この“視点”ありそうでなかった 鳥の視線で街の変化を切り取ると…
普段なにげなく暮らしている街も常にどこかで工事が行われ、毎日少しずつ景色が変わっていきます。当たり前にあった風景も、いったん消えてしまうとなかなか思い出せなくなるものです。そんな変化し続ける街の瞬間を切り取り、正確な絵地図として描き残している人がいます。神戸市在住の青山大介さんは日本でも数少ない鳥瞰図(ちょうかんず)絵師のひとり。大阪府立中之島図書館で現在開催中の作品展『鳥瞰図 鳥の視線で見てみると』(4月27日まで)では、異なる年代の都市鳥瞰図を比較しながら大阪や神戸といった街の変化を“青山さんの目線を通して”体感できます。
空を飛ぶ鳥の視線で描かれたような立体的な風景画である鳥瞰図。古くは「洛中洛外図」といった屏風絵から観光地の案内看板までその種類は様々です。その中でも青山さんの鳥瞰図はアイソメトリックという製図技法を用いて描かれた精密なもの。自らチャーターしたヘリコプターから撮影した空撮画像と街をくまなく歩いて撮りためた数千枚の写真を元に、それぞれの建物を実際のサイズに合わせた縮尺で白地図に書き込んでいきます。
高層ビルの窓枠ひとつひとつまで丁寧に描きこまれた緻密さは圧巻の一言。ですが、正確でありながらも遠近感を排除した独特の表現は実際に人の目で見て記憶に焼き付けた風景に近く、いつまでも眺めていたくなるような不思議な魅力にあふれています。
青山さんが鳥瞰図を描くきっかけは、日本を代表する鳥瞰図絵師・石原正さんの作品『神戸絵図』(1981年発行)との出会いでした。街をそのまま描きだしたかのような鳥瞰図の手法に衝撃を受けると同時に、1995年の阪神・淡路大震災以前の神戸が描かれていたことに心を動かされたと言います。
「震災当時は神戸市長田区で被災し、震災とその後の復興で街が激変していく様子を肌で感じていました。その経験もあり、街の変化を残すことにも大きな意味があると考えていたんです」
その後、青山さんは石原さんの『神戸絵図』と同じ角度で神戸の街を描いた『神戸旧居留地鳥瞰図2006』を独学で完成させます。その後も『港町神戸鳥瞰図』を08、14、17年と改訂しながら発表しています。
神戸の街については、他にも神戸大学名誉教授・神木哲男さんの監修の元、文献資料から開港時の神戸を描きだした1868年版もあり、石原さん作の1981年版『神戸絵図』も含め、鳥瞰図による都市の定点対比記録としては日本でも屈指のものが残せていると青山さんは自負しています。
数々の取材に細かな描画、ひとつの鳥瞰図を完成させるのには数年単位で時間がかかることもあるのだとか。その間にも街の景色はどんどん変化し続けます。
「地上を歩いて撮影した景色が、その後の空撮時には変わっていることも。そんな場合はちょっとしたさじ加減で残してあげたいなと思うものを古いまま描くこともあります」
青山さんの鳥瞰図は正確に描かれているとは言え、厳密な記録写真とは異なる絵画作品。他にも青山さんが描きたいと思ったお気に入りの船や人物などが違和感のない範囲で描き込まれています。鳥瞰図に描かれているのはすべて過去の実際の街の風景。ですが、正確には青山さんの目線を通して描かれた街の記憶なのかもしれません。
今回の作品展では、青山さん作の『港町神戸鳥瞰図』の4作品と『大阪梅田鳥瞰図2013』などが展示されています。特に、今も再開発で大きく姿を変えつつある大阪梅田地域については石原正さん作の『大阪梅田絵図1983』もあわせて展示されていますので、ふたつの鳥瞰図を見比べながら大阪都心のダイナミックな変化をぜひ感じてみてください。(フリーライター・たまのみか)
▼「鳥瞰図 鳥の視線で見てみると」大阪府立中之島図書館で4月27日まで開催。展示時間は9時から20時(最終日のみ17時まで)
▼青山大介オフィシャルWebサイト:http://www.aoyamadaisuke.com/