書店とコンビニで枕100万個売った男 「本当は布団を…まだ諦めていません!」

 書店やコンビニで枕が売られる時代が来るとはーー。出版大手の宝島社(東京都千代田区)が発行する低反発枕シリーズ「天使の深睡眠マクラBOOK」が2020年8月の重版で100万部を突破することが分かりました。書店員も「本ではありえない大きさ」と驚く、出版社が作った枕の誕生秘話を紹介します。

■本当は布団を売りたかった

 「マクラ本」の担当編集者は、同社マルチメディア局の編集長清水弘一さん。ミリオンセラーは同作で5作目というヒットメーカーです。

 枕シリーズ誕生のきっかけは、2011年までさかのぼります。「布団を買い替えたいが購入が大変」という高齢者の声を聞いた清水編集長は、書店やコンビニで布団が手軽に買えたらいいんじゃないかと思い付き、企画を進めます。しかし手元に届いた布団のサンプルは1メートルを超える超巨大なサイズ。「圧縮技術が進んでいるので可能だと思ったのですが」と振り返ります。

■布団がダメなら枕で勝負

 清水編集長は諦めませんでした。2014年、再び寝具の開発にチャレンジ。今度は布団よりサイズの小さい枕です。東洋医学の専門家とともに首にフィットする硬さを求め試行錯誤。サンプルを10種以上作成し、ついに商品化にこぎ着けました。2016年11月発売の「天使の深睡眠マクラBOOK」です。

 色違いやセブン-イレブン限定のスペシャルパッケージ商品を次々打ち出し、2019年12月には改良版「新感覚 高さ・硬さ調整機能でぐっすり眠る 天使の深睡眠マクラBOOKプレミアム」2380円(税抜き)を発売。2020年8月の重版でシリーズ累計100万部を突破します。

■「出版社で枕を作るとは」

 「出版社に入社して枕を作ることになるとは思ってもいませんでした」と語る清水編集長。これまでのミリオンセラーはスッキリ美顔ローラー、TRFイージー・ドゥ・ダンササイズ DVD BOOK、パン型付き!日本一簡単に家で焼けるパンレシピ、出版社が作ったおしゃれルーペメガネBOOK。どれもこれも、ひと昔前の書店店頭では考えられない物ばかりです。

 大学卒業後、IT企業の営業マンを経て同社に入社。自身の性格を「元々は怖がりで慎重。新しいことにチャレンジするような人間ではありませんでした」と分析します。「慎重になりながら新しい商品を制作しています。今後もこの点は変えないまま、出版社の枠を超えた、最新の技術力を駆使し、誰もが驚く最先端アイテムを作ろうと考えています」(清水編集長)

■書店さんの本音は

 「初めて見たときはびっくりしました。本ではありえない大きさでした」。こう明かしてくれたのは、大手書店チェーンの雑誌担当者。

 同商品の梱包サイズは約31×22×13センチ。入荷した商品を見たスタッフからは「これで1個なの!?」と悲鳴が上がったそうです。通常の付録付き雑誌約3冊分の厚みは「店で準備する買い物袋にギリギリ入るサイズです」。

 雑誌売り場の棚には収まらないため、急きょ特設テーブルを準備し陳列。「その分、注目度は抜群です。実際かなり売れているんですよ。(売り上げデータの画面を見ながら)いやあ、ほんとに売れていますね」(雑誌担当者)。100万部突破の勢いを裏付けてくれました。

■「布団も諦めていません!」

 ミリオンセラー6作目の準備はもう始まっているのでしょうか。「100万部6作目候補はもう市場に出ています」(清水編集長)。店頭を賑わす同社商品の表紙がいくつか浮かびます。さらに「布団も諦めていません!」。書店やコンビニ店頭で、まさかの光景が繰り広げられる未来があるかもしれません。

■最近の100万部突破本は

 ここ最近の100万部突破本をいくつかピックアップします。

・「ペスト」(カミュ/新潮文庫)2020年春に104万部

・「一切なりゆき」(樹木希林/文芸春秋)2019年3月に100万部

・「ざんねんないきもの事典」(今泉忠明監修/高橋書店)2018年2月に100万部

・「漫画 君たちはどう生きるか」(吉野源三郎原作・羽賀翔一漫画/マガジンハウス)2018年1月に100万部

・「九十歳。何がめでたい」(佐藤愛子/小学館)2017年11月に100万部

(まいどなニュース・金井 かおる)

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