ハンタウイルスは1960年代に国内でも流行→大阪で起こった「梅田熱」、ネズミの排泄物を介して感染

 5月初旬、オランダのクルーズ船でハンタウイルスの集団感染が発生し「コロナの再来か!」と、一時は騒然としたものですが、その後どうなったのでしょうか?

 結論から言うと、WHO(世界保健機関)は7月に入って「ハンタウイルスの流行は終息した」と発表しました。ハンタウイルスは、ネズミなどの「げっ歯類」の排泄物を通じて感染することがわかっており(糞が乾燥して巻き上がるエアロゾル感染)、ヒトからヒトへの感染は稀であることが判明したからだと考えられます。

 実は多くのウイルス学者は5月の時点で、ハンタウイルスは新型コロナの時ほどの騒動にはならないと予測していましたが、なにせ相手がウイルスなので安易な発表は控えられ、7月に入ってようやく新型コロナ騒動のような最悪の状況は避けられたと発表されたのです。

 ハンタウイルスは朝鮮戦争時の1951年、韓国北部の漢灘江(ハンタンガン)という河川の周囲で3千人以上の患者が発生して「韓国出血熱」と呼ばれ、そのずっと後の1976年、韓国の高麗大学でウイルスの同定に成功し「ハンターンウイルス」と名付けられました。1987年には国際ウイルス分類委員会が、その近縁ウイルスをまとめて「ハンタウイルス属」と名付けました。

 ハンタウイルスの仲間は60種類以上あり、ハンターンウイルスのほかにソウルウイルス、アンデスウイルスなどがありますが、ヒトに感染した際の症状から2群に分けられます。ヨーロッパ・アジア型といわれる腎性出血熱と、南北アメリカ型と呼ばれる肺炎症候群の2つです。今回のクルーズ船騒動はアンデスウイルスによる肺炎型で、実際に高確率で死者も出ましたし、感染して治った患者さんは「地獄の苦しみだった」と言っておられるそうです。

 ところが実は、過去に日本国内でもハンタウイルスの流行があったのです。1960年代に大阪梅田周辺で起こった通称「梅田熱」です。約10年間にわたって断続的に報告された患者数は119例で、うち2例が死亡。10年近く経って、ハンタウイルスの1種ソウルウイルスが原因だったと判明しました。もう一つは1970~80代にかけて、実験用のラットを通じたハンタウイルス感染症が全国の研究施設で報告されました。患者に共通していたのがラットの飼育やケージの掃除・交換など、ラットを用いた動物実験に関連する業務に従事していたことです。今なら労災扱いの事案ですね。

 いま現在も日本国内でハンタウイルス感染症が発生している可能性はありますが、むやみに怖がる必要はありません。「ネズミの排泄物を介して感染するハンタウイルスというものがあり、ネズミなどの排泄物などを見かけた場合や、そういう可能性がある場所は避けましょう」という程度の知識で良いです。ですがネズミの排泄物による汚染の可能性がある場所、と言われてもすぐには思い浮かびませんよね。例えば亡くなった身内が長く居住し、その後放置されていた家屋での遺品整理、ネズミが入り込む余地がある屋外の物置や道路の側溝、ガレージの整理・清掃など、意外と身近に危険は潜んでいるのです。

 ◆松本浩彦(まつもと・ひろひこ)芦屋市・松本クリニック院長。内科・外科をはじめ「ホーム・ドクター」家庭の総合医を実践している。同志社大学客員教授、日本臍帯プラセンタ学会会長。

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