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九州温泉ねこめぐり第6回 鹿児島・妙見温泉「田島本館」のつばめ&すずめ

 鹿児島空港から車で約20分。鹿児島県霧島市の妙見(みょうけん)温泉は、古くから湯治場として栄えてきた。霧島山麓から流れ出す天降川(あもりがわ)沿いにある「湯治の宿 田島本館」では、つばめ(メス、推定4歳)とすずめ(メス 推定2歳)、2匹の三毛ねこが湯治に訪れる人たちを癒している。

 「つばめちゃん、すずめちゃん、元気だったかい?」。温泉に立ち寄る地元の高齢者たちが受付入口に座っているつばめ、すずめの頭を優しく撫でていく。田島本館は100年以上前に湯治場として開業。長期滞在も可能な湯治宿だ。泉質はナトリウム・マグネシウム・カルシウム炭酸水素塩泉。「神経痛の湯」、「キズ湯」、「胃腸湯」の3種類がある。

 2匹の世話をする支配人の榎並直子さん(55)は「神経痛をはじめ、筋肉痛や関節炎などに効き、湯に入る前は杖をついて来たのに、帰るときは杖を忘れて帰る人もいて、『杖いらずの湯』とも言われているんですよ」と笑顔で教えてくれた。

 つばめがやってきたのは4年前の秋だ。系列の宿泊施設の敷地内に1匹で迷い込み、逃げ回るのを数人がかりで保護。同館にやってきた。一方、すずめは、同館で働くパート女性従業員が昨年5月ころ、「うちのアパートの駐車場に野良ねこが何匹かいて、その中につばめちゃんとそっくりの可愛い三毛ねこがいる」と保護して連れてきた。ともに同館に来た時は生後半年すぎくらいだったという。

 「でも、すずめがやってきた当初、先住のつばめは、すずめをシャーと威嚇して、全く寄せつけなかったんです。どうしたら仲良くなれるだろうと思っていたら、数日後、すずめが呼吸時にゼーゼーといいだし、急にうずくまって動かなくなってしまったんです。すぐに動物病院に連れていくと、先生いわく『横隔膜が破れ、内臓が上がっている。すぐ手当しないと』と診断されました」(榎並さん)

 野良ねこ時代、心ない人にお腹を蹴られたのかもしれない。幸い発見が早かったこともあり、手術をしてすずめは一命をとりとめた。1週間の入院後、同館に戻ったすずめは、首にエリザベスカラーをつけ、部屋で安静にしていた。すると、「つばめがすずめの様子を度々見に行くんです。心配だったのかもしれません。すずめが回復すると、もう威嚇はしなくなり、すずめを受け入れるようになったんです」(同)

 今では本物の姉妹のように、じゃれあったり敷地内を走り回ったりと、2匹の息はぴったり。「つばめはお姉さんなのでおっとりとした性格。すずめは、これをしたら私に叱られるなとか、妹らしくつばめの行動をよく観察しています」(同)。

 食堂の床は冬場、温泉床暖房でぽかぽかのため、2匹にとって寒い日は特にお気に入りの場所だ。入口では宿泊者のお出迎え、見送りを欠かさない。「それこそねこの手も借りたいほど忙しいときは、どちらかが受付に座って店番をしてくれます(笑)。2匹がここに来てから、お客さんたちがこの子たちの頭や体を撫でて、すごく笑顔になって帰っていかれるようになりました。私たち人間にはできない癒しの力を、この子たちは持っているんですよね」と榎並さん。

 ともに80代に近いこんな老夫婦もいたそうだ。夫婦が初めて宿泊に来たとき、ご夫人はつばめを見て「私たちの家にもこんなねこがいたのよ」と懐かしそうに体を撫でた。「少し前に亡くなってしまってね」とため息をつくご主人。榎並さんが、「またねこを飼わないんですか?」と尋ねると、夫人は「もう歳が歳でしょう。もし私たちが先に死んでしまったら、飼い主がいなくなってかわいそうだから、飼いたくても飼えないの…」。それから夫婦は常連客になり、来るたびに2匹を抱きしめて帰るという。

 2年半前の熊本地震、今年3月以降の新燃岳噴火のときは一時客足が遠のいたが、そんなときも、ねこ好きの人が遠方からつばめに会いにきてくれたり、口コミで別の人を紹介してくれたり。そのおかげで宿泊客が大きく落ち込むことはなかったそうだ。「いまは人間の娘が2人いるみたい。共に働く同志でもあります」と、榎並さんは全幅の信頼を寄せた。(デイリースポーツ特約記者 西松宏)*「湯治の宿 田島本館」鹿児島県霧島市牧園町宿窪田4236 電話 0995-77-2205

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