コロナ禍で舞台中止続いた女性浪曲師・瑞姫の思い「床を拭いて自分もキレイに」…27日に公演

 コロナ禍で多くのイベントや公演が今春以降、中止や延期になった。現在も感染拡大が収まる見通しは立っていないが、スポーツや芸能など興行の世界では今秋から観客の入場制限緩和にかじを切り、徐々にではあるが、半年間の「失われた時間」を取り戻そうという動きになっている。初舞台から27年にしてデビューCDをリリースし、さらなる活躍が期待された今年、出演舞台が中止になるなどした浪曲師・瑞姫(たまき)にスポットを当て、その歩みや思いを聞いた。

 瑞姫は1968年生まれ、東京都江戸川区出身。大学卒業後、アパレルメーカー勤務を経て、93年、浪曲師・二代目東家浦太郎に入門し、同年12月、浅草木馬亭で「太田ももこ」の芸名で初舞台を踏んだ。2011年に瑞姫と改名。さらに浪曲の源流を学ぼうと、滋賀の江州音頭や大阪の河内音頭を取り入れた節遣いの作品を展開し、19年3月から河内音頭取りの山中一平に本格指導を受け、大阪や東京で盆踊りにも参加している。

 今年3月22日に浅草木馬亭で予定された公演は「中止」となった。瑞姫は「一番下のおとうと弟子と古典浪曲を一生懸命稽古して、それぞれの成果を聴いていただこうという大切な会。準備も進めていたので赤字」と振り返る。

 どのような思いで日々を過ごしたのか。瑞姫は「表現の場を増やすことばかり考える前に、自分のプライベートをきちんと見直す良い機会ととらえました」と受け止め、「たくさんの皆さんも実行していましたが、床を拭いたり、トイレ掃除をしていると不思議と、床と同じで自分もキレイにしなきゃ、と思い始めます。人前に立つパフォーマーとして自分にも気を配る訓練をする良い機会でした」と明かす。「床」と向き合うことで学ぶことがあった。

 また、「いろんな部分で生演奏の方が上と思っていましたが、今回初めてのネット配信やCD発売を通して、視聴者のそばで自分の魅力を伝える点について、もしかしたらライブより優れた手段ということに気づかされました」とも付け加えた。

 5月にユーチューブ「瑞姫チャンネル」を開始。7月には初のCDアルバム「河内音頭 櫻川と黒鷲~幡随院長兵衛傳より」をリリース。2人の力士に絡んだ男たちの物語を、浪曲と河内音頭、そこにジャズやダンス音楽の要素も混じり合った熱いグルーヴ感で展開。音楽誌でも注目された。8月発売の「ミュージック・マガジン」ではワールドミュージックの紹介欄で、プリンスの名盤を特集した9月発売の「レコード・コレクターズ」最新号の中でも新譜レビューで取り上げられた。

 東京出身で、河内音頭と向き合う。その「壁」も含めて思いを吐露した。

 「浪曲は訛(なま)りを治してから入門しろと昔から言われています。ところが、河内音頭の節付けには大阪弁が大いに活(い)かされていることに気付いた途端、緊張感がさらに増しました。それとは別に、自然でいやらしくない、愛きょうのあるべんちゃらができなくて、芸人として損をしてるなー、と常々自分に感じていましたので、河内音頭をきっかけに知り合った素敵な大阪の方々を尊敬し続け、皆さんのような素敵な人になれたら壁はなくなる!と信じています」

 27日には3月に中止なった公演が「瑞姫の浪曲を聴く会~秋に聴きたい和の節そして音曲たち」と題して同所で開催される運びとなった。コロナ対策として、会場定員130人のところ、入場は半分以下の60人に制限。スタッフは「公演の模様は動画撮影し、後日、配信をすることで、外出をためらわれている皆様にも、元気で頑張っている姿をお届けしたいと考えています」と補足。瑞姫は「スタッフやバンドメンバーと日頃とても仲良くさせていただいています。そのまんま、私たちを観ていただくことに意義を感じます」と今年初公演に意気込む。

 さらに、朗報もあった。昨年に続く出演が期待され、今年7月開催予定だった東京・錦糸町の「すみだ錦糸町河内音頭大盆踊り」は中止となったが、10月3日にライブ演奏を交えた地元ケーブルテレビ特別番組の放送と共に瑞姫の出演も決まった。違う形で表現の場を得た。

 コロナ禍における雌伏の時期を経て、完全な形ではないまでも、実りの秋となるか。CDお披露目でもある目前の公演に向け、瑞姫は「今回のCDは制作スタッフみんなの思いが詰まった、私の新たなスタートの大切な道しるべ。迷ったらまたスタート地点に戻って、皆さんに感謝の気持ちを忘れず、毎日朗らかに歩み続けることが課題です」と前を見据えた。

(まいどなニュース/デイリースポーツ・北村 泰介)

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