張り紙「アムールトラは出入りの練習中」ってどういうこと? 表に出られないのはお隣のメスライオンが原因…

 トラとライオン、どっちが強い-? 陸上における肉食動物の頂上決戦…のようですが、神戸市立王子動物園では新入りの若いメスのアムールトラを、お隣の“奥さま”ライオンが目力(?)で圧倒。体格では勝るはずのトラの痛手は大きく、ビビりすぎて運動場に出られない事態になってしまったのです。そこで練られたのが、目隠し作戦。両者の間に高い高い「壁」を設置したのです。え、それだけ? はい、それだけです。これが良かったようで、「幻」という汚名を返上、堂々たる姿を見せ始めました。

 アムールトラは、シベリアトラとも呼ばれ、中国北東部、ロシア沿海地方のアムール川流域の針葉樹林に生息。成獣のオスは体長3mを超え、体重も300キロ近くになり、現存ネコ類の中で最大ですが、野生では400~500頭しか生息しておらず、IUCN(国際自然保護連合)の「レッドリスト」では絶滅危惧種にランクされている希少動物です。

 王子動物園のアムールトラといえば、とても人懐こくガラス越しに来園者と遊ぶほどだったメスの「ヤマ」がいましたが、2018年7月に亡くなり、不在に。新たなアムールトラの来園に期待が高まる中、2019年6月、ドイツの動物園からメスの「レーニャ」(2歳)がやって来ました。

 このレーニャ、輸送箱を壊すほど中で暴れたようで、空港で飛行機に乗り込む時になって「搭乗拒否」に。もとの園に出戻って、再度出発するというドタバタを経てようやく来園しました。寝室にはすんなり入りエサもよく食べ、運動場へ出入りする訓練も順調かと思いきや、そこに「待った」を掛けたのがお隣に住む“美ネコ”ライオン「サクラ」(21歳)。サクラは来園19年、夫のラオとの間に3子を設け、今も仲睦まじく同園の顔ともいえる存在の1頭です。「…きっと何かあったんやと思います」と副園長のオカン(園内では親しみをこめてそう呼ばれている)。睨むとか唸るとか、いや、猛獣にしか通じない恐ろしいやり取りがあったのかも…。

 「外に出る練習中」と張り紙がされ主不在の運動場。来園者からは「きょうもいない」「耳がちらっと」と残念がるツイートが続きました。悩んだ園側は「ライオンが見えなければいいのでは」と、ライオン舎との間に目隠しの板を設置。そんな単純な…と一瞬思われた方も多そうですが、でも、これが良かった! 次第に姿が見られる時間が増え、昨年末には「池に入っていた」「休園日には岩の上にも行ったらしい」などなど、チラ見せならではのそそられるツイートが並ぶように。年明けにはかなりリラックスした表情も見せはじめました。

 同園によると、レーニャが特別に気弱なのではなく、ヤマの来園時はさらに大変だったそう。ヤマは人工哺育だったので人間大好きで、トラというより「ネコでしかない」仕草を多々見せるものの、運動場には1年も出られず。そこで、健康診断で麻酔をかけた際、覚める前に運動場のガラス前に放置し、起きたら見慣れない景色の中にいるという荒療治をきっかけに乗り越えたそうです。

 ネコ科では最近、1歳半ほどで来園したユキヒョウのオスが寝室からの出入り口に座り込み不安そうな表情を見せていました。こちらは歳の離れた先住メスがモロ母親的対応でなだめ(?)て無事クリア。2歳半ごろ来園したシベリアオオヤマネコも正式公開まで時間がかかりました。特にメスはとても警戒心が強かったため運動場に出す時期を慎重に見極め、オスよりもずっと遅くなりました。

 オカンによると、ネコ科動物すべてが新しい環境に慣れにくいわけではなく、やはり個体差とのこと。レーニャの場合はサクラが怖すぎたというところでしょうか。「ここは安全だと納得できれば新しい環境にも慣れていくでしょう」とオカン。2月で3歳になるレーニャ。人間でいえば高校生ぐらいで、いずれはオスを迎え繁殖を目指す計画で、今後さらに存在感を増しそう。「幻」疑惑を返上し「レーニャの時代」幕開けです。

(まいどなニュース特約・茶良野 くま子)

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