龍馬、西郷ら幕末明治維新の偉人が鹿児島の集落に!塀のコケを削ったアートが人気

 鹿児島市小山田町の古園集落で、看板制作業の古園望さん(59)が民家の塀の上に生えた苔(こけ)を削って描いている「苔画」が、地元紙などで取り上げられ話題になっている。昨年秋から西郷隆盛や坂本龍馬など、幕末や明治維新の偉人たちを描き始め、いまではおよそ300メートルの坂道に22点が並ぶ。「明治維新偉人ロード」と名付けられた集落の“画廊”には、これまでに千人以上が見物に訪れたという。

 JR鹿児島中央駅から車で約30分。54世帯、150人ほどが暮らす古園集落で看板制作業を営む古園さんが、苔むした自宅の塀に絵を描き始めたのは昨年9月。「排水溝から雑草が生えるなど、塀が見苦しかったので掃除をしていたんです。金ブラシでこびりついた苔をそぎ落としたときでした。きれいな濃淡が浮かび上がったもんだから、ここに何か描いてみたら面白いかもと」と古園さんはひらめいた瞬間を話した。

 「小さいころから絵を描くのが好きで、よく賞ももらっていました」という古園さんは、21歳のころから看板制作業に携わり、今年で38年になる。かつては映画館の看板やマンションの完成図などを筆やペンキでよく描いた。しかし、ここ数年はデジタル化が進んで作業はパソコンですることが多くなり、昔のように描く機会はほとんどなくなった。「昔取ったきねづかっていうんでしょうか。パソコンではなく、直接何かに描きたいって思うときがたまにあったんですよね」という。

 長い年月をかけて生えた苔の壁をキャンバスに見立てて、さっそく古園さんは高さ4メートル、幅10メートルにもなる桜島を描いてみた。すると、それを見た集落の人たちはびっくり仰天。相談役の栫孝二(かこい・こうじ)さん(64)は「雨で濡れるとべったりして汚いだけの苔の塀が、わっぜか(鹿児島弁ですごいの意味)雄大な絵に変わるのかと、みんな驚きでした」と振り返る。

 そのころ、来年のNHK大河ドラマが「西郷(せご)どん」に決定したため、今度は桜島の隣に西郷さんを描いてみた。来年は明治維新150周年でもある。そこで古園さんは「明治の偉人たちをテーマに描いてみよう」と、塀の所有者の許可を得て大久保利通、坂本龍馬、勝海舟、島津斉彬などの肖像画を次々と制作。いまでは、納骨堂へ続く約300メートルの坂道沿いに、五代友厚、吉田松陰、篤姫、小松帯刀、村田新八など、計22点の苔絵が並ぶ。

 描くときは下絵を見ながら、先の太さが違う3、4種類の金ブラシを用いる。塀自体を傷つけることなく、細いブラシでまず輪郭を丁寧に整え、次に太めのブラシで苔をそぎ落としていく。1つの画の完成に要するのは2時間程度というが、「苔なので一度削ってしまったら修正がきかない。一発勝負なんですよ」(古園さん)とも。

 同集落は65歳以上が半数以上を占める。栫さんは「古園さんが描き始めたころ、集落の人たちは『次は誰なの?』とみんな嬉しそうに話していました。独居の高齢者も多いのですが、『楽しみが一つ増えたよ』『急な坂が苦痛じゃなくなった』という人もいましたよ」と話す。今春、地元紙やテレビなどで紹介されると、県内だけでなく福岡など遠方からも、特に歴史好きの人たちが見物に訪れるようになった。

 古園さんは「町おこしや営利目的で始めたのではなく、あくまで私の遊び心、趣味から描き始めたもの。大勢の方に見に来ていただいて正直、驚いていますが、喜んでもらえるなら、もっと描いていきたい。次は別の集落の塀に、往年の俳優たちを描いて『映画スターロード』を作れたら」と話していた。(デイリースポーツ特約記者 西松宏)

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