伝説の漁師「海人三郎」を追いかける石垣島在住カメラマン 海中での「野生動物のような狩り」に密着

 東京の広告制作会社に勤めていたカメラマンの西野嘉憲さん(49)が、沖縄・石垣島の漁師「海人」(うみんちゅ)を追いかけるようになったのは、自然を相手に暮らす人への憧れからだった。

 沖縄本島から南西に約400キロの石垣島は周囲に豊かなサンゴ礁が広がる。海の仕事への興味は次第に強まり、2000年に海人取材を開始。35歳で会社を辞めて島に移住してからは、地元で抜きん出た水揚げを誇り「海人三郎」と呼ばれる伝説の潜水漁師・下地清栄さんをカメラに収めている。

 三郎さんの屈強な姿はどこか、伝説のプロレスラー力道山を連想させる。浅瀬では5メートル超の銛を操って次々に獲物を仕留め、水深20メートルもの海中では暴れる大物に覆いかぶさり、時にナイフを突き立てる。「野生動物の狩り」と西野さんが表現するのもうなずける。

 「見方によっては時代遅れなのかもしれませんが、獲物と対等、自然と対等に近い形で生きている。生態系の中で生きる、一番、象徴的な人、海人をするために生まれた人ですね」。西野さんはその魅力を語る。西野さんが撮影した「海人三郎」はTBS系「情熱大陸」で放送され反響を呼んだ。

 一瞬の判断が生死を分ける海の世界。「邪魔にならず、足手まといにならない」のが鉄則というが、慣れるまでは苦労の連続だった。シャッターを切る際には、三郎さんが狙う魚を、その背中越しに観察して距離を縮めるが「僕の動きで魚が逃げると、三郎さんに鬼の形相でにらまれて。それが何回か続くと今度は船の上で怒られて。それでも懲りずに付き合ってくださった」。潮の流れや魚の行動を把握し間合いを取れるようになるのに5年はかかった。

 それ以前に、島の人間として暮らし、信頼関係を築かなければ、船に乗せてもらうこともできない。何度も酒を酌み交わし腹を割って話をし、職人気質の海人との関係を深めていった。

 08年には、島の海人でもめったに行くことがないという絶海の孤島、尖閣諸島での漁に密着。手つかずの自然と一体化する三郎さんをとらえた。国境問題で緊張が高まり近づくことすらできなくなった今、貴重な記録と言えるだろう。

 のどかに見える島にも時代とともに変化が訪れている。伝統漁法の衰退、漁獲量や魚価の低下など漁業を取り巻く環境は厳しい。ただ、西野さんは悲観していない。「漁業をやってる若手がたくさんいるんです。遠方からやって来る人もいる。これからは、そんな若い人を撮ってみたい」。新時代の海人たちが築いていくであろう未来へ希望を抱く。

 20年にわたって追いかけてきた海人の暮らしは「海人」(平凡社)にまとめられ6月に刊行された。また東京に続き、9月5日からは故郷の大阪で写真展「海人三郎」(キヤノンギャラリー大阪、11日まで)も開催される。西野さんは「自然の中で生きてる人の暮らしを紹介できたら」と話している。(デイリースポーツ・若林みどり)

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