浜田雅功のスケート靴でトリプルアクセルを…今季にかける細田采花の思い

迷いながらも現役続行を決めた細田采花。その決断をダウンタウンの浜田も後押しした
ダウンタウン・浜田雅功からプレゼントされたスケート靴(細田采花のインスタグラムより)
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 10月4日から、全日本フィギュアスケート選手権の予選である近畿選手権が滋賀県大津市・滋賀県立アイスアリーナで開催される。昨年の全日本でトリプルアクセル3本を決めて大きな注目を集めた細田采花(あやか・24)=関大=はこの近畿選手権が今季初戦。オフの番組出演時にダウンタウン・浜田雅功(56)からスケート靴のプレゼントを約束され、現役続行を後押しされたことも話題となった。この春、2年間休学していた大学に復学するなど変化の中で迎えた今シーズン。練習や試合への準備、そして今後の進路について聞いた。

 トリプルアクセルを跳んだことで、細田の人生はガラッと変わった。

 「正直に思ったのは、トリプルアクセルってすごいんやなって(笑)。ずっと跳んでたジャンプではあるんですけど、でも全日本の本番まで私が跳べるって皆さん知らなかったでしょうし。注目されてる選手じゃなかったのでこんなに話題になるとは思ってなくて」

 細田は昨年の全日本選手権でショートプログラム1本、フリースケーティング2本、合計3本のトリプルアクセルを決めて自己最高の8位入賞。国際試合で成功させている現役女子選手は紀平梨花(17)=関大KFSC=、エリザベータ・トゥクタミシェワ(ロシア)、ジュニア女子などを含めても10名ほどしかいない。新たな高難度ジャンパーの登場で一躍注目を浴び、さらなる活躍に期待が高まったが、細田自身は練習通りに力を発揮できた達成感が大きかったという。

 「今までいろんな試合に出てきて、練習通りにできたことって本当にないんですよ。初めてできたのがあの全日本だったので。『ヤッター』というよりは、『やりきった!』という感じでしたね」

 2年前、大学卒業と同時に現役引退するはずだった。しかし紀平に「一緒にトリプルアクセルの練習をしたい」と誘われ、引退試合終了後にも練習参加するうちに2週間ほどで成功させてしまった。引退は撤回し大学を休学。全日本でトリプルアクセルを決めることを目標に据え、今度こそ最後にするつもりで臨んだ昨季。今までのスケート人生で初めての、全く悔いのないシーズンを過ごしたが、今年5月に再び現役続行を決めた。

「本当に全部やりきったのですごく迷ったんですけど。全日本が終わってすぐに『来年どうしよう』って思った自分がいて、あれっ私まだやりたいんかな?って」

 もうひとつの理由は「同じことをもう1回できたらかっこいいかなって思って。“一発屋”になるよりは続けた方が面白いかなって」と笑うが、並大抵のことではない。田村岳斗コーチにも「あれだけ良い試合をして、もう一度同じようにできるかと言うと難しい。ちゃんと覚悟を持って決断したほうがいい」と言われた。

「本当にその通りだなと思いました。やっぱりそれだけの覚悟を持って練習していかないといけないので。でも、私は梨花ちゃん(紀平)やサトピー(宮原知子・21=関大=)とは違って、日本中の期待がかかっているわけじゃない(笑)。だから良く言えば自分の好きなようにできるし、練習からすべて自分次第。自分が一番後悔したくないのでやるだけですね。一度は引退もしているので気楽って言うか、第二のスケート人生が始まったばっかりなんで本当にワクワクしています。自分との戦いなんで楽しいですよ。練習も楽しいです」

 オフには取材やテレビ出演が格段に増えたが、それも楽しんでいる。ダウンタウンの浜田がMCを務めるフジテレビ系「ジャンクSPORTS」に出演した時には、浜田から新しいスケート靴をプレゼントされ、現役続行を後押しされたと話題になった。

 「本当にありがたいです。履いた初日のうちに全種類のジャンプを跳べたので、すごくいい感じ。もともと靴の細かい部分を気にする方ではないですが、今回は戴いた嬉しさでポンポンと跳べた気がします」。自身のインスタグラムに「最近の新技!」のコメント付きでトリプルアクセルー3回転トーループの連続ジャンプの動画を掲載して喜びを伝えた。靴は1シーズンに1足を履き続け、比較的長持ちするタイプ。今シーズンはこの「いいパワーが宿ってそう」という靴を味方に戦っていく。

 細田にとっては近畿選手権が本格的なシーズン開幕戦になる。8月にはアメリカのオーロラゲームズというイベントマッチに出演してフリープログラムを滑り、2本のトリプルアクセルを見事に決めた。「海外の試合はノービス時代に1、2回出させてもらったんですが、この歳になってからはなかったのですごい楽しかったです。シーズン前に試合の緊張感を味わえてすごく良い経験になりました」

