雨の中見つけた子猫…でも住んでいたのは「ペット不可物件」 保護が引っ越し、彼との入籍のきっかけに

雨が降る中、ずっと鳴いていた子猫がいた。宮城県に住む渡辺さんは、子猫の声に気づいたが、姿は見えなかった。ところが、昼過ぎ、子猫が近づいてきた。いったん保護したが、渡辺さんは当時、ペット不可の部屋に住んでいた。

■保護したいけど、飼えない

宮城県に住む渡辺さんは、日頃から野良ちゃんをよく見かけるところにパートナー(現在の夫)と暮らしていた。そこは、日頃から野良猫をよく見かけるところで、春、秋になると野良猫が出産した子猫をよく見かけたという。

2019年6月19日、朝から雨が降っていたのだが、ずっと外で鳴く子猫の鳴き声が聞こえていた。猫好きの彼と渡辺さんは、「いつか猫ちゃんお迎えしたいね」といつも話していて、野良猫を見かけるたびに声をかけては様子を見ていた。そのため子猫の鳴き声が少し気になっていたが、姿は見えなかった。

昼過ぎ、雨が降ったり止んだりする中、道路を渡って渡辺さんのほうに近づいてくる子猫がいた。ずっと鳴いていた子猫だった。今まで近所で見かけた子猫の中でも一番小さな猫だった。

当時住んでいたのは、「ペット飼育不可」の賃貸物件だったため、ただただ様子を見ていることしかできなかったが、雨が強くなってきたので、渡辺さんは外に出て子猫に声をかけた。まったく警戒心がないどころか、足元へスリスリ、しまいには膝の上に乗ってきた。しかし、自分では保護してあげることができない、懐かれては困ると思い、渡辺さんは心を鬼にして家の中に戻り、中から様子を伺った。

「子猫は雨の当たらない玄関先で鳴いたり、小さい体を一生懸命毛づくろいしたりしていて、私は、その姿を見て知らないふりをすることはできませんでした」

「保護するということは、その子の命に最後まで責任を持つということ。この部屋では飼うことだってできないのに、その後はどうするの?猫は好きだけど、飼ったこともなければ猫に関する知識もない。だからと言ってこのままこの子を外に放置することもできない」と、自問自答を繰り返した。母猫か兄妹猫が現れないかとしばらく待っていたが、姿を見せなかった。

■母猫さん、現れないで!

3時間ほど様子を見ていろいろ考えたが答えが出ないので、渡辺さんは、彼に連絡を取り相談した。彼は「とりあえず保護!」と返事をしてきた。渡辺さんは、「とりあえずってそのあとはどうするの?」と不安だったが、彼の答えに背中を押されるように子猫を片手で持ち上げ、「軽い!子猫ってこんなに軽いんだ!」と思った。 

ブランケットやタオルの準備をしている間、子猫は渡辺さんの足元をちょこちょこ付いて歩いた。

「私は母性が爆発して泣きそうになりました。お腹が空いているだろうと、たまたま家にあったドライフードをお湯でふやかし、冷ましてあげてみたら見事な食べっぷり!お腹が空いていたのでしょう」

お腹が満たされた子猫は、部屋の中の探索を始めたと思ったら、座椅子におしっこをした。トイレも必要なのだと気づいた渡辺さんは、ネットで簡易トイレの作り方を調べて準備した。その後、粗相をすることはない賢い子だったという。

その日は、彼が持ち帰ったダンボールでベッドを作り、買ってきてもらったごはんを与えた。子猫をどうするか話し合い、明朝、母猫を探してみて、母猫がいれば返すことにした。一方で、野良猫にしては人馴れしすぎているし、迷子猫かもしれないとも思った。迷子猫の届けが出ていないか動物愛護センターや警察に連絡して、Twitterでも飼い主を探す。それで見つからなければ、猫大好きで猫に詳しい彼の妹に相談するということにした。

「私は、外の世界に戻すことだけは賛成できなかったのですが、自分が置かれている環境を考えたら仕方ないと、泣く泣く承諾したのです。正直、母猫さん現れないで!と願っていました」

■殺処分の対象になる可能性もある

翌日早朝、彼が子猫を連れて近所を散歩した。

「彼の顔を見ながら、足元をちょこちょこ歩く姿を見て、『この子、絶対に私たちと一緒にいたがっている!』、いつでも会える妹のもとで過ごしてほしいと思いました」

その後、彼が愛護センターに連絡。届けは出ていないと確認した後、「引き取ってもらえないかと相談すると、「殺処分の対象になる可能性もある」と言われた。

「ありえない。この時点で、飼い主以外の人へ引き渡すという選択肢は、彼の中からも消えたように感じました」

Twitterでは1800を超えるリツイートで拡散の協力を得たが、里親希望の方はいても、「飼い主です」と名乗り出る人はいなかった。「動物虐待目的で近づく人にはくれぐれも気をつけてほしい」との注意喚起や「里親さんになってあげてください」との声もたくさんあった。里親希望者には、「里親探しではないのでごめんなさい」と話したそうだ。

彼の妹は先住猫を飼っていたので迷っていたが、「引き取るのは構わないけど、いずれは二人の家族として迎えてほしい」と言った。

「安心してお願いできるところが決まったので、心から安堵したことを覚えています」

翌日、彼の妹が病院へ連れて行くと、月齢約2カ月との診断だった。ノミダニも付いておらず、血液検査でも白血病、エイズともに陰性の健康な子だった。

■強くたくましく幸せに育ってほしい

2カ月あまり妹に一時預かりをしてもらい、1~2週間に1度は会いに行った。渡辺さんと彼は入籍することが決まり、ペットと一緒に住める新居で暮らし始めた。9月1日、子猫を迎える環境が整ったので、正式に家族として迎えた。

「同棲中であっても、未婚カップルへの譲渡は認められないことが多い。いつでも猫を迎えられるように、ペット可の物件に引越したいと、なつと出会う前から考えていて、そろそろ入籍も視野に入れようかという話にはなっていましたが、具体的には何も進んでいなかったのです。なつが私たちを導いてくれたのかもしれません。とっても不思議な出会いでした」

その頃放送していたNHK朝ドラ"なつぞら"の主人公が「なつ」という名前だった。戦争孤児でも強くたくましく幸せに成長していく姿に、この子も孤児だけど、なつのように育ってほしいと思い、夏雨(なつ)という名前にした。出会った日が初夏の雨の日だったということもある。

二人の会話はいつもなつのこと中心。気づくとなつちゃんにばかり話しかけているという。人間の生活のしやすさより、なつちゃんの安全を優先している。何より、なつが朝起こしてくれるので早起きになったそうだ。

(まいどなニュース特約・渡辺 陽)

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