【野球】広島・矢野雅哉 首位攻防で連勝へ導いた爆肩「大事なのは肩よ」思い起こさせた阪神歴代最多勝監督の言葉 名遊撃手の条件
「阪神0-3広島」(19日、甲子園球場)
なかなかこんなシーンは見た記憶がない。甲子園のどよめきが収まらなかった事実がすべてを物語っていた。あの位置から、あの体勢から、なぜこんな凄いボールが-。広島・矢野雅哉内野手のプレーに、野球の聖地で驚きの声があがった。
場面は3点リードの四回先頭。阪神・森下がフルカウントから内角低めの直球をきれいに捉えた。痛烈な打球が三遊間を襲う。ほぼ誰もがヒットと確信した歓声がわき起こる。だが昨季、ゴールデングラブ賞を獲得した矢野の守備力は想像をはるかに超えた。
三遊間の最深部で横っ跳びでボールをキャッチすると、すぐさま起き上がり、ほぼノーステップで一塁へノーバウンド送球。ボールは山なりではなく、力強い軌道で届き、アウトにした。森下がベースを踏んだ直後、天を仰ぎながら「えーっ!?」という表情を見せたことからも分かるように、打った打者ですらアウトになると思っていなかったはずだ。
そしてスタンドも-。勝負が次打者の佐藤輝に移っていく中でもどよめきが収まらなかった。個々の席で矢野のプレーを語り合っていた。そういう雰囲気すら感じさせた光景だった。
阪神の監督として歴代最多となる552勝をマークした岡田彰布オーナー付顧問は、遊撃手の条件として「大事なのは肩よ」と挙げていた。デイリースポーツ評論家時代に「肩が強くない選手はどうしても前に出てくる。前に出てくると、守備範囲が狭くなるんよ。肩に自信がある選手ほど後ろに守るんよな」と語った上で、「やっぱり肩が強くないとアカン」と評論してもらったのをよく覚えている。
守備位置が前に出ると、三遊間、二遊間の深い位置には回り込むことができない。阪神第一次政権で藤本を二塁にコンバートして鳥谷、第二次政権で中野を二塁に回して木浪を正遊撃手として起用したのも肩の強さを判断してのものだった。
話をゲームに戻すと、矢野のワンプレーは間違いなく阪神の反撃の芽を摘んだ。森下は球場の雰囲気、チームの空気を変えられる選手だけに、アウトにできたのは大きかった。
さらに六回には左中間を破った近本が一気に三塁を目指した。外野から野間の送球を受け取った矢野は、すぐさま反転して三塁へ送球。ボールは浮き上がるような軌道に見えるほど力強く、タッチアウトにした。矢野の力強い送球でなければ近本も憤死にはならなかったかもしれない。四回のプレーと合わせ、矢野の肩が床田を支えたと言っても過言ではないだろう。
2死満塁から大山の遊ゴロを前進して捕球し、ランニングスローでアウトにしたのも十分に難しいプレー。二回に決勝打となる適時内野安打を放ったが、矢野の守備で勝った。そう思わせるほど、素晴らしいプレーの連続だった。(デイリースポーツ・重松健三)





