一人舟盛り、店員と記念撮影…31歳男性が「ソロ送別会」を申し込んだワケ

ソロ送別会で店員らに花束や色紙を渡される田村さん。はたから見れば、店で働いていた上司を送っているよう=大阪府豊中市、「ごちそう村豊中上新田店」
1人前でも見栄え良くなるよう工夫した「舟盛り」
店員と写真撮影。「『送別会中!』とインスタなどに投稿できるように」(ごちそう村)とのアイデアらしい
3枚

 春は出会いと別れの季節。ですが、中にはさまざまな事情で送別会をしないまま退職する人も。そんな人たちを店員が全力で祝い、再出発を応援する「ソロ送別会」を、大阪・兵庫の和食レストラン「ごちそう村」が企画し、話題になっています。どんな人が?なんで一人で?12日、大阪府内で開かれた「宴会」を取材しました。

 午後6時。スーツ姿で店に現れたのは大阪市に住む塾講師、田村勝久さん(31)。今は4月から働く職場の研修中といい、手には大阪・梅田の花屋で自ら買った花束が。店員に迎えられ、ドリンクを注文すると間もなく、グラスを手にした3人の店員が現れ「お疲れさまでしたーーーっ!!!」と乾杯しました。

 ソロ送別会は、「ごちそう村」の3月限定企画。運営する「入船」(兵庫県加古川市)の早房ゆうこさん(40)によると、別の店の常連男性が、送別会の盛り上がりを見て「俺、送別会してもらったことないねんなぁ。ああいうの楽しそうやな」とつぶやいたのがきっかけでした。リリース直後から「まさか」「来る人おるの?」と話題になる中、田村さんはネットニュースで見てすぐ「自分にピッタリかも?面白そう」と予約を入れたそうです。

 田村さんは5年間勤めた東京都内の学習塾を2月末で退職しました。中学高校時代の恩師が独立して立ち上げた教室で、恩師と田村さんの2人で切り盛りし、勉強が苦手な子を手取り足取り教えてきました。「すごくやりがいもあり、大好きな職場だった」という田村さん。ですが、大手の攻勢の前に、最盛期には50人以上いた生徒も20人ほどに減少。次第に経営は難しくなり、田村さんは地元の大阪に戻ることを決めました。

 「恩師は快く受け入れてくれて、就活で遅れることがあってもいいよ、と。本当にいい人でした」。その恩師も昨秋倒れ、健康状態もギリギリの中、2人で最後の力を振り絞って受験生を送り出したのが2月末。「とてもじゃないけど、送別会なんて状況じゃなかった。ただ、もう会うこともないかもしれないのに、最後に一度ぐらいごはんを食べても良かったかな…」と振り返ります。

 ドタバタと新生活を始めた直後に知ったのが「ソロ送別会」。普段からソロ焼肉やソロ映画鑑賞など「おひとり様」が好きという田村さんは「特に抵抗はなかった」と言います。この日も、特別に作られた「一人用舟盛り」の刺身やすき焼き鍋、寿司などに舌鼓を打ちつつ、料理や飲み物をもって来るたびに「新しいお仕事も頑張ってください」などとエールを送ってくれる店員と「お互い頑張りましょう」などと言葉を交わし、最後は、自分が買ってきた花束と、「ピンチのときには助けていただいてありがとうございました」など、「長年一緒に仕事をしてきた体」のメッセージが寄せ書きされた色紙を受け取り、記念撮影しました。全く知らない初対面の人たちに祝われることに「なんか、ムズムズしました。ネタになりそう」と苦笑しつつ、「色紙をもらったのなんて、何年ぶりだろう。形だけでもうれしいし、一区切りついた感じ」と、新たな門出に意欲を燃やしていました。

 ソロ送別会は全7品で3000~4000円、要予約で、現在ほかに1人が予約中。ただ、4月の「ソロ歓迎会」の企画予定はないそうです。(神戸新聞・広畑千春)

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