王者・八重樫に異色の名トレーナーあり

 WBC世界フライ級王者・八重樫東(30)=大橋=の初防衛戦(12日・東京)まで残り10日を切った。敗れはしたものの井岡一翔(井岡)と史上初の日本人同士の団体王座統一戦で激闘を繰り広げ、後に世界2階級を制覇した八重樫の躍進は、フィジカルトレーナー土居進氏(42)の存在を抜きには語れない。WBA世界スーパーフェザー級王座7度防衛中の内山高志(ワタナベ)、過去にはK‐1WORLD MAX王者の魔裟斗も指導した“チャンピオンメーカー”はどんな指導者なのか?さらに、八重樫の初防衛戦対策にも迫った。

 7月下旬のある日。東京都新宿区にある土居氏のトレーニングジム「SkyLive‐R」で、八重樫と、同門の日本ミニマム級王者・原隆二が汗を流していた。運動を終えるたびにうめき声を上げて倒れこむ2人。ハードな“土居トレーニング”を物語る光景だった。

 土居氏の経歴は異色だ。スポーツ経験は中学で野球部、大学で野球サークルに所属した程度。慶応大総合政策学部卒業後は住宅設備メーカーに就職したが、29歳で退社。その間にワタナベジムに通いボクサーのライセンスを取るが「一生をかけるなら自分のやりたいことをやりたい。スポーツが好きだが選手になる才能はなく、自分ができないすごいプレーを選手ができるようにするサポートをしたいと思った」と、トレーナーを志した。

 そして、順大大学院スポーツ健康科学研究科に入学し、運動生理学を学ぶ。「運動生理学はトレーニングよりもっと基礎的な分野で、結局トレーニングは独学だった。でも、なぜトレーニングをすると変わるのか、という土台になることを勉強できたのは役に立ち、運動生理学の知識をトレーニングに当てはめればどうなるかを確かめていきました」

 ワタナベジムに在籍し、後に東洋太平洋バンタム級王者となる鳥海純の練習をサポートしたことが、トレーナーとしての第一歩。その後は魔裟斗、内山、八重樫と、K‐1とボクシングの王者3人の体づくりを任されるに至った。

 “チャンピオンメーカー”といえる実績だが、指導法はシンプルだ。トレーニングに王道はない、理論的根拠を持つ、愛情を込める、の3つが柱。「チャンピオンも一般の人も基本的にやることは同じ。土台をしっかりつくった上で、試合に合わせた練習をやります」と、珍しい器具も奇抜な方法も用いず、ベンチプレスや腹筋運動など、一般的な方法で鍛える。

 だが、チャンピオンのトレーニングはハードだ。八重樫には、井岡戦に備えた昨年4月の合宿で、腹筋1日2000回などの膨大な練習量を課した。土居氏は「限界ぎりぎりまで追い込む。限界を超すと体が壊れてしまうので、超えないように設定していくのが役目。八重樫選手も今では普通に腹筋運動を毎日1500回やってます。追い込めば、それぐらいはできますよ」と説明する。

 八重樫の指導を始めたのは、その合宿の直前から。大橋ジムの大橋秀行会長から頼まれたが、井岡戦まで2カ月しかないことを理由に一度は断った。だが、会長の熱心な誘いと、八重樫が初の世界戦であごを骨折しながら12ラウンド戦い抜いた話を聞き「そんな根性があるなら、短期間のハードな練習でもやれるだろう」と引き受けた。

 2カ月で結果を出すために、12ラウンドを戦うスタミナ、体幹、パンチに対する耐久力に絞って強化したが、結果は最大2ポイントという小差判定負け。土居氏は「力を出し切れてなかった」と、会長と八重樫に伝えたという。そして4月、八重樫にWBC世界フライ級王者・五十嵐俊幸(帝拳)に挑戦するチャンスが舞い込む。

 2階級上の王者に対抗するため、陣営は左右に動きながら距離を詰める作戦を立てた。ダッシュ、メディシンボールを使った運動などで八重樫の下半身を強化。試合の2週間前に八重樫のダッシュの加速が良くなったのを見て、土居氏は「これならいける」と確信したという。

 試合当日は陣営に「絶対勝てます。本人が疲れたといってもガンガン行かせてください。動けますから」と要求。その言葉どおり、八重樫は五十嵐の懐に飛び込んで攻め続け、3‐0の判定で2階級制覇を果たした。

 八重樫の初防衛戦まで残り10日足らず。土居氏は「五十嵐戦の左右の動きに前後の動きを加えるため、さらに下半身を強化した。ミニマム級から上げた八重樫選手がフライ級で戦うには下半身が生命線になる」と話した。そして、「相手は体格、パワーの差を生かして攻めてくると思いますが、それを覆します。厳しい戦いになると思いますが、八重樫選手ならやってくれる」と、自信の言葉で締めくくった。

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