【芸能】「有事」と「恋愛」と ドレスコーズ・志磨遼平インタビュー(後)

 志磨遼平の音楽ユニット「ドレスコーズ」が昨年、ニューアルバム「恋愛大全」をリリースした。コロナ禍が色濃く反映されていた前作「バイエル」に比べ、一聴すると、コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻、安倍晋三元首相の暗殺、統一教会問題といった世界の現状とは、一線を画したような趣になっている。「有事」と「恋愛」について志磨に聞くインタビュー、その後編。(デイリースポーツ・藤澤浩之)

  ◇  ◇

 とはいえ、テーマは恋愛。志磨はラブソングの名手でもあるが、実際に、ラブソングに自身の恋愛体験は反映されるのだろうか。

 「今まで経験した自分のいろんな感情ですね。すがるようなみっともなさとか。恋愛経験が全て成功していれば作る曲も違うんだろうっていうのはあります。だから、もちろん影響はしますね」

 志磨の作るラブソングは、みっともなさや苦さが甘美にも感じられる。失恋ソングが特に印象的だ。

 「なるべく何にも左右されずに生きてたい、自立して生きていきたいのに、あなたがいないと、だとか、必要としてくれたとか、そういう他人との関係は自分を失わせる。いやだなあというのが基本姿勢なんですね。だから、作品にするにしても、ある程度バランスを取ってしまうんでしょうね。ただただみっともないものを作るという作風ではないし、僕の性格ではないんですね、きっと」

 それでも、人間は懲りずに恋愛を繰り返してしまう。

 「そういうところへの愛着もありますしね。人間に」

 制作中も、世界は激しく動いていた。ロシアのウクライナ侵攻や安倍元首相の暗殺は、その時時でどう受け止めていたのだろう。

 「最初は拒否反応じゃないですけど、認めがたいというのがありましたかねえ。ウクライナの時とかだったら、ゼレンスキーさんのスピーチで、自分たちがなぜ抵抗するかっていう、市民も武器を持って抵抗するっていう時に『自分たちはウクライナの国土と、自分たちの物語を守るため』って訳されてた。その物語ってのが気になって、ナラティブってヤツなんですよね、たぶん。いろいろ本を、ナラトロジーみたいな小難しいのも読んでみたりして。すごい拡大解釈なんですけど、おっきい流れの一部に自分がのみ込まれるっていうんですかね、例えば国の歴史であるとか、大きい歴史の濁流に自分がのみ込まれるっていうのは、もしかして気持ちいいんやろうっていうのもなんとなく分かるんですよね。

 というのも、自分もたまに、僕はロックンローラーの端くれとしてみたいな言い方をするんですよね。そういうのってやっぱり気持ちいい。脈々と受け継いできたものの末端、人間としての自負があって、とか。もしかしてこれのことを言ってる?と思って。だから最近若者が言う、主語がデカいってやつですね。主語が日本とかになる感じ。僕の場合だと、それがパンクとかになるっていう。一応パンクスなんで、とか言う時って、やっぱちょっと気持ちいい。例えばライブでわーって言う時は、なにがしか大きなものにのみ込まれ、人との境界がないというか、みんなで大きい一つだね、とか。あれもまた気持ちいい。その気持ちよさを知っているが故に、やっぱり恐ろしいなというのを最初思ったんですね」

 いわゆる「大きな物語」への相反する思いを抱いていた。それが「恋愛大全」というアルバムを生む推進力にもなったようだ。

 「新しいアルバムを作るとしたら、そのナラティブみたいなものがテーマになるのかなって一瞬思ったんですよね。でも、結局そうじゃない気がして。もうちょっと細やかな物語に説得力があるべきって思う。個人個人の、共有できない方の物語。祖国とかじゃなくて、もっと個人的な、自分だけにしか流れていない物語こそ書くべきじゃないの?と思ったんですね、きっと」

 パンデミック、戦争、宗教、要人暗殺といった“大きな物語”に圧迫されている個々人が、恋愛のような“小さな物語”を取り戻せるようにという願いがアルバム「恋愛大全」。ドレスコーズ=志磨遼平のレジスタンスは続く。(終わり)

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