和ませ係のシニア親子猫がいる自転車屋さん うちの福招きねこ~西日本編~vol.16

 大分市府内町のサンサン通り商店街にある「サイクルショップコダマ」は1927(昭和2)年創業のまちの自転車屋さん。「日本一の売上店」ではなく、「日本一の地域一番店」を目指し、自転車を利用する地元の人たちに寄り添ったサービスを提供し続けている。3代目社長で同商店街振興組合理事長の児玉憲明さん(59)が府内町本店で飼っているのが、ハチワレの「クロ」(メス、19歳)と、その娘でグレーの「グレイ」(メス、17歳)。2匹は、スタッフをはじめ地域の人たちから長年愛されてきた。児玉さんに話を聞いた。

 児玉(以下同) クロは19年前、店の前の駐車場で保護した子。廃棄する自転車を置いていたのですが、あるとき子猫の鳴き声がするのでよくみたら、母猫からはぐれたのか1匹だけで元気に鳴いていたんです。生後3ヶ月くらいでした。

 お客さんの中には猫が苦手な方もおられるし、店で猫を飼うのはどうかなと最初は思ったんです。でも実際に飼ってみると、今もそうですが、店の前を通る人たちや馴染みのお客さんから「今日はクロちゃん、元気?」と声をかけてもらったり、クロに会うためにわざわざ店に来てくれたりする方もいてね。地域のみなさんに可愛がってもらえるっていいなと。そういう関係を大事にしていきたいなと思うようになったんですよ。

 グレイは、クロと野良の父猫の間に生まれた5匹の中の1匹。子猫はみんな新しい飼い主が見つかり、グレイも料理屋さんにもらわれていったのですが、食べ物をつまみぐいするなど「行儀がよくない」とのことで、戻ってきてしまったんです(笑)。それで、母猫のクロとここで一緒に暮らすことになりました。

 クロはおっとりしていて、店前で酔っ払いの人から「おー、どうした?」とからまれても動じないほど、誰からも好かれる優しい性格。口元のホクロのような模様がチャームポイントです。最近は目や耳が悪くなったのか、隣の店から出てきた客に間違えて「にゃー」とすり寄っていったりもしてますが…。グレイは若いころ、店内の壁に展示していた自転車のカゴに登り、その中でよく昼寝をしていました。登るときサドルを爪でひっかいたりするのでよく叱ったものですが、歳をとった今は、やんちゃなことはもうしなくなりました。

 クロは朝礼に参加し、スタッフの輪の中で一緒になって話をよく聞いています。グレイは閉店時になると、店先の自転車を片付けるスタッフに、「ちゃんと片付いた?」といわんばかりの顔で、ピット(修理スペース)から見守るのが日課です。

 お母さんが子供用ヘルメットを買いにこられたとき、かぶりものが嫌で泣き出すお子さんって結構多いんですよ。そんなときはクロかグレイの出番。「にゃんにゃんよ」と事務所から連れ出し、子どもに近づけるとピタっと泣きやむことがほとんどです。最後は笑顔でバイバイと手を振って帰る子も。「和ませ係」をきちんと務めてくれています。

 私が生まれたとき、ゆりかごで猫と一緒に写っている写真が残っているほど、うちの実家には、拾ってきたり居ついたりして、現在まで常に数匹の猫がいます。「猫は幸せを招いてくれるから」と母。ただ、父(2代目の故・善雄氏)は猫が大嫌いでね。本気で猫と喧嘩するような人だったんです。

 でも、晩年、たまたま保護した「エリー」という猫がものすごく父になついてね。父が名前を呼んだら胸に飛び込んでくるような子でした。それで、父は一転、メロメロになってしまったんですよ(笑)。

 こんなエピソードもあります。これは「白ビビ」という父が好きだった別の猫の話ですが、入院中の父が母に電話したとき、「猫に代わってくれ」とよく頼んだそうです。母が猫に受話器を押し当てて、「ほら、お父さんよ」と。そんなことを繰り返していたら、父が亡くなってからも、家の電話が鳴ると、その子は電話台まで走っていって、父の声を聞くのを待っていたことがよくあったそうです。猫嫌いだった父が、こんなに猫に慕われるなんて不思議ですね。

 コロナ禍で5月のゴールデンウィークは休業しました。毎年3、4月は自転車が最も売れる時期ですが、売上は前年に比べ約2割減りました。5月以降は通勤やレジャーに使えるスポーツバイクや、親御さんが「自粛期間中、子どもに乗り方を教えたいから」とキッズサイクルの需要は増えたものの、自転車をネットで購入する人が増えたことを強く実感しました。そうした方々にも満足してもらえるサービスをどう提供していけるかが今後の課題として明確にみえ、対応を整えているところです。

 休業期間中は、私とスタッフが交代で店に来て、2匹の世話をしていました。シニア猫ですから、体調の変化には気をつけないと。つい先日も、クロの食欲がなくなって体重が減り、病院へ連れていったばかり。薬を飲んで今はまた元気になったので一安心です。

 コロナ禍で商店街の人通りが激減し、従業員たちもこれからどうなるんだろうと不安を抱えるなかでも、この子たちはいつもと変わらずマイペース。たとえば、スタッフがお昼を食べていたら、クロがスタッフの膝の上に両手を置いて「ちょーだい」とおねだりするしぐさが面白かったり(笑)。最近、2匹は店先に出ることは少なくなり、店奥の事務所で過ごすことが多くなりましたが、2匹がいつまでも元気で、こうして店にいて、みんなを和ませてくれているー。そんななにげない日常が、とてもありがたく思えます。

【店名】「サイクルショップコダマ(府内町本店)」

【住所】大分市府内町1-6-19 サンサン通り

【電話番号】097-536-1510

関連ニュース

ライフ最新ニュース

もっとみる

    主要ニュース

    ランキング

    話題の写真ランキング

    リアルタイムランキング

    注目トピックス