歩けなくなった認知症患者が2週間で歩いて退所する老人ホーム…「心をおこす」って?

 少子高齢化が進む社会、あるべき介護施設とはどんなものなのだろうか。スペシャルなオムツ替えをして差し上げること?「いかがいたしましょうか」とホテルさながらのお声かけをすること?

「いいえ。施設利用者が求めていることは、変わりない日常です。普通の人と同じように、人と人とのふれあい、必要とされている実感、それを与えることです」。そう話すのは、「リカバリーナーシングホーム つむぐ」の大石茂美さん。もともと看護師だった彼女は、介護福祉施設を立ち上げ、未だかつてないケアを生み出そうとしている。

 同施設は、体が不自由になったり、認知症を患ってしまった高齢者を対象とした老人ホーム。利用者はこの施設に「在宅」の形態で住居し、希望や状態によっては自宅に帰ることもできるし、施設で最期の時を迎えることも可能。最大の特徴は、介護士と看護師が手を組み利用者のケアを行っていること。この形態は珍しくないが、大石さんは両者の使命を明確化しながら連携させることを目指している。

 そもそも介護士と看護師では、その職業柄「守るべきとされているもの」が違う、と大石さん。介護士は「生活」を守るが、看護師は「命」を守る。そのために負うリスクの大小も差がある。そこで大石さんが優先したいのは、前者。まずは看護師の意識を変えることに注力している。

「利用者が『ご飯が食べたい』というと、看護師は誤嚥を気にするもの。しかしここでは、利用者の望む生活を叶えたいと思っているので、食べてもらいます。そのために、安全に食事ができるよう、看護師が介護士をサポートする。そんなスタンスをとっています」

 もともと看護師だった大石さんも、急性期病院から福祉の現場に移った際、カルチャーショックを受けたという。「初めて福祉の現場に入ったとき、看護師の私は白衣を着ていました。すると施設の利用者は私を『看護師さん、看護師さん』と拝むんです。でも、介護士さんには『ちょっと、これやってよ!』と態度がガラリと変わる。介護士さんも『ちょっと待ってって言ってるでしょ!』と怒る」

 看護師と介護士、職種が違うだけで、なぜこうも利用者の反応が違うのか。そもそも、利用者と介護士は、いつもこんなギスギスした空気の中で過ごしているのか…。大石さんの中で「この現状を変えたい」という気持ちがわき上がってきたという。「考えたのは、どうすれば福祉の現場が豊かになれるのか。そのためには、まず介護士が幸せになれる現場が必要だと思いました」

 多くの認知症患者がこの施設に来る中、2週間から1ヶ月の間に退所するケースも多くあるという。入所時は黄疸が出て、体も不自由になってしまった利用者が、施設を出る際には自らの足で歩くことができるのだ。「もちろん点滴や薬のチェックなど医療行為も行いますが、それ以上に大切なのは利用者の心をおこすこと。そのために私たちは、生きる活力を与えます。それは毎日イベントを行うことではありません。普通の日常を過ごすだけです。その中で、利用者がどう生きるかが重要なんです」利用者と過ごす1分1秒を大切にしたい、という大石さん。ヒーリングやセラピーを用いたケアなどの様々な角度から「利用者の人生を豊かにしたい」と願う看護師のサポートも行っている。

「様々なケアは、利用者が良い人生を送るための可能性になります。看護師の視点から介護の現場を豊かにしていければと思います」

(まいどなニュース特約・桑田 萌)

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