2020年の株式相場、焦点は米大統領選より米株の割高感?

 ある市場関係者から届いた年賀状には「ボラ上昇の一年と予想しております」と、ひとこと添えられていた。ボラとは金融・証券業界の業界用語だが、英語でいうところの「ボラティリティー」。相場の変動率のことだ。2019年の日経平均株価の年末終値は、1990年以来29年ぶりの高値。米株式相場は過去最高値の水準だ。ここで変動率が上がるといえば、まず考えるのは世界的な株式相場の下落だろう。1月1日の経済紙には上場会社の社長が強気の相場見通しを披露するのがお約束だが、そう上手くいくのかどうか。

 かねて米株式相場の割高感は指摘されてきた。米国で資産運用の目安として多く使われている株価指数「S&P500種株価指数」について見てみよう。指数に採用されている500社が生み出す利益と、株価水準とのバランスを見極めるのに使う指標「PER」(株価収益率)は足元で18倍台に上昇している。個人などに投資情報を提供するブーケ・ド・フルーレットの馬渕治好氏は、「通常は13~17倍台で推移している」と指摘する。米株式相場はリーマンショックがあった2008年以来の割高感があるという。

 米株式相場の昨年1年間を振り返ると、S&P500は約29%上昇。ハイテク株が多いナスダック総合株価指数にいたっては約35%上昇した。しかし、米国の上場会社がそれに見合った利益を稼ぎ出したかといえば、答えはノーだ。S&P500に採用されている500社の利益を合計すると、昨年は年間で減益になったとの見方が大勢だ。つまり昨年の米株式相場は収益に見合わない、高い水準まで上昇した可能性がある。2020年にその調整で米株式相場が下落するなら当然、海外投資家が買い手の中心である日本株も影響を受けるだろう。

 ではなぜ、米国で株式相場が上昇したのか。2019年米株式市場では「自社株買い」が相場を押し上げたとの見方が多い。やや古いデータになるが、S&P500の採用企業は昨年8月までの1年間に約78兆円の自社株買いを実施したという。背景にあるのは低金利だ。そもそも企業は市場から資金を調達するために株式を上場するのだけれど、世界的に低金利が長引き、金融機関から資金を調達するのが容易になっている。配当金などで現金が社外流出するのを抑えるために株券を市場から回収し、同時に株価を押し上げて株主を満足させるのが自社株買いだ。

 ただ、足元で金利は上昇している。米国では2020年内に利上げは実施しないにしても、21年には利上げがあるとの見方が優勢で、市場金利は緩やかに上昇している。昨年9月上旬まで低下基調だった米長期金利も、上昇に転じた。株式市場から改めて資金を調達する流れが復活すれば、これまでの米株式市場の需給関係は変化し、自社株買いによる相場上昇は見込みにくい。大型のIPO(新規株式公開)などが相場を崩す展開もないとは限らない。

 しかも足元で株式相場を押し上げるきっかけにされた米中貿易協議での合意は、どこまで内容があるのかという議論も残る。制裁関税は緩和される方向になったとはいえ、中国が世界貿易機関(WTO)にルール違反を指摘されながらも見直しに応じない産業補助金の問題などは残る。米中が対立する構図に変化はない。産業機械や半導体など、中国が力を注いできた分野への米国による制裁関税は、なお維持される見込みだ。知的財産権の問題なども含め、根本的な解決が見通せる状況とはいいがたい。

 それでも、年間を通じて相場が上昇するとみる理由はいくつかある。1つは次世代通信網「5G」への投資が先進国で本格化するとみられること。加えて5G通信網によって、IoT(道具やセンサーをネット接続する常時情報収集・監視・制御)の本格的な普及による生産性向上が実現するという見立てだ。年末にかけて半導体関連などのハイテク株で上昇が加速したのもこのためだ。波及効果で景気が拡大し、企業収益が大幅に増加すれば米株式相場の割高感は解消される。はたして、このハイテク投資が世界で低迷する自動車などにまで波及するほど、経済全体を回復させる力があるのかが焦点だ。

 もう1つはパウエル米連邦準備理事会(FRB=米中央銀行の意思決定機関)議長に対する信認の厚さというか、要するに「何かあったら利下げするだろう」という楽観的な見方だ。冒頭の年賀状に添えられた市場関係者のひとことも「一方的に下落する」ではなく、変動率が高まる、つまり乱高下するのではないか、という予想の裏側には、相場の下落を食い止めるためにあらゆる施策を打ち込んで来るだろうという含意も見て取れる。米大統領選の前に株式相場が下落するのを見過ごすとは考えにくい、という話だ。しかし株価を政策目標にしていない中央銀行が、そういうことをしていいのかという素朴な疑問は禁じ得ない。

 ちなみに我が国でのできごとに目を転じると、元日産自動車トップのゴーン氏が昨年末に国外逃亡したことで、改めて企業統治と司法制度の後進国という印象が強まった可能性が高い。2005年夏の郵政解散や2012年12月のアベノミクスへの期待感に見られたように「日本が変わる」というメッセージは海外投資家にとって大きな日本株の買い材料になるが、その可能性は低いといえそうだ。つまり、今年の日本株も米株式相場の動きに追随する構図に、変化はないだろう。

 年の初めには1年の平穏を願うのが習わしだが、株式相場については平穏とはいかない材料がいくつもある。今年に入って早速、中東情勢に不透明感が湧いてきた。内需企業は人件費や物流費の増加が収益を圧迫されているが、さらに燃料高が追い打ちをかけるとどうなるのだろう。相場が大きく動くなら、それをチャンスに変えるための冷静な判断力が一段と求められる1年になりそうだ。

(経済ジャーナリスト・山本 学)

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