初心者が「古民家カフェ」をつくるには?大阪の歴史的建造物をリノベしてみた

郵便局時代のまま残しているキッチンのカウンターテーブル
店主の櫻井さん(右)と三宅さん
ほろほろと身が崩れるくらい煮込んだチキンカレー
3枚

 昨年7月、大阪・八尾市の高安山のふもとに誕生した「ゆくるカフェ」。築250年の旧河内木綿問屋を改装した『茶吉庵』の中にあるほっこり系のカフェだ。店主は飲食業の経験がないという櫻井淳さんと三宅ゆりこさん。初心者の2人が、どのようにしてカフェをオープンしたのだろうか。

 「そもそもの始まりは、地域の交流会で、茶吉庵のオーナーである萩原浩司さんに出会ったことでした」と語るのは櫻井さん。以前からカフェをひらくのが夢だった2人は「茶吉庵内にカフェを作りたい」という萩原さんの話を聞き、視察に行くことを決めたという。

 建物を気に入り、オープンを決意したものの、内部は空き家状態。まずリノベーション工事で空間を再生する必要があった。「壁を壊して床板を剥がすなど、やれるところは自分たちでやりました」(櫻井さん)。しかし、2人でできることは限られている。そこで力になったのが、萩原さんらの声かけによって集まった地元ボランティアや学生たち。「多い日は20人くらいで作業することも。楽しみながらやっていたので苦労した思い出はないんです」と振り返る。

 だが、オープン目前にアクシデントが発生。豪雨により川が氾濫し、床が水浸しになった。「雨の中、必死になって泥水をかき出しました。床を張り替える前だったのが幸いです」。思わぬ自然の驚異によってオープンは延期になったものの、2018年7月28日、カフェの開店にこぎつけた。

 建物の改装はすべてがDIYではなく、途中からは業者を入れたという。「業者といっても知り合いの工務店や大工さんです。思い返してみると、カフェづくりに関わってくれたほとんどが僕たちとつながりのある人たちなんです」(櫻井さん)。

 素人ながら内装をデザインできたのは、三宅さんが頻繁に書きためていたアイデアノートがあったからだ。イメージを思いつくたびメモし、デザインをイメージしていったという。

 「実は、明治時代に郵便局として使われていた建物でもあったんです。その味わいを残すため、ガラス窓や柱などは当時のまま。キッチンのカウンターテーブルも郵便局時代のものなんですよ」

 ところで、最大の難関とも言えるメニューづくりは、どう乗り切ったのか。

「唯一自分が自慢できるものは何かな、と考えたとき、浮かんできたのがスパイスカレー。スパイスの奥深さに魅了され、以前からカレーを探求していたんです。これなら素人のわたしでも他の店と差をつけられるんじゃないかと」(櫻井さん)。

 カレーメニューは「ほろほろチキンのゆくるカレー」や「ひよこ豆のキーマカレー」など、スパイスからブレンドした完全オリジナル。いまでは看板メニューとして、若い方だけでなく年配のお客さまにも人気だ。オリジナルのガラムマサラで、自分好みの辛さに調節できるというこだわりもある。

 実は、店主の2人は音楽家でもある。三宅さんは三線奏者、櫻井さんはウクレレとギター奏者で児童音楽にも携わっている。「自分にとっては、演奏するのも料理を作るのも根本は同じなんです。とにかくお客さま全員に楽しんで帰ってもらいたい。その思いでやっています」と櫻井さん。カフェでは定期的にライブを開催しており、櫻井さんと三宅さんがステージに立つこともあるという。

 茶吉庵の敷地内にある「まちライブラリー」を利用できる点もユニーク。地域の人や出版社から寄贈された本を、カフェに持ち込んで読むこともできる。「何時間でも好きなだけ読んでいってくださいね」(櫻井さん)。

 敷地内では多彩な催しも開かれる予定だ。ギャラリーでは、5月24日から6日間、日本のまだ見ぬ芸術家を発掘する「ジャパンあるてぃすと展」を開催する。世界に羽ばたく芸術家を、茶吉庵のある八尾市から輩出したいとの思いが込められている。

 店名の「ゆくる」は、沖縄弁でゆっくりやくつろぐという意味。

「ここに来たらほっとする、癒される、ずっといたくなる。訪れた人にとっても、そして私たちにとっても、そんな場所を目指していきます」(おふぃす・ともともライター 森田朝子)

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