 普段の練習では浜田美栄コーチのもと、紀平や宮原、白岩優奈(17)=関大KFSC=など、レベルの高い選手に囲まれている。約3時間の氷上練習に加えて、陸上トレーニングが日課。近畿選手権が近づいた現在はプログラムに入っている要素の練習が中心で、課題はスピンとステップだという。

 「スピン、めっちゃ課題なんですよ!下手すぎて先生にも『今の何?』って言われるくらい(笑)。スケーティングはたまにグループレッスンがあるんですけど、一緒に練習しているメンバーが上手い子ばっかりなので、自分だけ何もできないし付いていくので必死で逆に笑えてくる(笑)。ジャンプの負担があってもスピンを綺麗にするとか、ジャンプ以外の部分がまだまだ自分に足りない。自分では楽しんで練習しているんですけど本当に難しくて。でもそこが面白いんですよね」

 シーズンオフには4回転ジャンプの練習にも取り組んだが、今は3回転ジャンプ全般の安定感を上げることに注力している。細田のジャンプは、高く跳び上がりしっかり空中で回りきって降りてくる、男子のような迫力が持ち味で、「参考にするのは男子選手が多いですね」という。憧れは、同じリンクで練習していて、最近はアイスダンス転向で世間を騒がせた高橋大輔(33)=関大KFSC=。技術面はもちろん、「全てにおいて尊敬してます」と目を輝かせる。

「オフからオンにパッと切り替わる瞬間が本当にすごいんです。さっきまで普通にしゃべってたのに、氷に乗ったらガラッと変わるんですよね。あの集中力はすごいなあって思います。練習時間が一緒のことも多いんですが、自分の練習をしないといけないのに見とれてしまって、あかんあかん、って(笑)。大ちゃん(高橋)がいると頑張ろうと思えますし、見ているだけでワクワクするんです。スケートを楽しんで練習していた昔の自分が蘇ってくる感じがします」

 関大のリンクには高橋大輔の他にも、社会人スケーターとして3年連続で全日本出場を果たした山田耕新(28)がいる。仕事をしながらスケートを続ける年長者2人を「大変そうやし忙しそうやなって思いますけど、それでもちゃんとできてる。尊敬します」。

 24歳の細田もフィギュアスケート界ではベテラン扱い。男子シングルでは羽生結弦、田中刑事ら同い年がいるので毎年全日本で会えるのを楽しみにしている。しかし、昨年の女子シングル全日本出場者の中では細田が一番年上。大学卒業後の進路について聞かれることも増えてきた。

 「私も、どうなってるか気になってるんですよね(笑)。まだ何も決めてないですし、とりあえず今シーズンっていう気持ちで練習しているので、本当に先のことはまだ自分でもちょっとわからないです。そもそも、卒業できるかな…?どうしてもスケートのことに頭がいってしまって、勉強中もすぐにスケートの動画とか見ちゃうから(笑)」

 自分では「これで引退」と宣言して試合に出るタイプではないと感じている。「緊張するじゃないですか、これが最後って思うと」というのが理由だ。12月の全日本選手権後に何を思うか、自分でも楽しみだと話す細田だが、まずは目の前の近畿選手権だけに集中する。

 「近畿選手権も西日本選手権もですけど、全日本を考えて試合をすると良くないことが多いんです。全日本に出たいのはもちろんなんですけど、まずはやるべきことをやらないと全日本なんて口に出せない(笑)。まずは近畿。近畿を突破したら西日本。それが終わってからやっと全日本が見えてくるので」

 女子シングルは選手数が多く、全日本出場は狭き門。予選は全国6ブロックに分かれ、近畿の出場者は例年30名ほど。上位10名が11月に行われる西日本選手権へ進み、さらに西日本選手権に進出した26名から約半数が全日本出場を勝ち取る。厳しい争いだが「緊張するけど楽しい。試合は何が起こるかわからないから」と細田は言う。

 「1試合1試合、真剣に命がけ。いつも近畿が終わったら1週間は動けない(笑)。ああやっと終わった、ぜぇはぁって肩で息をする感じ。1週間それに浸ってから『ああ、もう西日本が来る!』って切り替えるんです。

 フィギュアって、たった2分半と4分のために1年かけて練習して、そこに全力を出さなきゃいけない。本当に難しい競技ですよね。私はもう若い子たちと同じように練習できないし、疲れが残るので調整も難しいです。でも、一人のスケート好きとして楽しんで試合に出て、毎試合笑顔で終わりたい。近畿も、西日本も、全日本も!」

 選手生活がどこまで続くのか自分でも分からない。だが、スケートの楽しさも難しさも丸ごと愛する細田なら、いつか現役を離れてもスケートと関わり続けてくれるのではないだろうか。そんな期待もしながら、笑顔でリンクに立つ姿を1試合でも多く見守っていきたい。

(まいどなニュース特約・藤井 七菜)

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