猫城主が備中松山城救った 愛くるしい表情に観光客数V字回復 逃走癖もご愛嬌

 岡山県高梁市にある備中松山城の猫城主・さんじゅーろー(オス、推定3歳)に会いに行ってきた。晩秋から冬にかけて雲海に浮かぶ山城として有名だった観光名所は、昨年7月の西日本豪雨災害をきっかけに観光客が減少。災害直後に城内に住みついた迷い猫が城主となってからは、観光客の数もV字回復しているという。

 臥牛山の五合目にある城見橋公園駐車場に車を止め、シャトルバスで八合目のふいご峠へ。そこからは春の太陽を浴びながら山道を登っていくこと20分。天守が現存する山城としては日本一高い場所(標高430メートル)に位置する備中松山城に到着した。

 息も絶え絶えになりながら本丸の門をくぐると、一匹の茶白の猫が出迎えてくれる。人懐っこく、観光客を見つけると足元にすり寄ってくる。体を触ると気持ちよさそうにしっぽを振り、愛くるしい表情で訪れる観光客をとりこにしている。

 この猫こそ、昨年12月に備中松山城の猫城主となった「さんじゅーろー」だ。「天空の山城」として有名だったが「今ではさんじゅーろー目当ての観光客が増えています。海外からも来られますね」と説明してくれたのは、猫城主誕生に尽力した高梁市産業経済部産業観光課課長補佐の相原英夫さんだ。

 さんじゅーろーが城にやって来たのは、昨年7月。岡山県内に甚大な被害をもたらした西日本豪雨直後だった。城の三の丸付近で度々目撃される迷い猫。かわいらしい表情の猫に管理人たちが餌を与えるようになった。当時、同市観光協会に出向していた相原さんが、管理人から連絡を受け迷い猫と初めて対面したのは8月だ。愛想がよく堂々としたたたずまいから「猫城主として活躍してくれるのでは」とイメージした。名前も観光協会の仲間たちと考え、備中松山藩出身で新選組隊士の谷三十郎にちなんで「さんじゅーろー」と名付けた。

 城内に住みつき「猫城主」として人気を博し、西日本豪雨の影響で落ち込んでいた観光客は2017年10月を超えるまでに回復した。この話題を地元メディアが報道したことで、元の飼い主が現れた。7月に自宅から逃げて3カ月。わずか3カ月ではあるが、今や町のだれもが知る猫城主になっている。相原さんと元の飼い主が話し合い、観光協会が譲り受けることになった。

 着々と猫城主誕生へ道が開かれていたが、11月に大問題が…。放し飼いのさんじゅーろーは、城内を自由気ままに歩き回り、時には遠出をして2、3日姿を見せないこともあった。その日、翌日に早朝から週刊誌の取材依頼があったため、相原さんが自宅に連れて帰った。車からさんじゅーろーを降ろしたところ、逃げ出したのだ。

 相原さんはもちろん観光協会職員による大捜索が開始された。さんじゅーろーの写真と特徴を書いたチラシ400枚を市内に配布。地元住民に広く呼び掛け捜索した。何度も目撃情報は寄せられるが、なかなか見つからない。結局、さんじゅーろーが相原さんのところに戻ってきたのは逃走してから19日目であった。

 相原さんはこの経験から猫に対する知識を改めて習得し、管理上のルール作りが必要だと考えた。12月初旬には獣医師らも参加して「さんじゅーろープロジェクト会議」が開催され、今後の管理方針が決められた。これまでは放し飼い状態だったが、ストレスをためないために一定の場所での飼育が必要ということで、本丸にある五の平櫓(備中松山城管理事務所)にケージを置き、住居とすることにした。また、リードを付けて午前10時と午後2時に管理人とともに城内を巡回することも決定した。

 晴れて12月16日に「猫城主さんじゅーろー 再入城の儀」が行われ、正式に猫城主となった。公式グッズも発売され名刺までできた。人気は絶大。巡回時間以外も管理事務所を訪ねると、さんじゅーろーに会える可能性もある。相原さんは「さんじゅーろーとともにお城そのものの魅力も楽しんでもらいたいですね」と山城をアピール。戦国時代は激しい争奪戦が絶えず、目まぐるしく城主交代が繰り返された備中松山城。新しい元号の令和になってもしばらく、さんじゅーろーの城主が続きそうだ。(デイリースポーツ・岩本 隆)

 ▼備中松山城 入城時間は9時から17時30分(10月から3月は16時30分)。入城料は大人300円、小中学生150円(30人以上の団体割引あり)。駐車場はシャトルバス(中学生以上400円)運行時は城見橋公園駐車場(五合目)を利用。ふいご峠駐車場(八合目)までシャトルバスで5分。そこから約20分で本丸へ。

 ▼問い合わせ 高梁市観光協会(TEL0866・21・0461)

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