【野球】なぜ阪神・岡田監督は7回完全投球の村上を代えたのか 代打・原口投入の裏側

 まさかの交代劇に阪神ファンからもブーイングが起こった。12日に行われた巨人戦、1-0の八回1死。9番・村上の打順で、阪神・岡田監督は吉本球審に代打・原口を告げた。2年ぶりの先発マウンドで村上は7回無安打無失点。一人の走者も許さない完全投球を繰り広げていた。

 塁上に走者はいない。打者21人に対して球数84。村山実、江夏豊でも達成できなかった球団史上初の完全試合まであと6アウト。プロ初勝利が完全試合だった投手は過去にひとりもいない。阪神投手のノーヒットノーランは2004年の井川慶以来で、プロ初勝利がノーヒットノーランとなれば、1965年の広島・外木場義郎、1987年の中日・近藤真一以来3人目となる偉業が目前に迫っていた。

 八回裏。2番手・石井が岡本和に初球を左中間スタンドに運ばれて村上のプロ初勝利が消えたことも重なり、「岡田采配」「ノーノー」「代打・原口」「阪神の村上」がツイッターでトレンド入りし、ネットでも岡田監督の一手に対する批判的な意見が見受けられた。

 延長十回、近本の決勝打で勝利を収めた岡田監督は試合終了直後のテレビインタビューで「勝ったから良かったようなものの、頭の中でずっと完全試合いけたんかなあって。それは残ってますね、片隅にね。まあ初めてやったんでね、完全試合の継投っていうのは。あの1球はもったいなかった」と村上にプロ初勝利をつけてあげられなかったことを悔いつつも、「六回も考えたんだけどね。後ろも投げてなかったんで」と、もう少し早いイニングでの交代も視野に入れていたことを明かした。

 一方、その後の記者囲みでは継投の決断について「全然悩まなかった。3人で完全試合という方を優先したんや。調子がいいのは聞いてたけど、あんなピッチングするとは思わんかった。フォアボールも出してないしなというのはあったけど。あと2点ぐらいあったら、行かしたかも分からん。3-0やったら。佐々木朗希やったら投げさせとったけどな。1-0でもな。村上は3-0じゃないと投げさせられない。その辺は違うところ」と明かし、「チーム一丸の勝利?それはもう全然大きいよ。チームの勝ち星は村上でいいやろさ。当然やん、そんなん当たり前やん」と一世一代の好投を繰り広げた右腕を称えた。

 BS日テレで解説を務めた元巨人の江川卓氏は「ボールが来てない。ギリギリなんですよ。よくあるんですが。完全試合なんですが、ボールとしては危ない。勝つために、もちろんそうですね」と岡田監督の決断に理解を示した。元阪神、中日の福留孝介氏は「ドラゴンズの山井を思い出しましたね」と振り返った。

 中日の3勝1敗で迎えた2007年の日本シリーズ第5戦。中日・山井大介投手は八回終了時まで完全投球を展開していた。それでも落合博満監督は九回に守護神の岩瀬仁紀投手を送り込み、最後は小谷野栄一内野手を二ゴロに仕留めて、日本シリーズ史上初となる継投による完全試合を完成させ、53年ぶりの日本一に輝いた。

 半世紀ぶりに日本一の座を奪回したのにも関わらず、「なんで代えたんや」「しらけた」「山井が可哀想」など、落合采配に対する批判が渦巻いた。それでも翌日、山井が試合中盤から右手のマメが破れて出血し、ユニホームの太もも部分に血が付いていることが広まったことで騒ぎは収まった。

 当時、落合監督は「俺はどんな批判でも受け止める。ただ、あの時はどうしても日本一を勝ち取らなきゃいけなかったんだ。それが球団の願いだったから。あそこで山井を続投させて負けてもまだ3勝2敗じゃないかという声も聞いたけど、そうなると札幌に舞台が変わる。もし札幌に行ってたら、どうなっていたか分からん。どうしても名古屋で勝つ必要があったんだ」と語っていた。

 奇しくもあの試合も1-0の展開だった。山井が右手から出血していた、53年ぶりの日本一を名古屋で勝ち取る必要があった落合監督。一方、岡田監督は最少得点差ということもあり、勝利の方程式を駆使しての完全試合達成をもくろんだ。今回は未遂に終わったことで、ファンの間から「一本打たれるまでは投げさせてほしかった」という声が多く広がったが、他方で「難しい判断をしなければならなかった岡田監督もツラかっただろうね」「序盤のボールと終盤のボールの違いを冷静に見極めた采配だった」という意見も少なくはなかった。

 ファンの立場からすれば、なかなか立ち会うことのできない場面を奪われたという感覚を覚えたとしても仕方はない。だが、村上は「チームが勝てば良かったので。ホームラン打たれてから3人で抑える石井さんはやっぱりすごいですし、これから絶対助けてもらうと思うので、そこは何も思わなかったです。どうせ次は自分が迷惑かけるんで」とすがすがしい表情で語った。これこそが全てではないだろうか。

 大記録達成はもちろん貴重なこと。それでも、この一戦で最終的に勝利し、村上が独り立ちへの大きな一歩を踏み出し、石井が次回登板で借りを返し、打撃陣も村上援護への思いをスコアボードに刻み、18年ぶりのアレにたどり着くことができれば、「あれが分岐点となった試合だったかもね」とグラスを傾けることができるかもしれない。(デイリースポーツ・鈴木健一)

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