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学校が減り続ける自治体が、校歌の復元・保存に取り組むワケ…卒業生探し、歌声から楽譜起こしも

1988年に閉校した旧神河中学校の跡地は、現在、緑地公園になっている
2018年3月末に閉校した旧染河内小学校。校舎は改修され、現在は、兵庫県立森林大学校が使用している。石碑の裏に、校歌と小学校の歴史が刻まれている
楽譜が見つからなかった旧染河内中学校の校歌は、卒業生らの歌から楽譜に起こした(兵庫県宍粟市のホームページより)
閉園・閉校した幼稚園や小中学校を含む、宍粟市内の57園・校の園・校歌を聴くことができる(兵庫県宍粟市のホームページより)
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 朝礼や学校行事など、事あるごとに歌われる校歌。歌詞には地域の風景や歴史が刻まれるが、いま、全国的に学校の統廃合が進み、多くの校歌が忘れ去られようとしている。校歌を保存、復元することで、地域の文化を継承していけないか。そんな思いから兵庫県宍粟市が始めたのが、懐かしい校歌の歌詞や音源を、市のホームページで公開するサービスだ。

 文部科学省の統計によると、1955年から2017年にかけて、私立を含む全国の幼稚園は約2倍の1万878園に増えた。その一方で、小中学校は少子化などによる統廃合が進み、小学校は2万95校(約6800校減)、中学校では1万325校(約3400校減)まで減った。ひとたび学校が閉校してしまえば、公の場で歌われる機会は激減してしまう。

 宍粟市は2019年4月から、「心のふるさと校歌保存事業」として、市のホームページで、1955年以降の市内57の幼稚園、小学校、中学校の園・校の歌詞や楽譜、ピアノ楽譜、伴奏付きの歌声を公開している。閉校した幼稚園6園、小中学校26校の園・校歌も含まれるのが特徴だ。歌声は、パソコンやスマートフォンで聴くことができる。

 事業のきっかけは2017年9月、市教育委員会の会合に出席していた1人の教育委員の提案だった。「どんどん学校がなくなっていっているので、校歌を残したらどうだろうか」

 同市では、学校が統廃合する場合、元の学校を閉校し、新しく開校するため、校歌も一新される。いまある校歌を保存、閉園、閉校した幼稚園や学校の校歌も復元することで、「地域の文化でもある校歌を継承し、学校や地域にゆかりがある人々に懐かしんでもらいたい」(市の担当者)と、市の18年度予算に、音源作成などにかかる事業費240万円を計上した。

 18年8月の終わりから、市の担当者らが歌詞や楽譜などの資料集めに奔走。現存する園・学校から、統合前の学校のものを含めて保存されていた資料を入手したり、閉園、閉校した園・学校の記念誌などで歌詞や楽譜を調べたりしていった。

 苦労したのが、1966年に閉校した旧一宮町の町立染河内(そめごうち)中学校の資料だ。歌詞は創立25周年記念誌に書かれていたが、楽譜がどうしても見つからなかった。そこで、人づてに校歌を覚えている卒業生を探し、歌声を録音して楽譜に起こした。すべての園・学校の資料を集めるのに、3カ月ほどかかったという。

 これらの資料を元に、委託を受けた市内の楽器店が音源などを制作。実際に歌われている状態に近づけようと、現存する園・学校は、学校行事などで児童が歌った録音と、楽器店が制作した楽譜を付き合わせた。手書きの楽譜は、ピアノで弾いて確認した。完成した音源は、卒業生の市職員らに聞いてもらい、おかしなところがないかをチェックした。

 そうして完成させた園・校歌を市のホームページで公開したところ、市に「いいことをされましたね」などの声が寄せられるようになった。メディアなどで情報を知り、「どうやって聴いたらいいんやろ」と市役所を訪れた卒業生もいたという。

 事業に携わった市教育委員会教育総務課課長、進藤美穂さんは言う。「私が通った旧神河中学校は1988年に閉校しましたが、歌詞を見たら校歌を思い出します。お正月など同窓生が集まった時や、ふるさとを離れている時でも、スマートフォンで校歌を聴いて懐かしんでもらえたらいい。校歌が忘れ去られてしまう前に、平成のうちに完成させられて良かった」

 京都文教短期大学(京都府宇治市)の研究紀要第54集(2016年発行)には、同大学の元非常勤講師、宮島幸子さんの論文「歌い継がれなくなった校歌-閉校式フィールド・ワークを通して-」という論文が掲載されている。広島県尾道市の因島で行われた小学校3校の閉校式に参加した宮島さんが、校歌の文化的役割を考察した論文だ。

 閉校式に出席した卒業生の聞き取りなどを行った宮島さんは、論文の中で、校歌の存在意義について「校歌は、閉校する学校のなかでより強くノスタルジーを漂わせ、かつて在校生だった頃を懐かしむ感情を支え、人生の岐路に立った時、過去に通っていた学校周辺の風景や学校での出来事、自分の周りの人々(両親、兄弟、祖父母、親せき、先生、友だち)の存在や関わりなどが、メロディーにのって脳裏に浮かんだら、人生に指針を与えてくれる・・・そんな役割を持っている」とまとめている。

 学校の校歌以外でも、かつて地域の伝統的な祭りで歌われていた歌の歌詞は見つかったが、節回しが分からないために歌えなくなってしまったという話も聞く。地域の文化を残すためにも、宍粟市のような取り組みがどんどん広がっていってほしい。(まいどなニュース特約・南文枝)

◆宍粟市心のふるさと校歌保存事業(校歌・園歌)のページ

https://www.city.shiso.lg.jp/kosodadekyoiku/yotien_hoikusyo/6752.html

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