２１年９月に開幕する日本初のサッカー女子プロリーグ「ＷＥリーグ」（ウィリーグ）の初代理事長（チェア）に就任した岡島喜久子氏（６２）がこのほど米国とのオンラインで単独インタビューに応じた。日本女子サッカーの幕開けに携わり、ビジネスの世界で知見を得て、米国では社会のあり方や女性の活躍を肌で感じてきた。そんな経験と知識の持ち主に、新しいプロリーグについて聞いた。（取材・構成＝スポーツライター・増島みどり）

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　岡島チェアとのインタビューは、日本時間午前１０時半に始まった。「朝からすみません」とつい口にすると、「こんばんは、こちらは夜でーす」と、笑顔と、弾む声が返ってきた。

　岡島氏が住むメリーランド州ボルチモアとの時差は１３時間（日本が先行）ある。女子初のプロリーグの初代理事長に米在住の女性が就任し、オンラインを駆使した会議、取材をこなし、来秋の開幕準備を進める。これも、「ウイズコロナ」が生んだニューノーマル（新常態）だろう。

　１９９１年、米国人の夫の故郷ボルチモアに移住した。仕事と地域に溶け込み、同地の名門ゴルフクラブで、白人以外で初の会員にもなった。米国企業でも１０％程度だった女性のファイナンシャルアドバイザーになると、サッカー選手として磨いたポジティブな姿勢で顧客の信頼を得る。特に、夫を亡くした女性たちの寂しさや不安を受け止め、適切な助言をする仕事ぶりは評価された。

　新しいリーダーは、女性の背中を支え、そっと押す人だ。

　岡島「米プロスポーツに営業に行くなかで、プロの価値を学びました。例えば、ＮＦＬ（米フットボールリーグ）では、選手に社会貢献活動が義務付けられている。多額の寄付をするのではなく、貧困層や移民を激励し、子どもたちと一緒にスポーツを楽しむといった個人の行動で良いのです。ＷＥリーグの選手たちにも、もちろん無理のない範囲で、身近な社会貢献を意識してもらうつもりです。

　地元ＭＬＢのオリオールズでは、ＳＮＳで何を発信し、何を発信すべきではないのか、といった教育も見ました。米国の選手たちは、女性でも、政治や社会に対して、自分の意見や抗議を示します。プロ化を機に、そういう視点を持ってくれれば。開幕前には、プロとして、社会の一員として、適切な発信力を持つためのＳＮＳ研修も取り入れたい」

　ＷＥリーグでは、競技力向上と同様、女性の活躍推進にも期待がかかる。今後、ＷＥリーグ事務局の設立と合わせ、理事会の女性比率を５０％に設定。またクラブにも積極的に女性を起用し、決定機関の幹部に加えるよう働きかける。最低年俸を大学新卒の初任給と同等の２７０万円としたのは、改革への決意の表れだ。

　１９年の世界経済フォーラム「ジェンダー（男女格差）指数」によれば、日本は１５３カ国中１２１位と過去最低位に。最悪の状況だからこそ新リーグ発足の意義は大きい。設立準備室長のＷ杯優勝監督の佐々木則夫氏（６２）は、内閣府の男女共同参画会議のメンバーで、今後、ＯＧたちの起用と合わせてアピールする。

　岡島「長女の産休中は、早く仕事に戻り大人と話したい、と考えました。ベビーシッターに子どもを預けて復帰すると、へとへとに疲れた自分を、ふわふわの柔らかい赤ちゃんが迎えてくれて、あぁ幸せって、パワーをもらった。長女とベビーシッター３人で出張もこなしましたね。

　長男誕生後は夜眠れず、仕事と２人の育児に追われ大変でした。そんな時、女性の上司がこう声をかけてくれたんです。来られる時に出社して、仕事を続ける方法を見つけてくれればいいのよ、と。楽になりました。女性のキャリアで大切なのは周囲を含めた柔軟な対応力でしょう。選手に、人生設計と競技の両方をバランスよく維持できる環境を作りたい。産休のほか、男性社員の育休や、心身両面で出産後の復帰プログラムを作るなど検討しています」

　プロ参加申請には、現在なでしこリーグに参加中の１、２部、女子を新設するＪクラブなど、予想を上回る１７団体が手をあげた。１０月の発表まで、初年度に予定する１０クラブの資格審査を進める。コロナ禍で日本経済は苦境に立ち、スポンサー獲得も難しい。一方、商品の共同開発を共に行う「共創パートナー」といった、新しいスポンサー契約も模索されている。

　難局を乗り越えるモットーがある。

　岡島「日本では覆水盆に返らず、ですが、アメリカでは、こぼれたミルクを嘆いても仕方がないと表現します。私は、こぼれても足せばよい、そう考え、失敗を恐れず、男女力を合わせて新しいリーグ、価値観を作りたいと思います」