【野球】衝撃の引退を決めていた伊良部投手 八木沢監督の指導で142キロ→150キロ超え プロ野球最速158キロに導く

 日本プロ野球OBクラブ理事長の八木沢荘六さん(80)は、1992年にロッテの監督に就任し、伊良部秀輝投手(享年42)の再生に乗り出した。当時、伊良部投手は球団に引退の意向を伝えていたといい、新監督となった八木沢さんは、1年間の“猶予”を求めた。日本球界を代表する剛速球投手で、のちに米大リーグ・ヤンキースなどでも活躍した伊良部投手との思い出を回想した。

  ◇  ◇

 低迷が続いていたロッテの千葉移転の年に、金田正一監督の後を受けて八木沢監督は誕生した。

 監督要請を受諾した91年11月。八木沢さんはフロントに伊良部投手の引き止めを依頼したという。

 「僕が監督になった時は『もう引退します』って言ってたらしいんです。だから上の人に、止めてくれと。1年でいいから止めてくれと言いました。1年でよくならなかったら、俺が間違ってたということで、辞めてもらってもいいからと。モデルになりたかったようです」

 プロ4年目を終えた伊良部投手が引退する意向だったという衝撃の事実を明かした。

 193センチ、108キロの体格を誇った右腕は、香川・尽誠学園高から87年のドラフト1位でロッテに入団。1年目に2勝、3年目には34試合に登板し8勝をマークしていたが、91年には3勝8敗、防御率6・88とくすぶっていた。

 選手への指導が解禁になる2月1日の春季キャンプ。監督としてユニホームに袖を通した八木沢さんは伊良部投手の再生に着手した。

 「スピードを出してもらいたかった。あの体だったら、絶対に速くなる。キャンプに入ってすぐに、ブルペンで1週間ぐらい僕の言ったことを全部やらせました。あの頃はピッチングが分からなくなっていたんです」

 監督就任の前年まで、日本一集団の西武で投手コーチを11年にわたって務めていた八木沢さんは、相手チームの伊良部投手を見ながら、「あんな投げ方じゃダメ。ブルペンを見ても、投げ方がダメだと思ってたんです。スピンが利かない投げ方になっていた」と回想した。

 八木沢さんは、重視する上半身の使い方を指導。「左側に上体が倒れるような投げ方に変えたら、1週間で出たんですよ。前は球速142キロぐらいしか出なかったのが、スピードガンで150キロを超えた。彼は面白くなったわけです。よく言うことも聞いてね。一生懸命やりましたよ。いい球、速い球を投げられたら、それはやりたいよね」

 ブルペンでの2人の熱いやりとりが伝わってくる話しぶりだった。

 その年の伊良部投手は0勝5敗に終わった。だが、93年5月3日の西武戦では清原和博選手へのストレートが2球連続して158キロを計測し、当時のプロ野球記録を更新。2人の力と力のぶつかり合いは「平成の名勝負」としてファンの注目を集めることになった。この年の後半から先発となった伊良部投手は、7連勝を含む8勝7敗と飛躍を遂げた。

 「158キロ、日本記録を出したんです。どんどん球がいくようになって。それで、アメリカにまで行ったんです。僕はもう、その時にはいなかったけれど」

 八木沢さんは伊良部投手の剛速球を懐かしみ、自身の退任にも触れた。

 引退を踏みとどまった伊良部投手は進化し、94年にはプロ入り初の200イニング超えを達成。15勝(10敗)で最多勝と最多奪三振(239)のタイトルをつかんだ。

 だが、八木沢さんは監督として、それを見届けることはできなかった。

 94年8月1日。5位低迷の責任を取ってシーズン途中で休養、その日の西武戦から中西太ヘッドコーチが監督代行を務めた。5位に終わったシーズン後の11月、ロッテは広岡達朗氏のGM就任と、ボビー・バレンタイン新監督の招聘を発表した。

 伊良部投手はロッテでの9年間を経て海を渡った。96年オフにメジャー移籍を訴え、97年6月にヤンキースに入団、世界一にも輝いた。2003年には日本球界に復帰し阪神の優勝にも貢献。引退後の2011年、42歳の若さでこの世を去った。(デイリースポーツ・若林みどり)

 ◆八木沢荘六(やぎさわ・そうろく)1944年12月1日生まれ。栃木県出身。作新学院、早大を経て、66年のドラフト1位で東京(現ロッテ)入団。73年にプロ野球史上13人目の完全試合を達成、最高勝率・875を記録した。在籍13年で394試合に登板。71勝66敗8セーブ。防御率3・32。92年から94年途中までロッテ監督。ロッテを含め、西武、横浜、巨人、阪神、オリックス、ヤクルトと7球団のコーチを歴任した。日本プロ野球OBクラブ理事長。

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