【野球】なぜ中日・立浪監督はゴミ箱を蹴り上げたのか 普段は温厚な指揮官が激高した舞台裏

 意外な光景だった。16日の中日-日本ハム戦。四回2死一、三塁の守りで、一塁走者の日本ハム・上川畑が故意にけん制に誘い出される偽装プレーを仕掛ける間に、三塁走者の万波に決勝点となる本塁を奪われた。チームとして、敵の術中にまんまとハメられる形となった中日・立浪監督は、イニング終わりでベンチ奥に姿を消す際、通路脇のゴミ箱を思い切り蹴り上げた。

 このシーンはネットを通じて瞬く間に広がり、「周りの選手がビックリしてる」「相当怒ってるな」「怒りをゴミ箱にぶつけるのはどうかと思う」「立浪監督にしては珍しいんじゃないか」といったコメントが集まるなど、反響も大きかった。

 立浪監督は試合後、「日本ハムが得意の一、三塁に引っかかっていては。指示不足もある。我々も選手も、しっかり反省してやっていきたい」と落ち着きを取り戻して語っていたという。

 立浪監督の現役時代を取材したが、怒りとは対局に位置する選手という認識だった。年下の審判や記者にも敬語を使うなど、規律に厳しいPL学園出身らしく、礼節を欠かない人。2000年5月6日の横浜戦でのストライク判定に納得がいかず、橘高球審の両肩付近を突いて退場処分となったが、22年の現役生活で退場となったのは、後にも先にもこの1回だけだった。

 フラストレーションがたまる要因はいくつもある。投手陣では八回を任せる予定だったロドリゲスがWBCを終えた開幕直前に来日を拒み、後に米大リーグに挑戦したい希望を自身のインスタグラムで発信した。エース左腕・大野雄も左肘のクリーニング手術で戦線離脱。打線ではメジャー通算41本塁打の新外国人アキーノが打率・154、1本塁打、6打点と振るわず、ビシエドも打率211、2本塁打、5打点。アルモンテにおいても打率・189、1本塁打、2打点と全く機能していない。現役ドラフトで獲得した細川が3割を超える打率をマークし、今では4番に定着しているが、チーム全体として得点力を上げられていないのであれば、守りを固めて失点を防ぐという共通認識の欠けたプレーに怒りが沸点に達したのだろう。

 中日一筋22年で通算2480安打を放ち、2009年の現役引退から13年後の2022年、ようやくファンの念願だった立浪監督が誕生した。だが、就任1年目の昨季は66勝75敗2分けで最下位に終わった。「打つ方は打てないと言われましたが、必ず何とかします」という就任会見を信じたファンは、リーグワースト414得点に終わった結果を“裏切り”と捉え、バンテリンドームに足を運ぶ人が減った。それでも今季、助っ人勢の不振はありながらも、積極起用した福永、村松といったルーキー勢などが結果を残しつつあることなどから、少しずつ客足も回復傾向にあると聞く。

 中日関係者は「立浪監督は戦力が思ったように整わない中で我慢強くやってると思いますよ。すぐに結果が出なくても、先を見据えながら粘り強く戦ってると思いますし。正直、苦しいとは思うんですけど、その辺りも表に出さないようにしている感じはします」と語る。

 だが、18日の日本ハム戦で今季13度目の完封負けを喫し、1分けを挟んで4連敗。借金は今季ワーストを更新する16まで膨らんだ。笑顔になれる日は少ない。63試合を消化して23勝39敗1分けでヤクルトと並んで最下位。1試合を残す交流戦も6勝10敗1分けと負け越すなど苦戦は続いている。それでも立浪監督は、手塩にかけて育てている選手たちが一日も早く芽吹き、一人前になることを待っている。(デイリースポーツ・鈴木健一)

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