、欠けていたら連絡を」返送用の箱に1枚いれて安全の証に 時計修理業者の心遣いが粋すぎる

 「腕時計を修理に出そうと思ってネットで手続きしたら『この箱に入れて送って下さい』って箱の中からビスケット出てきた」

 という書き出しで始まるツイートが、話題を呼んでいます。

 つぶやいたのは、滝川(@MaikoTakigawa)さん。そのビスケットには「欠けてなかったら配送経路は安心という事です。そのビスケットは細やかなお礼です食べて下さい」という内容の手紙が添えられていたといい「洒落とるなぁって思いながら食べてる」と書き込んだところ、「ただのビスケット一枚でここまで信頼させてくれる事ってないだろうなぁ…」「粋だねぇ!」などと反響が寄せられ、2日で15.5万以上の「いいね」を集めています。

 滝川さんによると、修理を依頼したのは名古屋時計修理工房(名古屋市)。時計は、20年くらい前のgucciのもので「酔っ払ってどこかで失くしたと思い、すっかり忘れていた物が断捨離をしていたら出てきた」と言います。

-20年前…なかなかの代物ですね。

 「もちろん止まっていましたし、ベルトもボロッボロで、グッチへ修理に出す事が躊躇われるような状態だったので、このまま捨ててしまおうと本当は思いました。が、何となく検索をしてみたら、うろ覚えですが『自社では手に入らないメーカー専有部品は社外製ではありますがなんとかします』といったような事が書かれた同工房のHPを見つけ、『じゃあダメ元でお願いしてみるかな』とお願いすることにしました」

-これまでも時計の修理は度々利用されていたのですか?

「いえ…。私はバブル期すぐ後の『社会人たるもの見栄を張ることも嗜みの1つ』といった習慣がまだ残っていた世代なので、腕時計はコレクションにするほど持っていました。でも、あげてしまったり、失くしたり、売ったり…で、恥ずかしながら1つも修理に出した事はありませんでした」

-では、初めての修理で、こんなサプライズ?が

「はい。でも、ネットでのお買い物ではよくお菓子がついてきますし、深い意味を考えることなく、いつものオマケか、と食べていました。その時にお手紙をみて『へーっ』と思い、そのままをツイートしただけなので、正直驚いています。でも皆さんのコメントにあるようにそれだけ素敵な修理屋さんに出会えたのだと純粋にとても嬉しい気持ちです」

■始まりは「せめてものお礼」、そして「信頼」へ

 その「名古屋時計修理工房」は2012年の創業。時代の流れで街の時計店が減る中、いち早くインターネットでの修理に乗り出しました。とはいえ、まだ直接お店に持ち込むのが主流の時代。担当者は「どこまで需要があるかは手探りでしたが、配送となると、梱包キットをお届けした後、お客様がご自身で大切な時計をパッキングし、コンビニなどに持っていく手間がかかる。お客様にご負担ばかりお掛けすることに、どうしても疑念がぬぐえなくて…せめて注文してくださったお礼に、何かささやかなプレゼントをお贈りしたい-と考えたのがきっかけでした」と話します。

 時計の関連グッズも考えたものの、どんな時計でも使えるような商品は見当たりません。そんな時、高級ブティックや自動車販売店などでロータスのビスケットがお茶菓子として出されるのを思い出し、「これだ」と思い付いたといいます。

 さらに、「修理に出されるような時計は、5年に一度のオーバーホールが必要だったり、もう20年30年と使い続けられていたりと、値段はもちろんお客様の思いがこもったもの。割れやすいビスケットを入れておけば、箱を開けたときの状態で、その配送業者が信頼できるかどうかも判断できると気付いたんです。割れるということは投げているということですから」と担当者。「私たちの仕事は、お客様の信頼が第一。安心して預けていただき、熟練の職人たちが修理し、安全にお戻しする。ロータス(蓮)が象徴する輪廻転生にも通じると思いました」と、その思いをつづった手紙も添えることにしたそうです。

 現在、月に500件ほどの注文があり、うち配送は300~400本と大半を占めます。これまでも「ビスケットが入ってた!」と喜ばれることはあったそうですが、これほどまで話題になったのは初めてといい「不思議でしょうがないですが、嬉しいです」と話します。

 ちなみに、ビスケットは時計を入れるためのビニールパックの中に入れて緩衝材の間に入れられており「箱を開けてビスケットを取り出す手順の逆をたどれば、迷うことなく安全に時計を梱包できる」のだそうです。

 スマホ全盛の今では、コアなファンを除き、腕時計をする人も減っています。滝川さん自身も「高級腕時計から当時流行っていたカジュアルな腕時計まで、毎日付け替えても数週間ではまだ持て余すほどの数を持っていた時期もありましたが、そのほとんどを手放してこの数年は腕時計をする習慣すらありません。腕時計が好きか嫌いかと考えることもないです」と明かします。

 今回修理に出した腕時計は「たまたま出てきただけで、これまでに手放してきた物に比べたら値段自体はそんなに大した物ではないんです」とも。それでも、「今それを見付けた事、直るなら直してもらいたいなと思った事、それに何か意味があるのかななんて思ったりもして…もし直してもらえたなら生涯大切にしたいと思っています」と話してくれました。

(まいどなニュース・広畑 千春)

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