2月22日・猫の日だから知ってほしい「ツシマヤマネコ」のこと…国境の島・対馬だけに生きる絶滅危惧種

みなさん「ツシマヤマネコ」ってご存知ですか? 長崎県の対馬だけに生息している、野生の猫です。生息環境の悪化により、現在は100頭足らずしか生息していないといい、日本で最も絶滅のおそれが高い動物のひとつといわれています。そんな希少な動物が、現地では一般公開されていますよ! 野生の怖そうな動物と思ったら、いえいえとっても見た目は可愛らしくて…。独自の生き物を育んできた、自然豊かな「国境の島」に、ぜひ会いに出かけてみませんか。

ツシマヤマネコは約10万年前に当時陸続きだった大陸から渡ってきたと考えられ、アジアの森林地帯に住むベンガルヤマネコの亜種とされています。生息数が少ないため、1971年に国の天然記念物に、1994年には国内希少野生動植物種に指定されるなど、保護・増殖に向けた各種の取り組みがされています。

その拠点になるのが、対馬北部にある環境省の施設「対馬野生生物保護センター」。地元の人でさえ、実際に見ることの少ないツシマヤマネコを身近に感じてほしいと、2003年12月から一般公開を行っています。

こちらがただいま一般公開されているツシマヤマネコです。名前を「かなた」くんといいます。4歳のオスだそうです。

かなたくんは同センターで公開されている猫としては4代目。3代目の猫が死亡したのにともない、同じくヤマネコの繁殖に取り組んでいる福岡市動物園から連れてこられ、昨年11月から公開が始まりました。

ケージの中で過ごしている様子を、ガラス越しに観察しますが、同施設のビジター担当の方の説明によると、「まだ、ちょっと緊張気味かもしれない」といいます。ガラスの前に人だかりができると、奥のほうで目をつむってじっとしてしまうときもありました。

ちなみに、ツシマヤマネコの姿…。よく見てみると、普段見ているネコとはちょっと違う気がしませんか? 私たちの身の回りにいる「イエネコ」とはいくつか違う特徴があり、胴長短足で太い尾っぽを持ち、額には縦縞が入り、耳の先は丸くなっています。また、耳の後ろには白い斑点があり、これが一番の特徴となっています。目元もつり上がった印象はなくて本当にまん丸です。

しかし、そんな見た目と異なり、気性は荒い感じ。飼育していても、人には慣れないのだそうです。「動物園の中で生まれ育ったような個体でも、慣れません」と話すのは、同センターの自然保護官補佐・小川美香さん。「もちろん健康診断などをしないといけないので、ある程度人に慣れるような訓練はしているのですが、(イエネコがするような)向こうから人にすり寄ってくるようなことはしませんね」。

ちなみに、ケージの中にいるのはたった1匹。お友達もいなくて寂しくないんでしょうか?と聞くと、「基本的に1匹で単独行動する生き物なので、これが普通で、寂しくはないはずです」(小川さん)とのこと。しかし、ケージの匂いは外に出ているといい、「このあたりのヤマネコはここにヤマネコがいることが分かっているはず。偵察にも来ていると思います」…。野生の習性、おそるべきです。

面積のほぼ9割近くが山林という対馬。ツシマヤマネコはその豊かな自然の中で過ごし、たまに集落近くの田畑などに姿を見せてきました。ネズミやモグラ類を食べるほか、夏には昆虫類、冬には鳥類を多く食べながら暮らしています。

「ツシマヤマネコは生態系の中では大型の肉食獣にあたりますが、実は対馬にはほかにも同じような肉食獣がツシマテン、チョウセンイタチと2種類います。島の中に3種類もの肉食獣が生きてこれたのは、エサになるような生き物が数多くいたからですが、それは多様で豊かな自然が対馬にあったことの証明でもあるんです」と小川さん。

施設内には対馬の自然を再現したジオラマもあり、ツシマヤマネコがどのように暮らし、どのような食べ物を獲ってきたかがわかりやすく解説されています。ヤマネコのことをよく知ることで、ぜひ対馬の自然の素晴らしさを実感してほしい…と小川さんは語ります。

一方で、ツシマヤマネコの危機的状況は続いています。各種開発や、農地や山林の放置によって、良好な生息地がなくなったことが要因です。近年はシカやイノシシの数が増え、山林の下草を食べ尽くしてしまうなど、生態系のバランスを脅かす事態も起きているそう。ほかにも、動物のワナにかかったり、野犬に襲われたり…。野良猫などと交わることで、イエネコの感染症にかかり、命を落とすこともあるそうです。

また、大きな要因として、交通事故もあげられます。分かっているだけでも毎年約5件ほど起こっており、特に秋から冬にかけて子ネコが親から独り立ちする時期に多発するといいます。

島内ではツシマヤマネコの飛び出しを防ぐ柵や、道路下の水路トンネルに小動物が通行できる通路をつくるなど各種の対策が取られているといいますが、それでリスクをゼロにできるわけではありません。過去に事故があった場所や、今後事故の起きる可能性が高い場所には、注意看板が設置されています。住民らが手作りした看板もあり、ユニークなつくりが目を引きます。

対馬では、ヤマネコの交通事故被害を最小限に防ぐため、事故を起こしたり、道路などで死傷したヤマネコを見つけたときのために、24時間受け付ける電話番号が用意されています。連絡を受けた際は夜中でも同センターの係員が駆けつけるそう。「子育て中の母ネコが事故にあうと、仔ネコが餓死してしまうリスクがあります。現場近くの山の中に分け入って、保護できるネコがいないか全力で捜索することもあります」と小川さん。同じ連絡先でツシマヤマネコの目撃情報も集めており、生息数や生息場所の調査につなげているといいます。

   ◇   ◇

ツシマヤマネコは、上述の福岡市動物園のほか、井の頭自然文化園(東京都)、よこはま動物園ズーラシア(横浜市)、京都市動物園など、国内8つの動物園で32頭が飼育・繁殖されており、ツシマヤマネコの飼育繁殖と、保護のための普及啓発が行われています。将来的にはそれらのヤマネコを対馬で野生復帰させられるよう、技術開発を行っています。対馬南部には野生復帰の訓練を行うための場所「ツシマヤマネコ野生順化ステーション」が作られ、ただいま施設の中で本当にネコが野生を取り戻しながら生きていけるのか、確認をすすめている段階だといいます。

また、ツシマヤマネコの保護には、ヤマネコが住みやすい環境を取り戻すことも不可欠です。田んぼを餌場として利用することが分かっており、エサとなる多様な生き物があふれる田んぼをつくるため、減農薬・無農薬で米作りを行う活動も行われています。

「ツシマヤマネコの保護をきっかけに、対馬ではより豊かな自然を育もうという動きが地域で広がりつつあります。ツシマヤマネコのこと、そしてツシマヤマネコが生きてきた対馬のことを、より多くの方々に知ってほしいです」と小川さん。2月22日はネコの日です。

■環境省・対馬野生生物保護センター http://kyushu.env.go.jp/twcc/

(まいどなニュース・川上 隆宏)

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