九州温泉ねこめぐり第12回 鹿児島・指宿「村之湯温泉」のチャタロウ

 鹿児島県指宿(いぶすき)市の指宿温泉といえば砂蒸し風呂が有名だが、温泉通が必ずといっていいほど立ち寄る鄙(ひな)びた共同浴場が住宅街の一角にある。「村之湯温泉」だ。かつては西郷隆盛も入ったことがあり、戦時中は特攻隊員が出撃前に体を清めた歴史も。そんな伝統ある共同浴場で、愛嬌をふりまいているのが、オーナーの堀之内けんさん(63)が飼う、チャタロウ(オス、推定4歳)だ。

 「村之湯温泉」は明治14(1881)年創業。堀之内さんによれば、発祥は文久3(1863)年。田んぼから湧きだし、明治7(1874)年には西郷隆盛が江藤新平とともに入ったと伝えられている。

 昭和に入り、堀之内さんの祖父・栄吉さん(享年88)が初代オーナーから買い取った。第2次大戦中は指宿海軍基地の特攻隊員が、ここで出撃前に体を清めたという。3代目の父親・士郎さん(享年90)が4年前に亡くなると、堀之内さんが4代目として引き継いだ。栄吉さんは島津家の血筋だそうで、古い木造建物の天井には、島津斉彬公と西郷どんの肖像画が並んで飾られている。

 地元の人たちからは「むらのゆ」、「むらんゆ」と呼ばれ親しまれている。鄙びた感やレトロ感、泉質の良さが全国の温泉通を魅了してやまない。敷地内には、加熱用、飲泉用、足元湧出など自然湧出の源泉が4つあり、泉質はナトリウム塩化物泉。源泉の湯をミックスして温度を調整しており、微量の硫黄成分も含まれる。特に切り傷、皮膚病、神経痛、リウマチに効能があり、メタケイ酸が豊富に含まれているため、肌の保湿効果は抜群だ。

 温泉の隣の母屋に料金箱があり、お客は入浴料(中学生以上1人300円)を自分で入れる。この料金箱のあたりはチャタロウのお気に入りの場所。そのため、料金を入れるとき、チャタロウをなでなでしていくお客が多い。「『体の痛みがとれますように』とか『いいことありますように』とか、仏様の代わりにチャタロウをさわって、願掛けしてから入浴される方もよくいます」と堀之内さんはほほえむ。

 同温泉には現在、チャタロウと、あかねちゃん(メス、推定13歳)の2匹がいる。チャタロウは4年前、敷地内で、ミャーミャー鳴いているところを堀之内さんに保護された。生後2カ月ほどで、どこからか迷い込んできたらしい。あかねちゃんも小さい頃、捨てられていた猫。人見知りで警戒心が強いが、猫好きな人には気を許す。

 昨年までは、白黒柄のりぼんちゃん(メス、10歳)という人なつこい看板猫がおり、お客の間で大人気だったという。「去年離婚して、りぼんちゃんは元妻が引き取り、いまは東京で暮らしています。人気者だったので、いなくなって売り上げが落ちました(笑)。でも、いまはチャタロウがりぼんちゃんの跡を継いで頑張ってくれているので頼もしいです」(堀之内さん)。

 チャタロウは、もふもふの長い毛並みがチャームポイント。自分の名前がわかるようで、「チャタロウ」と呼びかけると、高い確率で返事をしてくれる。車でお客がやってくると近づいていってお出迎え。相手が猫嫌いでなければ、「なでてくれ」といわんばかりにゴロンとなり、おなかをみせる。そんな姿がかわいいと評判で、いまファン急増中だ。

 取材中、「京都からバイクで来た」という男性(46)と出会った。男性は3年ぶりにここに来たそうで、今年1月に18年半飼っていた愛猫を亡くしたばかり。「ここはお湯がすごくいいし、そういえば猫もいたと思い出して、また訪れました。飼い猫が亡くなり、ずっとペットロスやったんですが、チャタロウに会えて、今日はほんま癒されました」と満足げな表情。

 「ここで出会ったお客さん同士が、温泉と猫で癒され、会話が弾んで仲良くなって帰られることもよくあります。チャタロウは、お客さんの縁つなぎをしてくれているんですよね。うちにとっては宝猫です」と堀之内さんは顔をほころばせた。(まいどなニュース特約・西松 宏)*「村之湯温泉」鹿児島県指宿市大牟礼3-16-2 電話0993・23・3713 営業時間は午前7時~午後10時 年中無休

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