【野球】「覚悟を決めてやったことでどんどん度胸がついてきた」新人時代のサブロー監督の一言をきっかけに生まれた独自の選手紹介 元ロッテの場内アナウンス担当・谷保さん
「サブロ~~~~~」と長く選手名を伸ばすアナウンスはZOZOマリンスタジアムの名物だった。個性あふれるアナウンスが生まれたのは、今秋からロッテ監督に就任したサブロー氏が新人時代に発した一言にある。ロッテの本拠地試合で33年間にわたって場内アナウンスを務め、野球ファンから支持された谷保恵美さん(59)が、選手紹介のコールが長くなっていった理由を明かした。
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今年10月に行われた監督の就任会見。サプライズで登場した谷保さんは「千葉ロッテ新監督、サブロ~~~~~~」と2023年の退職以来初めて伸びのある美声を響かせた。
監督から発せられたのは「短かっ!」という愛あるイジり。ファンにとっては、ほほえましいやりとりになった。
今なお語り継がれるアナウンスは、新人時代のサブロー監督からのリクエストがきっかけで生まれた。
「ご本人は覚えてないと思うんですけど、入団された時に一緒になった席で、サブローさんが“自分の名前を特別に呼んでください”というようなことをおっしゃったんです。それがずっと気になっていて。そんなことできないと思って普通にアナウンスしていたんですけど、活躍とともにだんだん長く呼ぶようになり、“もっと長く”となったんです」
94年度のドラフト1位でPL学園から入団した18歳は、5年目から1軍に定着し、その後チームの中心選手となって05年、2010年の日本一に貢献。活躍に伴い、「サブロー」コールも“進化”を遂げていった。
サブロー監督は2011年のシーズン途中に巨人に移籍。しかし翌年にFA復帰すると「もっと長く呼んでよ」とリクエストがあったという。そこからは両者の“せめぎ合い”が繰り広げられた。
「“ちょっと今日は気合が入ってなかった”とか、“今日は短かったんじゃないの”とか言われると、こちらはそうなのか…と気になる。サブローさんの打席が来る度にこちらは緊張するぐらい、鍛えられたんです。なので、新チームも選手の皆さんはそうやって監督から気になる一言をもらって鼓舞されていくのかなと思って、楽しみですね」
プロとして、選手からの要望に何とか応えようとやりとりするうちに、独自のアナウンス技術は磨かれていった。
「“サブロ~~~”のコールを覚悟を決めてやったことでだんだん度胸がついてきてアナウンスのスタイルができてきたように思う」。そう分析する。
気持ちを込めるのはもちろんどの選手に対しても同じだった。
「試合に入り込んで選手の名前を呼ぶ時、力が入ります。“フクウラ~”のように」と話す。
ロッテ球団だったからこそ谷保さんの魅力が存分に発揮された側面もあった。
「私がアナウンス担当になった時、ちょうど長くやられた先輩の退任後でもあり、ロッテのアナウンスの伝統を引き継ぐことがなかったんです。その後オリオンズ時代の川崎球場からマリンスタジアムに本拠地が移ったのもあって、自由にやらせてもらったんです」
92年の本拠地移転に伴い誕生した千葉ロッテマリーンズには、オリジナリティーにあふれたアナウンスを受け入れる土壌があった。
「代々引き継がれた場内アナウンスの型がある球団でしたら当然そういう訳にはいかなかったと思いますし、私も伝統にのっとるのが当たり前だったと思います」と振り返る。
1軍公式戦での担当試合数が公表されるようになったことも加わり、谷保さんは球界全体から脚光を浴びる存在になっていった。
「球界は節目の数字を出すことが多いから、試合数を出していきましょうと広報が言ってくれたことで、初めて担当試合を数えるようになりました。ありがたいですよね。ほんとに私は特別じゃなく、普通の声で、普通のアナウンスなんですけどね。サブローさんが、ファンの皆さんに愛されていた人気のおかげで、私の声まで愛してもらったので、それは本当に感謝しています」
谷保さんは感慨を込めた。
(デイリースポーツ・若林みどり)
◇谷保恵美(たにほ・えみ)1966年5月11日生まれ。北海道出身。帯広三条高で野球部マネジャー、札幌大女子短期大時代は札幌大野球部のマネジャーを務める。90年にロッテオリオンズ(現千葉ロッテマリーンズ)に入社し、91年から場内アナウンス担当。91年8月9日に1軍デビュー。2022年7月17日に1軍公式戦通算2000試合を達成。23年の本拠地最終戦で2100試合到達。同年限りで33年間務めた場内アナウンス担当を引退し12月に退職。25年9月から千葉県市川市でカフェ「2lipan(トゥリパン)」を営む。





